「よぉ~るのスぅ~プ
すてきなすてきなスープ!」
着くと、キングとクイーンが高いところに座っていて、そのまわりには大勢がお集まりです。ジャックが引っ立てられていて、キングの座る前にはあの白ウサギが、片手にトランペット、もう片手に羊の皮の巻き紙を持って立っています。
「しきり役! 犯した罪を読み上げよ!」とキングが命じました。
これを受けて、白ウサギはトランペットを3吹きしてから巻き紙を広げ、こう読み上げました。
「ハートのクイーンがタルトを作る
夏のさなか1日かけて
ハートのジャックがタルトをぬすむ
かくれてこっそりひとりじめ!」
「さて、これよりたしかめる」とキング。「そののち言いわたす」「いいえっ!」とクイーンが叫びました。「言いわたすのが先、たしかめるのは後!」
「そんなのデタラメ!」とアリスが叫びました。あまりの大声に、まわりのみんなはびっくりして飛び上がりました。「言いわたすのが先だなんて、聞いたことがないわ!」
「黙りなさい!」とクイーンがどなりました。
「黙らないわ!」とアリスも言い返します。「あんたたちなんて、ただのトランプじゃない! 誰が言うことなんて聞くもんですか!」
その瞬間、トランプたちが一斉に宙へ舞い上がり、空からアリスの上にハラハラと降り注いできました。
アリスが「きゃっ!」と驚いて、それを手で払いのけようとしたとき、気がつくと自分は池のほとりにいて、お姉さまのひざに頭を乗せて横になっていました。木の上から、枯れ葉がアリスの顔や髪にひらひらと落ちてくるのを、お姉さまがやさしく払ってくれていたのです。
「起きて、アリスちゃん」とお姉さまが言いました。「ずいぶん長々とお昼寝をしていたのね」
「ねえ、お姉さま、あたし、とっても不思議な夢を見ていたの!」とアリスは、今までお話ししてきたような地底めぐりの冒険を、全部お姉さまに語って聞かせました。お話が終わると、お姉さまはアリスにキスをして、こう言いました。
「本当に、とっても不思議な夢だったわね! でも、もうすぐおやつの時間だから急がないと。このままだと遅刻しちゃうわよ」
アリスは立ち上がって走り出しました。走りながらも、心の中はさっきまでの不思議な夢のことでいっぱいです。
お姉さまは、そのまましばらくそこに座り、夕暮れの景色を眺めていました。小さかったアリスの地底での冒険について思いを巡らせているうちに、今度は自分もうつらうつらと夢を見始めました。
目の前には、大昔の大きな街があり、そのそばの原っぱを川が静かに流れています。その川を、楽しそうな子どもたちを乗せたボートがゆっくりとさかのぼっていきます。おしゃべりの声や、水面に響く音楽のような笑い声が聞こえてきます。その中には、あのアリスの姿もありました。きらきらと目を輝かせて、語られるお話に聞き入っています。お姉さまがそのお話に耳を澄ませてみると、なんと! それは妹のアリスが見た夢とそっくりそのままのお話でした。
ボートはきらきら輝く夏の日の光の中をゆっくりと進み、やがて川の曲がり角を過ぎると、何も見えなくなりました。
そうして(いわば夢の中の夢として)、お姉さまは想像しました。この小さなアリスが、やがて一人の女性へと成長していく姿を。
大人になっても、子どもの頃の素直で温かい心をずっと持ち続けていくのだろうか。そして、かつての自分と同じように、たくさんの子どもたちを周りに集めては、不思議なお話をしてその子たちの目をきらきらと輝かせるのだろうか。
そのお話は、遠い昔に小さなアリスがめぐった、あのお話そのものだったりするのかもしれません。悲しむ子どものそばで一緒に寄り添い、はしゃぐ子どもの声に囲まれて、楽しかったあの幸せな夏の日々を、自分の子どもの頃の思い出として懐かしむことになるのでしょうか。『アリスの地底めぐり』の底本である『Alice’s Adventures Under Ground』は、現在大英図書館に所蔵されている貴重な手稿本です。本翻訳にあたっては、そのフルカラー・ファクシミリ版である「BL」を最終的な依拠本とし、現在もっとも信頼できる活字翻刻として「PC」を採用しました。また、1886年に出版された白黒複製版のリプリントである「OW」を適宜参照し、手稿本のモノトーン・ファクシミリである「DO」で最終ページの確認を行いました。さらに、「PC」で不明瞭な箇所(ネズミのしっぽの詩など)については、「ET」の活字翻刻を補助資料として活用しています。
読者としてのアドバイスを少しお伝えしておくと、「BL」は経年劣化があるため、読み物というよりは研究やコレクション向けです。「PC」は活字化されていますが、自筆の挿絵がすべて収録されているわけではありません。もしキャロルの手稿本を純粋に楽しみたいのであれば、1886年に一般向けに出版された「OW」のリプリント版も良い選択肢です。「OW」は白黒版ですが、絵の筆致は元の質から少し劣化しています。一方、「DO」のファクシミリは元の紙の色を反映して全ページが灰色がかっており、序文や巻末の詩はついているものの、じっくり読むのにはあまり向いていません。「PV」は日本で『不思議の国のアリス:オリジナル』として出版されているものの原本ですが、現在では「BL」が出ているため、資料的な価値にとどまるでしょう。「ET」は、文字コードの世界で有名な人物が運営する出版社から出ており、プロジェクト・グーテンベルクのデータを元に、読みやすく編集されています。挿絵もすべて収録されているので、活字本として読むならこれも選択肢の一つです。
『アリスの地底めぐり』の文体は、当時の一般的な文章とも、のちに完成した『不思議の国のアリス』とも少し異なっています。その特徴をまとめると以下の通りです。
・一文がとても長い
・カッコ書きによる心の声や補足が多い
・キャラクターの個性よりも、物語の奇想天外な展開に重点が置かれている
・言葉遊びはまだ少なめである
一文が長いといっても、文章が難しいわけでも、凝りすぎているわけでもありません。ごくシンプルな文がただ長く続いていたり、普通ならピリオドで区切るような場所を、コンマやコロン、セミコロンで一気につなげていたりするのです。それはまるで、言いたいことをわーっと一息でしゃべりきってしまうような、そんな勢いを感じさせます。
また、カッコ書きの内語については、物語を語りながら、自分自身でその文章にツッコミや補足を入れるような形になっています。再説明や言い訳、あるいは照れ隠しなど理由はさまざまですが、物語のいたるところにカッコが現れ、必要かどうかにかかわらず、その奇天烈な世界をアリスが補足していくようなスタイルになっているのです。のちに『不思議の国のアリス』として出版されたものと比べると、この手稿本にはカッコ書きが非常に多く、出版の際に削られてしまった部分まで、しつこいほどにカッコでくくられています。
また、『不思議の国のアリス』との大きな違いとして、キャラクターの奇妙さよりも、物語を語るという行為そのものが重視されており、不思議な登場人物がまだほとんど出てこないという点が挙げられます。
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