初級翻訳・ホレおばあさん 第1話

グリム ヴィルヘルム・カール

あるところに、夫に先立たれたお母さんと、ふたりの娘がくらしていました。
そのうちのひとりは、とても働き者で美しい女の子でしたが、もうひとりはぶしつけで不細工なうえに、大とんでもないなまけものでした。
けれど、お母さんは、この不細工でなまけものの娘ばかりを、ずっとかわいがっていました。
だって、その子は自分と血のつながった本当の娘だったからです。
もうひとりの女の子は、家じゅうのあらゆる仕事をひとりでこなさなければならず、一年中ずっと、灰だらけになって働いていました。
かわいそうな女の子は、毎日毎日、大通りへ出て泉のそばに腰をおろし、指から血がにじみ出てくるほど、たくさんの糸をつむがなければなりませんでした。

さて、ある日のことです。
糸を巻きつける木枠(糸巻き)が血だらけになってしまったので、女の子は泉の前にかがみこんで、糸巻きをきれいに洗おうとしました。
ところが、糸巻きは女の子の手からするりとすべり落ちて、泉の中へ沈んでしまいました。
女の子は泣きながら、継母(ままはは)のところへ走っていって、大変な失敗をしてしまったことを正直に話しました。
ところが継母は、女の子をひどく怒りつけました。
それどころか、女の子の programmable な悲しみを少しもかわいそうだとは思わず、こう言いました。
「糸巻きを落としたのはおまえなんだから、自分で拾っておいで!」

こう言われて、女の子はトボトボと泉のところへ引き返しました。
けれど、どうしたらいいのかさっぱりわかりません。
とうとう思いつめた女の子は、糸巻きを取り戻すために、思いきって泉の中へとびこみました。
すると、女の子は気を失ってしまいました。

やがて、ふと目をさまして正気を取り戻したとき、どうでしょう! 女の子は、息をのむほど美しい草原に立っていたのです。
お日さまはきらきらと輝き、あたりには何千もの花が咲き乱れていました。
女の子がこの草原をどんどん歩いていくと、やがてパン焼きかまどがある場所へやってきました。
かまどの中には、パンがいっぱい入っていました。
すると、そのパンたちが大きな声で呼びかけてきたのです。
「ああーっ、僕たちを引き引っ張り出してください! 引き張り出してください! そうしないと、焦げて死んじゃうよ! もうとっくに焼きあがっているんだからー!」
それを聞いた女の子は、かまどのそばへ駆け寄ると、パン焼き用の小さなシャベルを使って、パンをひとつ残らず順番に出してあげました。

それから女の子は、またズンズンと先へ歩いていきました。
やがて、リンゴが枝もたわわに実っている、一本の大きな木のところへやってきました。
すると、そのリンゴたちが声を張りあげて呼びかけました。
「ああーっ、わたしをゆすってください! わたしをゆすってください! わたしたちリンゴは、もうすっかり熟しきっているんです!」
そこで女の子が木をゆすってあげると、リンゴはまるで雨のように、ポロポロ、パラパラと落ちてきました。
女の子は、木にリンゴがひとつもなくなるまでしっかりゆすって落とすと、それらをひとつの山にきれいに積みあげました。
そうしてから、女の子はまた先へと歩いていきました。

さんざん歩いたすえ、女の子はようやく一軒の小さな家の前にたどり着きました。
家の中からは、ひとりのおばあさんが外をのぞきこんでいました。
ところが、そのおばあさんはがあまりにも大きな歯をしていたので、女の子はすっかり怖くなって、逃げ出そうとしました。
すると、おばあさんがうしろから大きな声で呼びかけました。
「何をそんなに怖がっているんだい、おまえ。わたしのところにおいで。おまえがうちの仕事をなんでもちゃんとやってくれるなら、きっとおまえを幸せにしてあげるよ。おまえにやってほしいのはね、わたしのベッドをきちん整えて、それを力いっぱい振って、羽根ふとんの羽根がふわふわと舞い散るように気をつけてくれることだけさ。そうすれば、人間の世界に雪が降るんだよ。わたしはホレおばあさんだからね」

おばあさんは、とても親切に話してくれました。
そこで女の子は思いきっておばあさんの言葉を信じ、この家で働くことに決めました。
女の子は、なんでもおばあさんの気に入るように、とても心を配って働きました。
ベッドもいつも力いっぱいふるいましたから、鳥の羽根がまるで雪の花びらのように、あたり一面に飛び散りました。
おかげで、女の子はおばあさんから小言ひとつ言われることもなく、毎日毎日、煮たり焼いたりした美味しいごちそうを食べて、楽しく暮らしていました。

こうして、女の子はしばらくの間、ホレおばあさんのところで暮らしていましたが、そのうちに、なんだか悲しい気持ちになってきました。
最初のうちは、どうして自分が悲しいのか自分でもよくわかりませんでしたが、とうとう、生まれ育った家が恋しくなってきたのだということに気づきました。
ここにいるほうが、自分のおうちなんかにいるよりも何千倍も幸せなはずなのに、それでもやっぱり、本当の家へ帰りたくなってしまったのです。そこで、とうとう女の子は、おばあさんに自分の気持ちを打ち明けることにしました。

「わたし、どうしてもおうちに帰りたくてたまらないんです。地面の下のここにいるほうがずっと幸せなのはわかっているけれど、もうどうしてもがまんができません。お願いです、地面の上のおうちにいる家族のところへ帰らせてください」

すると、ホレおばあさんはにっこり笑って言いました。

「おまえがおうちに帰りたくなったなんて、嬉しいことじゃないかい。おまえは本当によく働いてくれたからね、わたしが地上まで送り届けてあげよう」

そう言うと、おばあさんは女の子の手を取って、大きな門の前まで連れていきました。
門がパッと開いて、女の子がちょうどその真下に立ったときです。なんと、バチバチと激しく「金の雨」が降ってきたではありませんか!
その金は残らず女の子の体にくっつき、あっという間に全身がピカピカの金だらけになりました。

「これはおまえにあげるよ。本当によく働いてくれたごほうびさ」

ホレおばあさんはそう言いました。それから、女の子の手からすべり落ちて泉の底に沈んでいた、あの糸巻きも返してくれました。

そのとき、バタンと門が閉まりました。
すると次の瞬間、女の子はいつのまにか、地面の上の人間の世界に戻っていたのです。それも、お母さんの家から目と鼻の先の場所でした。

女の子が家の庭に入っていくと、井戸の上にいたオンドリが、声を張りあげて叫びました。
「コケッコッコー! 金の金持ちお嬢さまのお帰りだぞー!」

女の子が家の中に入ってお母さんのところへ行くと、体じゅう金ピカになっていたので、お母さんも妹も大喜びでさかんにちやほやしてくれました。
女の子は、これまでの出来事をひとつ残らず話して聞かせました。
お母さんは、この子がどうしてこんな大金持ちになれたのかを聞くと、今度はもうひとりの、不細工でなまけものの娘にも、同じ幸せを手に入れさせてやりたいと考えました。

こうして、もうひとりの女の子も、お母さんの言いつけ通りに泉のそばに腰をおろし、糸をつむぐことになりました。

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