部屋の中は、窓から少しだけ光がもれているだけで、窓にはよろい戸がすっきりと下ろされています。
真ん中には丸いテーブルと椅子が一つあって、そのテーブルの上には「345」のメダルがぽつんと置いてありました。
ポン公はあわてて窓の方へとんでいきました。
でも窓はしっかりしめきっていて、ここからにげだすことはとてもできそうにありません。
ポン公はしかたなくあきらめて、持ってきていたチーズをクロに差し出しました。
しかしクロはそれを食べようともせず、しきりにポン公の服をひっぱります。
見ると、部屋の壁の一つに、一メートル四方くらいの鉄の扉がはめこまれていました。
あれこそ、あのターマンが開けたがっている扉に違いありません。
よく見ると、クロの首には小さな銀の鍵がさがっていました。
ポン公はそっとその鍵を取り外しました。
鉄の扉には、1から9までの番号がついた鍵穴が並んでいます。
クロはそのうちの「9」の鍵穴を、足でちょんちょんとかきました。
「ここだな!」
ポン公は小声でささやきました。
ところが、鍵を鍵穴にさしこんで、くるくる回してみても、扉はびくとも開きません。
でも、ぼやぼやしている時間はありませんでした。
部屋の外には、ピストルを持った怖い男が待っているのです。
ポン公はあせってしまい、何度も鍵をむやみに回しているうちに……ガチャンと音がして、ついに扉が開きました!
ところが、扉が開いたその中には、なんとまた別の鉄の扉がそびえ立っていました。
その扉にも、同じように1から9までの鍵穴がついています。
するとクロは、今度は「2」の鍵穴を足でかきました。
ポン公はあわててそこに鍵をさし入れましたが、今度の扉はいくらやっても開きません。
何度鍵をくるくる回しても、かたく閉ざされたままです。
そのとき、部屋の扉が外からドンドンと荒々しくたたかれました。
ポン公はすっかり青ざめてあわてました。
最初の扉をとっさに閉めると、勝手にビーンと音がして錠が下りてしまいました。
ふたたび、部屋の扉がドンドンと激しくたたかれます。
「今日はもうだめだ、また今度くるよ!」
ポン公はそう言いながら、クロの首にふたたび銀の鍵をかけてやりました。
「もう少しだけ、がんばって待っていておくれよ。」
クロはさみしそうに、ポン公の首にぎゅっとすがりつきました。
ガチャリと、部屋の扉が少しだけ開けられました。
すきまから男がピストルをちらつかせて、冷たく言い放ちます。
「おい、早くしないか!」
「うん、もうすんだよ!」
ポン公が落ち着いたふりをして部屋から出ていくと、男はクロを部屋の中にぐいと押しやって、バタンと扉を閉めてしまいました。
ポン公は外に出ると、またあの二人の男たちから、体中をくまなく調べられました。
命がけのとんでもない大冒険でしたが、それでもやっただけの価値はありました。
ポン公は白ひげのおじいさんのもとへ戻ると、これまでの出来事をすっかり話しました。
ただ、最初の扉を開けたとき、あせっていたので鍵を何回回したのか、それだけがどうしても思い出せませんでした。
「まあ、いいさ。」
おじいさんはニコッと言いました。
「最初の扉は『9』の鍵穴で、鍵を何回か回したこと、そして次の扉は『2』の鍵穴ということ……それだけでもわかれば、謎を解く大きな手がかりになる。
それはきっと『345』のメダルとも深く関係していそうだな。
よし、わしがひとつ、その謎を解き明かしてみせよう。」
おじいさんは、すっかりその謎解きに夢中になっていました。
一方のポン公も、時々シロを連れていって、窓越しにクロと連絡をとらせなければなりません。
そして、海の沖に浮かんでいるあやしい船のようすも、しっかり見張り続けなければなりませんでした。
あのターマンは、それからすっかり姿をくらましていました。
そうして四、五日が過ぎました。
いつもはひっそりとしていて人のいないトム商会の店の中が、その日はめずらしく大にぎわいでした。
店内にはたくさんのお客さんがめいめいつめかけています。
なんでも、とくべつの大売り出しの日なのだそうです。
いなくなってしまった主人の記念として、店の中のどんな品物でも半額の値段で売るというのです。
夜になると、客の数はさらに増えて、一そう多くの人たちが店になだれ込んできました。
中には、買い物をせずにただのぞき見に来ているだけのような連中もまじっています。
店員とは思えないほど、なんだかガラが悪くて荒々しい男たちが、宝石や金銀のきらびやかな細工物をたくさん並べて、ぶあいそな態度であきないをしていました。
二階も三階も、どの部屋の窓にも、あかあかとまばゆい明かりがともされています。
いったい、この店で何が起きているのでしょうか。
ポン公も、たくさんの客の群れにうまくまぎれこんで、店の中のようすをじっとうかがっていました。
もう一度、あの二階のひみつの部屋にこっそり忍びこむつもりなのです。
おじいさんが考えてくれた、あの鉄の扉をうまく開ける方法も、ちゃんと教えてもらっていました。
その方法が本当に確実かどうかは分からないけれど、たとえ鉄の扉が開かなくたって、中のクロを無事に連れ出すさえできればそれでいいのです。
ところが、そう簡単にはうまくいきそうにありません。
そもそも、二階へと上がっていくためのすきが、どこにも見当たらないのです。
たとえ運よく上がっていけたとしても、肝心のひみつの部屋の鍵がどこにあるのか分かりません。
しかたなくポン公は、ある店員のそばにそっと近づいて、ポケットから「345」のメダルをこっそり見せました。
「あのさ、黒猫にごはんをやらなきゃいけないんだけど、あの部屋の鍵はいったいどこにあるんだい?」
店員は、ふしぎそうな顔をしてポン公をじろりと眺めました。
「黒猫? そんなものは知らないね。
おれは今、仕事で忙しいんだよ!」
店員はポン公をまったく相手にせず、すぐほかのお客の応対を始めてしまいました。
ポン公はしかたなく、また店の中をうろうろと歩き回りました。
いったん店の外に出てから、また別の人ごみにまぎれて中に入ったりもしました。
しかし、誰もポン公の相手をしてくれる人はいませんでした。店の中は、宝石や金銀の細工物、金貨や銀貨、それに人々の話し声や叫び声で、ピカピカと輝き、とても賑やかでした。
だんだんと時間が過ぎていきます。
ポン公は、いてもたってもいられなくなりました。
店の表、入り口のすぐ近くに、一人の若者がしゃがみ込んでいました。
いつまでも、ずっとしゃがみ込んだままです。
ポン公はその若者に声をかけてみました。
「そんなところで、何をしているんだい?」
若者は顔を上げました。
どうやらお酒に酔っているようです。
そして、泣いているようでもありました。
「どうしたんだい?」と、ポン公はもう一度尋ねました。
「どうもこうもないんだ。おれは悲しいんだよ。だから酒を飲んだんだけど、余計に悲しくなっちまってさ……」
「いったい、何がそんなに悲しいんだい?」
「おれはね、これでも、ここの主人に一番かわいがってもらっていたんだよ。その主人が亡くなって、記念の大売り出しだろ? 悲しくなくてどうするんだよ。
初級翻訳・シロ・クロ物語 第6話
シロ・クロ物語
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