初級翻訳・アラビヤンナイト 第2話

アラビヤンナイト

宝物と聞いて、アラジンはさっきまでの恐怖すっかり忘れ、すっかり心を躍らせてしまいました。
そして、魔法使いの言う通りに石の上の輪に手をかけると、あんなに重そうな石が、うそのようにすんなりと持ち上がりました。
「アラジンや、よくご覧。
そこに下へ降りていく石段が見えるだろう。
お前がその石段を一番下まで降りていくとね、大きなお部屋が三つ、ずらりと並んでいるんだ。
その部屋の間を通り抜けていくのだが、そのとき、お前の着ている上着のそでやそと側が、かべに絶対にふれないように気をつけなければいけないよ。
もし少しでもふれたが最後、お前は即座に命を落とすことになってしまうからね。
そうして、その三つの部屋を通りぬけると、今度は美しい果物畑がある。
その中をまた通りすぎていくとね、つきあたりに暗い穴ぐらがあるんだ。
その中に、ぽつんとランプがともっているから、そのランプを持ち上げて、中の油をすっかり捨ててから持って帰りなさい。
」
魔法使いはそう言いながら、お守りだと言って、ふしぎな光を放つ指輪をアラジンの指にはめてくれました。
そして、一刻も早く出発するようにと命じました。
アラジンは、魔法使いの言われた通りに石段を降りていきました。
何もかもが、魔法使いの言った通りの場所にありました。
アラジンは三つの大広間と果物畑を通りぬけ、ランプのある場所までやって来ました。
そこでランプを手に取り、言われた通り中の油をすっかり捨ててから、たいせつにふところへしまいこみ、ふとまわりを見まわしました。
アラジンは、夢の中でさえ、こんなにも見事な果物畑を見たことがありませんでした。
なっている果物はどれもこれも息をのむほど美しく、まるでそのあたり一面にきれいな虹が立ちこめているかのように輝いていたのです。
すきとおって水晶のように光るものもありました。
まっ赤な色をしていて、まるでぱちぱちと火花をちらしているようなものもありました。
そのほかにも緑、青、むらさき、だいだい色などの果物が実り、木の葉はなんとすべて金色と銀色でできていました。
実はこの果物たちの正体は、ダイヤモンド、ルビー、エメラルド、サファイヤといった本物の宝石だったのですが、世間知らずのアラジンにはそれがわかりませんでした。
それでも、あまりにも美しかったものですから、帰りにこれを少しポケットに入れて持ち帰ることにしたのです。
アラジンがようやく長い石段の下までたどり着いたころ、地上のほうでは、魔法使いが今か今かと下をのぞきこんで待っていました。
そして、アラジンが石段をのぼりはじめたのを見ると、
「おい、早くそのランプをよこすんだ!」
と言って、手をグイと差し出しました。
「ぼくが外へ出てから渡しますよ。
外に出たらすぐにあげますから。
そこからじゃ手がとどかないんですもの!」と、アラジンは答えました。
「もっと腕を上に持ち上げればとどくだろうが!
さあ、ぐずぐずせずに早く渡すんだ!」
おじいさんは真っ赤に怒った顔をして、どなりつけました。
「すっかり外へ出してから渡しますってば!」
アラジンは一歩も引かず、同じ言葉を繰り返しました。すると、魔法使いは、くやしがって地団駄(じだんだ)を踏みました。
そして、ふしぎな粉をたき火の中に投げ込みました。
口の中で何かぶつぶつ言いながら。
そうすると、たちまち石がずるずるとふたをしてしまい、地面の上へ帰る道がふさがってしまったのでした。
アラジンはまっ暗な地下へとじこめられてしまいました。
これで、そのおじいさんは、アラジンの伯父さんではないということがはっきりとわかりました。
この魔法使いは、魔法の力によって遠いアフリカで、このランプのことをかぎつけたのでした。
このランプは大へんふしぎなランプなのです。
そのことは、読んでいくにしたがって、だんだん皆さんにわかってくるでしょう。
しかし、この魔法使いは、自分でこのランプをとりに行くことはできないのでした。
だれかほかの人がとって来てやらなければ、だめなのでした。
それで、アラジンにつきまとったわけです。
そして、ランプさえ手に入ったら、アラジンを殺してしまおう、と思っていたのでありました。
けれども、すっかりあてがはずれてしまいましたので、魔法使いはアフリカへ帰ってしまいました。
そして長い長い間、中国へは、やって来ませんでした。
さて、地下へとじこめられたアラジンは、どこかに逃げ道はないかと、あの大広間や果物畑の方へ行ってみましたが、地面の上へ帰って行く道はどこにもありませんでした。
二日の間、アラジンは泣きくらしました。
そして、どうしても地下で死んでしまわなきゃならないのだと思いました。
そして、両方の手をしっかりと握り合わせました。
その時、魔法使いがはめてくれた指輪にさわったのでした。
すると、たちまち大きなおばけが、床からむくむくとあらわれ出て、アラジンの前に立ちはだかりました。
そして、
「坊ちゃん、何かご用でございますか。
私は、その指輪の家来でございます。
ですから、その指輪をはめていらっしゃる方のおっしゃる通りに、しなければならないのでございます。」
と、言うのです。
アラジンは飛び上がるほどよろこびました。
そして、
「私の言うことなら、どんなことでも聞いてくれるんだね。
よし、じゃ、こんなおそろしいところからすぐつれ出しておくれ。」
と、こうたのみました。
そうすると、すぐに地面へ上る道が開きました。
そして、あっというまに、もう自分の家の戸口まで帰っていました。
お母さんはアラジンが帰ったので、涙を流してよろこびました。
アラジンもお母さんにだきついて、何度も何度もキスしました。
それから、お母さんにこの間からのいちぶしじゅうを話そうとしましたが、お腹がぺこぺこでした。
「お母さん、何かたべさせてくださいな。
私はお腹がぺこぺこで死にそうなんです。」
と、アラジンが言いました。
お母さんは、
「ああ、そうだろうとも、ねえ。
だがこまったよ、もう家の中には、少しぽっちの綿よりほかには何にもないんだよ。
ちょっとお待ち、この綿を売りに行って、そのお金で何か買って来てあげよう。」
と、言いました。
するとアラジンは、
「お母さん、待ってください。
いいことがあります。
綿を売るよりも、この、私の持って帰ったランプをお売りなさいな。」
と言って、あのランプを出しました。
けれども、ランプは大へん古ぼけていて、ほこりまみれでした。
少しでもきれいになったら、少しでも高く売れるだろうと思って、お母さんはそれをみがこうとしました。
しかし、お母さんが、そのランプをこするかこすらないうちに、大きなまっ黒いおばけが、床からむくむくと出て来ました。
ちょうど、けむりのように、ゆらゆらとからだをゆすりながら、頭が天井にとどくと、そこから二人を見おろしました。
「ご用は何でございますか。
私はランプの家来でございます。
そして私はランプを持っている方の言いつけ通りになるものでございます。」
と、そのおばけが言いました。
アラジンのお母さんは、このおばけを見た時、こわさのあまり気をうしなってしまいました。

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