むかしむかし、大きな都に、ムスタフという貧しい仕立屋が住んでいました。
このムスタフには、おかみさんと、アラジンというたった一人の息子がいました。
お父さんのムスタフは本当にまじめな人で、一生けんめいに働きました。
けれども、悲しいことに、息子のアラジンは大のなまけ者でした。年じゅう町へ出かけていっては、同じようになまけ者の子供たちと遊びくらしていました。
何か仕事をおぼえなければならない年頃になっても、「そんなの絶対にいやだ!」と言ってはねつけるので、両親はこの子をどうしたものかと、すっかり困り果てていました。
それでも、お父さんのムスタフは、「せめて自分の仕事だけでもつがせよう」と思いました。
ある日、アラジンを仕事場につれて入って、仕立ての仕事を教えようとしましたが、アラジンはばかにしたように笑っているばかりでした。
そして、お父さんのすきを狙って、あっという間に逃げ出してしまったのです。
お父さんとお母さんはすぐに後を追いかけましたが、アラジンの足があまりにも速かったので、もうどこへ行ったのか、姿かたちはまったく見えなくなっていました。
「ああ、わしには、このなまけ者の息子をどうすることもできないのか……」
ムスタフは深く嘆き悲しみました。
そしてまもなく、息子の心配のあまり病気になってしまい、そのまま亡くなってしまったのです。
こうなると、アラジンのお母さんは、わずかに残っていた仕立て道具を売りはらい、その後は糸をつむいでなんとか日々のくらしを立てていました。
さて、ある日のこと。アラジンはいつものように、町のなまけ者仲間といっしょに、めんこ遊びをしていました。
するとそこへ、いつの間にか、背が高くて肌の色が黒いおじいさんがやって来て、じっとアラジンを見つめていました。
やがて、めんこ遊びが一勝負終わると、そのおじいさんはアラジンに「おいで、おいで」と手招きをしました。
そして、こうたずねたのです。
「お前の名前は何と言うのかな?」
この人はいかにも親切そうな顔をしていましたが、実は、遠いアフリカからやってきた恐ろしい魔法使いでした。
「ぼくの名前はアラジンです」
アラジンは、「いったいこのおじいさんは誰だろう?」と思いながらも、そう答えました。
「そうか。で、お前のお父さんの名前は?」魔法使いがまた聞きました。
「お父さんの名前はムスタフと言って、仕立屋でした。でも、もうずっと昔に死んじゃいましたよ」と、アラジンは答えました。
すると、この悪人の魔法使いは、大げさに声をあげました。
「ああ! それは私の弟ではないか! なんと、お前は私の可愛い甥っ子だったんだねぇ。私はしばらく外国へ行っていた、お前の伯父さんだよ!」
そう言うと、いきなりアラジンをぎゅっと抱きしめました。
そして、こう言ったのです。
「早く家へ帰って、お母さんに『伯父さんが会いに行きます』と伝えておくれ。それから、ほんの心ばかりのものだが……これをあげるよ」
そう言って、アラジンの手に金貨を五枚も握らせました。
アラジンは大いそぎで家に帰り、お母さんに「伯父さんだ」という人の話をしました。
するとお母さんは、「そりゃあ、きっと何かの間違いだよ。お前に伯父さんなんているもんか」と言いました。
しかし、お母さんがその人がくれたという金貨を見てみると、「もしかしたら、本当に親戚の人なのかもしれない」と思いました。
そこで、自分にできるか限りをごちそうを用意して、その人が来るのを待ちました。
まもなく、アフリカの魔法使いが、いろいろな珍しい果物やおいしいお菓子をどっさりおみやげに持ってやって来ました。
「亡くなった、かわいそうな弟の話をしてください。いつも弟はどこに座っていたか、私に教えてください」
魔法使いはお母さんとアラジンにそう頼みました。
お母さんが、いつもムスタフが腰かけていた長いすを教えてやると、魔法使いはその前にひざまずき、おいおいと泣きながらその長いすにキスをしたのです。
それを見てお母さんは、「この男は、亡くなった主人の兄さんにちがいない」とすっかり信じ込んでしまいました。
特に、この魔法使いがアラジンをなでまわすようにかわいがるのを見て、なおさらその思いを強くしたのでした。
「何か仕事はしているのかね?」
魔法使いがアラジンにたずねました。
「まあ、本当に恥ずかしいかぎりでございますよ。この子はしょっちゅう町へ行って遊んでばかりで、まだ何もしていないのでございます」
お母さんは手を合わせながら、そう答えました。
アラジンは、伯父だという人が自分をじっと見つめているので、恥ずかしそうにうつむいていました。
「何か仕事をしなくちゃいけませんな」
魔法使いはお母さんにそう言ってから、今度はアラジンに向かってこう言ったのです。
「お前はいったい、どんな商売がしてみたいのかね? 私はお前に、立派な呉服店を出させてやりたいと思っているのだが……」」と、言いました。
アラジンは、これを聞くと、うれしさのあまり天にものぼる気持ちではしゃぎました。
あくる日、伯父さんだという人は、アラジンにすてきな着物を一そろい買ってきてくれました。
アラジンはそれを着て、伯父さんにつれられ、町じゅうを見物して歩きました。
その次の日もまた、魔法使いはアラジンをつれ出しました。
そしてこんどは、美しい花園の間を通りぬけて、田舎のほうへ出ました。
ふたりはかなりの道のりを歩きました。
アラジンは、そろそろくたびれはじめました。
けれども、魔法使いがおいしいお菓子や果物をくれたり、めずらしい話を次から次へと聞かせてくれたりしたものですから、大してつかれも感じませんでした。
そうして歩くうち、ふたりはとうとう、山と山にはさまれた深い谷へとやって来ました。
そこでようやく、魔法使いが足をとめました。
「さあ、ここへ着いたぞ。
まずは、たき火をしようじゃないか。
かれ枝を少し拾ってきておくれ。
」と、アラジンに言いました。
アラジンはさっそく、かれ枝を拾いに行きました。
そして、すぐに両手いっぱいにかかえて戻ってきました。
魔法使いはそこに火をつけました。
かれ枝はみるみるうちに燃え広がっていきました。
おじいさんはポケットからふしぎな粉を取り出しました。
それから、口の中で何かぶつぶつと呪文をつぶやきながら、火の上にそれをふりかけました。
すると、たちまち大地がぐらぐらとゆれはじめました。
そして、目の前の地面がぱっとわれ、大きな、まっ四角な平たい石があらわれました。
その石の上には、持ち手のための輪がついていました。
アラジンはこわくなって、家にむかって逃げ出そうとしました。
けれども、魔法使いはそれを許しませんでした。
アラジンのえりがみをつかんで、力ずくで引きもどしました。
「伯父さん、どうしてこんなひどいことをするんですか!」
アラジンは泣きじゃくりながら見上げました。
「だまって、私の言う通りにするんだ。
この石の下には、とてつもない宝物が眠っている。
それをお前にも分けてやろうというのだよ。
だから私の言う通りにするんだ。
すぐにここから出してやるからな。
」
と、魔法使いは言いました。
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