初級翻訳・ふしぎ国探検 第22話

ふしぎ国探検

『エネルギー保存の法則』というものがあるのを知っていますか?
これは、宇宙にあるエネルギーをぜんぶ合わせたものは、いつでも同じ量であって、増えたり減ったりしないという法則です。
だから、もしも仮に、エネルギーをまったく使わないで動くものができたとしたら、そのときには宇宙のエネルギーはどんどん増えていってしまうことになります。
そうすると、これはたった今お話しした『エネルギー保存の法則』に真っ向から反することになってしまうわけです。
だからこそ、エネルギーなしで動くようなものは、絶対に作ることはできないのです。
わかりましたか?」
「うーん……。
わかったような、わからないような……」
「わからないのは、今お話しした法則があるということを最初にちゃんと考えていないからなのですよ。
出発点がまちがっているのです。
もう一度よく考え直してごらんなさい」
「まだ、よくわかりません」
「それは困りましたね。
それではね、自転車に潤滑油をさすとしましょう。
ところが、ある人がいて、油のかわりに水をさしてもいいんだと思いこんでしまい、まわりの人がいくら教えても自分の考えをなおそうとしない。
そして、油のかわりに自転車へ水ばかりをさしつづけたとします。
すると、この自転車はどうなってしまうでしょうか」
「そんなの、自転車の軸受けがさびてダメになってしまうだけだよ」
「そのとおりです!
水は油の身代わりにはならない。
そういう大切な法則を、その人は最初から信じなかった。
だから、やがてその自転車がダメになってしまうことが、その人には理解できなかった。
そういうことですね」
「はい、そうです」
「君たちはまず、『エネルギー保存の法則』というものがあるんだということをしっかりと覚えてください。
それがわかれば、何もないところからエネルギーを作り出すような永久機関なんて、絶対にできるわけがないということが、理解できるようにならなければいけないのです」
「ああ、そうか!
いま、やっとわかりました」

おわかれ

「永久機関にはね、じつにもう一つの種類があるのですよ。
それは、熱を温度の低いところから高いところへ移して、永久機関を作り出そうというものです」
「なんですか、それは?」
「たとえば、摂氏十五度のものを摂氏十四度に下げて、その一方で別の摂氏十五度のものを摂氏十六度にあげるのです。
こうして、一方の温度をどんどん下げていって、もう一方の温度をあげていく。
もしそんなことができるなら、燃料の問題で困ることもなくなるわけですし、燃料は永久に使い放題、永久機関だって作れることになりますが、本当はそんなことはできないのです」
「ななんだ、できないのかあ」
「『熱力学第二の法則』というものがあるのをご存知ですか。
それによると、温度の低いものから高いものへと、自然に熱を移すことはできないのです。
ですから、この法則を知らない人が、さきほど言ったような永久機関を考えてしまい、やっぱり同じように失敗するわけです」
「そうすると、永久機関って名前のつくものは、どんなものでも、ぜんぶダメなんですね」
「そのとおりです。
どうか、そのことを決して忘れないでいてくださいね」
 そのとき、ポーデル博士は操縦席からスッと立ち上がって、二人のほうへ歩いてきました。
「東助さん、ヒトミさん。
いよいよ、お別れのときがやってきましたよ。
あなたたちの『ふしぎ国探検』も、今日で終わりになります」
「まあ!
本当なんですか、先生?」
「先生、それはダメだよ!
もっとふしぎの国はたくさんあるんでしょう?
いつまでも、ぼくたちをふしぎな国へ案内してよ!」
「いやいや、まあ、第一期はこのあたりでちょうどいいでしょう。
またそのうちに何年かたって、いい時期がきたら、ふたたび案内してあげましょうね。
なかなかむずかしい国もありましたが、よくがまんして、私によくついてきましたね」今までに探検したところは、みんなとっても大切な場所ばかりなんだから、しっかり復習して、よく考えてください。
そのうち、これまでの探検のおもしろさが、心の底からわかるようになるはずですよ。
それでは、さようなら」
「あっ、先生、待ってください!」
「ポーデル先生、行かないでいやです!」
 東助とヒトミは大声をあげましたが、そのときにはもう、樽ロケットの室内の景色もポーデル博士の姿も消えてなくなるように見えなくなっており、二人はあたり一面を覆う緑の草むらの原っぱの中に、ぽつんととり残されていたのでした。

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