初級翻訳・はだかの王さま 第2話

はだかの王さま

それにこの色のあざやかなこと! このことを王さまに伝えれば、王さまもきっとお気にめすにちがいないわい。」
「そのお言葉を聞けて、ありがたきしあわせです。」
二人のさぎ師が、そろってそう言いました。
「では、王さまによりくわしく知っていただくために、この布についてこまかくご説明いたしましょう。」
さぎ師は、からっぽのはた織り機の前でしゃべりはじめました。
色がこいとかうすいとか、もようがうねうねしているとか、まっすぐだとか。
ことこまかに説明するのです。
大臣はその説明を、一言ももらさず聞き入っていました。
なぜなら、大臣はあとで王さまにもう一度、同じことを一言一句まちがえずに伝えなければならないからです。
もしここで一言でもまちがえようものなら、あとで王さまがほんものを見たときに、大臣には布が『見えなかった』ということがバレてしまいます。
だから大臣は、聞いたことをそのまま王さまに話すことにしました。
大臣が帰るとき、さぎ師たちはもっとたくさんの金の糸と絹がほしいと言いました。
布を織るためにひつようなのだと言うので、王さまはすぐに持ってこさせました。
でもやはり、さぎ師たちは金の糸や絹を一本も使わず、すべて自分のポケットにしまいこんでしまいました。
そして、相変わらず何もないからっぽのはた織り機に向かって、織るふりをずっとつづけたのです。

それからまもなく、王さまはもう一人の家来をさぎ師のところへ向かわせました。
この役人も、心根(こころね)のまっすぐな立派な人物でした。
役人の仕事は、布の仕上がりぐあいと、完成する日にちを調べてくることでした。
しかし、この役人も大臣と同じように、見えたのはからっぽのはた織り機だけでした。
なんどもなんども目をこすって見ましたが、どうしてもからっぽにしか見えません。
「どうなされたのですか? もしかして、お気に召さないとか……?」
二人のさぎ師は不安そうにたずねてきました。
そして、何もないはずの布を、まるであるかのように手で持ち上げて見せびらかせたのです。
「ほら、この王さまのえらさにぴったりのすばらしいもようですが……どうでしょうか?」
さぎ師はそう言いますが、布はどこにもありません。
役人は心の中で思いました。
「わたしはバカではない。
となれば、自分にふさわしくないダメな仕事をしているというわけか。
いや、そうだ、バカではないはずだ。
おそらく……この布はとびきり風変わりなものなのだろう。
しかし、このことを、だれにも知られてはならないのだ……!」
役人は少し考えてから、こう言いました。
まるでその見えない布がくっきりと見えているかのように。
「たいへんみごとな布だ! 色合いも美しいし……柄ももうしぶんない。
わたしはこんなすばらしい布を見られて、とてもうれしいよ!」
そうして城に帰った役人は、王さまに向かってこう言いました。
「たいへんけっこうなものでした!」

街はそのめずらしい布のうわさでもちきりでした。
うわさがどんどんもり上がっていくうちに、王さまも自分の目で直接見てみたくなってきました。
日に日にその思いは強くなるのですが、いっこうに布は完成しません。
王さまはいてもたってもいられなくなって、たくさんの役人たちを連れて、二人のずるがしこいさぎ師の仕事場へと向かいました。
連れていった役人の中には、先ほど布を見に行った二人の姿もありました。
さぎ師の仕事場に着くと、二人は相変わらずいっしょうけんめいに働いているふりをしていました。
糸を一本も使っていないのに、ものすごくまじめに仕事をしているように見せかけていたのです。
「さあどうです、王さまにぴったりな、たいそうりっぱな布でしょう?」
前に来たことのある二人の役人が、まわりのみんなに向かって言いました。
「王さま、王さまならこの布の色合いや柄を、きっとお気にめすことでしょう!」
そして、二人はからっぽのはた織り機をゆびさしました。
自分たちに見えないのだから、他のみんなにもこの布はちゃんと見えていると、二人は本気で思っていたのです。
でも……。
「なんだこれは? 何もないじゃないか!」と、王さまは心の中で思いました。
王さまは、「もし自分がバカな王さまだったらどうしよう」と思うと、だんだんこわくなってきました。
また、「自分は王さまにふさわしくないダメな人間なのだろうか」と考えると、おそろしくてたまりませんでした。
それは王さまにとって、いちばんおそれていることでした。
自分が王さまでなくなるなんて、そんなこと耐えられません。
だから王さまは、本当は見えていないのに、さぎ師たちを見てこう言ったのです。
「まさしく、すばらしい布であるな!」この布がすばらしいのは、わたしもみとめるところであるぞ。」王さまはまんぞくそうにうなずいて、からっぽのはた織り機に目を向けました。
何も見えないということを知られたくなかったので、からっぽでも、布があるかのように王さまは見つめました。
同じように、王さまがつれてきた役人たちも見つめました。
王さまが見ているよりももっと見ようとしました。
でもやっぱり、何も見えてはいませんでした。
「これは美しい、美しい。」
役人たちは口々に言いました。
「王さま、この布で作ったりっぱな服を、ちかぢか行われる行進パレードのときにおめしになってはどうでしょう。」
と、誰かが王さまに言いました。
そのあと、みんなが「これは王さまにふさわしい美しさだ!」とほめるものですから、王さまも役人たちもうれしくなって、大さんせいでした。
そして王さまは、二人のさぎ師を『王国とくべつはた織り士』と呼ばせることにしました。
パレードの行われる前日の晩のこと、さぎ師たちは働いているように見せかけようと、十六本ものロウソクをともしていました。
人々は家の外からそのようすを見て、王さまの新しい服を仕上げるんだいそがしいんだ、と思わずにはいられませんでした。
さぎ師はまず布をはた織り機からはずすふりをしました。
そしてハサミで切るまねをして、糸のない針でぬい、服を完成させました。
「たった今、王さまの新しい服ができあがったぞ!」
王さまと大臣全員が大広間に集まりました。
さぎ師はあたかも手の中に服があるように、両手を挙げてひとつひとつ見せびらかせました。
「まずズボンです!」
「そして上着に!」
「最後にマントです!」
さぎ師は言葉をまくしたてました。
「これらの服はクモの巣と同じくらいかるくできあがっております。
何も身につけていないように感じる方もおられるでしょうが、それがこの服がとくべつで、かちがあるといういわれなのです。」
「まさしくその通りだ!」大臣はみんな声をそろえました。
でもみんな何も見えませんでした。
もともとそこには何もないんですから。
「どうか王さま、ただいまおめしになっている服をおぬぎになって下さいませんか?」
さぎ師は言いました。
「よろしければ、大きなかがみの前で王さまのお着がえをお手伝いしたいのです。」
王さまはさっそく服をぬぎました。
二人のさぎ師はあれやこれやと新しい服を着つけるふりをしました。

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