初級翻訳・ガリバー旅行記 第8話

ガリバー旅行記

戦争が始まってからというもの、両国の人々は行き来してはならないことになっており、船が港に出入りすることも皇帝の命令できびしく禁止されていたので、私の存在は、まだ敵側には知られていないはずでした。
そこで私は、皇帝に一つのすごい作戦を提案しました。
「斥候の報告によると、敵の全艦隊は順風を待って出動しようと、いま港に錨を下ろしているそうです。私がその船をすべて、残らずとっつかまえて御覧に入れましょう!」

 それを聞いた私は、まず水夫たちに海の深さを尋ねてみました。
彼らは何度も測ったことがあるのでよく知っていましたが、それによると、満潮のときでも真ん中の深さは七十グラムグラム(これはヨーロッパの尺度でおよそ六フィートにあたります)、そのほかの場所ならだいたい五十グラムグラムだということです。
私はちょうど正面にブレフスキュ島が見える北東の海岸へと向かいました。
小山の陰にこっそり腹ばいになりながら望遠鏡を取り出して覗いてみると、敵の艦隊は約五十隻の軍艦と、たくさんの運送船をいかりで停泊させていました。
そこで私は家にとんぼ返りすると、リリパットの人たちに、丈夫な綱と鉄の棒をできるだけたくさん持って来るように命じました。
綱は荷造り糸くらいの太さで、鉄棒はおよそ編み針くらいの長さでした。
だから、これをもっと頑丈にするために、綱は三本をより合わせて一つにしました。
鉄棒も同じように三本をより合わせて一本にし、その端をフックのように曲げました。
こうしてできた五十本のフックを、一つひとつ、五十本の綱にしっかりと結びつけました。
それから再び海岸へと引っ返し、満潮になる一時間ほど前から、私は上着と靴と靴下を脱ぎ捨て、革のチョッキを着たまま、ジャブジャブと海の中に入っていきました。
大急ぎで海の中を歩き、真ん中の深いところを三十ヤードばかり泳ぐと、あとはしっかりと足が立地ました。
三十分も経たないうちに、私はあっという間に敵の艦隊の目の前に現れました。
突然あらわれた私の姿にびっくりした敵は、すっかりあわてふためき、我先にと海に飛び込むと、岸の方へ向かって必死に泳いで逃げていきました。
その人数は、三万人を下らなかったことでしょう。
そこで私は持ってきた綱を取り出し、軍艦の船首にある穴に一つひとつフックを引っかけていき、すべての綱の端を一つに結び合わせました。
こうしている間にも、敵は何千本という矢をいっせいに射かけてきます。
矢は私の両手や顔に激しく降り注ぎ、痛いのなんのってありませんが、これではまったく仕事の邪魔になって仕方がありません。
一番心配だったのは、目をやられてしまうことでした。
「今につぶされてしまうのではないか」と、私はイライラしてしまいました。
ところがそのとき、ふと素晴らしいことを思いついたので、私はやっと助かりました。
私には、あの身体検査のときには見せずに、こっそりポケットに隠しておいた眼鏡があったのです。
その眼鏡を取り出すと、しっかりと鼻にかけました。
これさえあればもう大丈夫。私は敵の矢など気にかけず、平気で仕事を続けました。
眼鏡のガラスに矢が当たることが何度もありましたが、これは眼鏡をちょっとグラつかせるだけで、大した問題ではありませんでした。
すべての船にフックをかけ終えると、私は綱の結び目をつかみ、ぐいと引っ張りました。
ところが、どうしたことでしょう、船は一隻も動きません。
よく見ると、船はどれも錨を下ろして、海底にしっかりと固定されていたのです。
そこでまた、とてもやっかいで、骨の折れる仕事が始まりました。
フックのかかったままの綱をいったん手から放し、それから小刀を取り出して、錨の綱をザクザクと次々に切っていきました。
このときも、顔や手に二百本以上の矢がビュンビュンと飛んできました。
さて、ふたたびフックをかけた綱を手に取り上げて引っ張ってみると、今度はスルスルと簡単に動き出しました。
こうして私は、敵の軍艦五十隻をまとめて引っ張って帰ることに成功したのです。
ブレフスキュの人たちは、私がいったい何をしようとしているのか見当もつかなかったので、はじめのうちはただ呆れ返っているようでした。
私が錨の綱を切るのを見て、「船を勝手に流してしまうのか、それとも船同士をぶつかり合わせるつもりなのかしら」と思っていたようですが、いよいよ全艦隊が私の綱に引っ張られてすんなりと動き出したのに気づくと、突然みんなで泣き叫び始めました。
彼らが嘆き悲しむ様子といったら、もう何と言っていいのかわからないほど凄まじいものでした。
さて、私は一休みするためにいったん立ち止まり、手や顔にいっぱい刺さっていた矢を引き抜きました。
以前小人たちからもらった、矢の傷に効く特別な薬をその傷あとにしっかりと塗り込みました。
それから眼鏡をはずし、潮が引くのをしばらく待ってから、たくさんの船を引き連れながら海峡の真ん中を渡り、無事にリリパットの港へと帰り着いたのです。海岸では、皇帝も廷臣も、みんなが、私の戻って来るのを、今か今かと待っていました。
敵の艦隊が大きな半月形を作って進んで来るのは、すぐ見えましたが、私の姿は、胸のところまで水につかっていたので、見分けがつかなかったのです。
私が海峡の真中まで来ると、首だけしか水の上には出ていなかったので、彼等はしきりに気をもんでいました。
皇帝などは、もう私は溺れて死んだのだろう、そして、あれは敵の艦隊がいま押し寄せて来るところだ、と思い込んでいました。
けれども、そんな心配はすぐ無用になりました。
歩いて行くうちに、だんだんと海は浅くなり、やがて、人声の聞えるところまで近づいて来たので、私は、艦隊をくくりつけている綱の端を高く持ち上げ、
「リリパット皇帝万歳!」
と叫びました。
皇帝は大喜びで私を迎えてくれました。
すぐ、その場で、ナーダックの位を私にくれました。
これはこの国で最高の位なのです。
ところが、皇帝は、
「またそのうち、敵の艦隊の残りも全部持って帰ってほしい。」
と言いだされました。
王様の野心というものは、かぎりのないもので、陛下は、ブレフスキュ帝国を、リリパットの属国にしてしまい、反対派をみな滅し、人民どもには、すべて卵の小さい方の端を割らせる、そして、自分は全世界のたった一人の王様になろう、というお考えだったのです。
しかし、私は、
「どうもそれは正しいことではありません。それにきっと失敗します。」
と、いろいろ説いて、皇帝をいさめました。
そして、私は、
「自由で勇敢な国民を奴隷にしてしまうようなやり方なら、私はお手伝いできません。」
と、はっきりお断りしました。
そして、この問題が議会に出されたときも、政府の中で最も賢い人たちは、私と同じ考えでした。
ところが、私があまりあけすけに、陛下に申し上げたので、それが、皇帝のお気にさわったらしいのです。
陛下は議会で、私の考えを、それとなく非難されました。
賢い人たちは、ただ黙っていました。
けれども、ひそかに私をねたんでいる人たちは、このときから、私にケチをつけだしました。
そして、私を快く思っていない連中が、何かたくらみをはじめたようです。

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