初級翻訳・おもちゃの蝙蝠 第1話

おもちゃの蝙蝠

あるところに、一匹のコウモリがいました。
それはおもちゃで、ボール紙を切り抜いた上に、紫色のきれいな紙がはってありました。
そして、小さなゼンマイじかけで、バタバタと飛ぶように作られていたのです。
ところが、ある日のこと。このコウモリが、どういうわけか、自分を作った職人のお店へと帰ってきました。
まちは青いガス灯がまたたき始める頃で、職人はその日の仕事を終え、木の馬や鳥、そしてこのコウモリの弟にあたるたくさんのコウモリたちを片づけてから、タバコに火をつけて一服しているところでした。
そのとき、職人はむこうの曲がり角から、地面すれすれに鳥のようなものがヒラヒラとこちらへ飛んで来るのに気づきました。
でも職人は、すぐにそれが自分で作ったコウモリなのだとわかりました。
「いったい、何かしかけをわすれていたかな? それとも、ゼンマイが弱すぎたのかな?」と思いながら見つめていると、コウモリは窓から職人のすわる仕事の机の上へと、コツンと降り立ちました。
「どうしたんだい?」
職人は少し心配しながら、そしていたわるように声をかけました。
すると、コウモリはこう言いました。
「空が高すぎて、上っていけないんだ。」
「そうかい。」
職人は、やっぱりゼンマイが弱かったんだと思いながら、コウモリを手に取って調べました。
そしてすぐに新しいゼンマイととりかえて、それを巻くと、コウモリを手に持ったままおさえていた羽をパッと放しました。
パタパタパタ……と、飛んできたときの元気なようすとはくらべものにならないくらい、飛行機のようにすごい勢いで、羽ばたきを始めました。
「オーライ!」
職人はこう叫んで、コウモリを窓から外へ投げ出してやりました。
するとコウモリはそのままスーッと真っすぐ、風車のしかけで回っている広告塔の方へむかって、見えなくなっていきました。
それを見送りながら、職人はまたパイプにくわえなおし、もとのようすで腰を下ろしました。
ところが、次の日の夕方になると、またあのコウモリがもどってきて言いました。
「空が高すぎて、上っていけないんだ。」
職人はすぐに「そうか」と気軽に言うと、もう一度、新しくてじょうぶなゼンマイにとりかえて、空へ放しました。
今度は、コウモリはさっきとは反対の西の方へ、ものすごいスピードで飛んでいきました。
ところが、コウモリはその次の日も同じようにもどってきて、おなじことをくり返しました。
「空が高すぎて、上っていけないんだ。」
やっぱり同じことを言うのです。
「なんとも手のかかるコウモリだなあ」
職人はさすがに少しがっかりしたものの、お店の棚の上からブリキのきかんしゃを下ろして、それについていた一番つよいゼンマイを外してとりかえてやりました。
すると三度目に、コウモリはまっすぐに公園の空へむかって、ものすごく元気に矢のように飛んでいきました。職人は、コウモリが見えなくなったあともしばらく空から目を離せず、その見事さに自分でも感心して立っていたほど、それはもう本当に鳥のように高く高く上っていったのです。
パタパタパタパタ……。
そうしてその次の日も、またその次の日も、コウモリは姿を見せませんでした。
だから職人は、今度こそはまちがいなく天まで上っていったんだなと思いました。
ところが、その三日目に、またもやもどってきたではありませんか。
「空が高すぎて、上っていけないんだ。」
「もうとりかえてやろうにも、新しいゼンマイなんてないんだよ!」
職人はなんだか少しイライラしたようにそう言いました。それを聞いて、おもちゃのコウモリは泣きました。
そのおもちゃのコウモリが、昨日の夜、私の窓へヒラリと飛びこんできて、こう言って泣いたのです。
「なにをするにも、人だのみじゃダメだ。ぼくは、ほんもののコウモリになりたいんだ。」
――これでおしまい――

コメント

タイトルとURLをコピーしました