初級翻訳・ネコとネズミのいっしょのくらし 第1話

グリム ヴィルヘルム・カール

ネコがネズミと知り合いになりました。
ネコはネズミに向かって、これからきみをうんと可愛がって、仲良くしてあげるよ、と、一生懸命にうまいことを言い立てました。
それで、とうとうネズミは、ネコと同じ家に住んで、一緒に暮らすことを承知してしまいました。

「だが、わたしたちは、冬になっても困らないように、準備をしておかなくちゃならないよ。さもないと、ひもじい思いをすることになるからね」と、ネコが言いました。
「ネズミくん、きみはそこらじゅうをむやみに歩き回ることはできないだろう。ネズミ取りにでも引っかかると困るものねえ」

この親切な忠告どおりにして、ふたりはヘット(料理に使う牛の脂肪)の入った小さなつぼをひとつ買い込みました。
でも、そのつぼをどこへ置いたものか、ふたりにはよくわかりません。
それで、長いこと考え抜いたあげくに、とうとう、ネコがこう言いました。
「これをしまっておくのにいい場所といったら、まず教会をおいてほかにないだろうよ。あそこなら、まさか盗み出すやつもいまいからね。祭壇の下に置いておいて、入り用なときがくるまでは、手をつけないでおくことにしよう」

これで、つぼは誰にも盗まれる心配はなくなりました。
ところが、いくらもたたないうちに、ネコはヘットが舐めたくてたまらなくなりました。
そこで、ネズミに向かって言いました。
「きみに話したいことがあるんだがね、ネズミくん。実は、わたしはおばさんから名づけ親になってくれって頼まれているんだよ。おばさんがね、白と茶色のぶちの息子を一匹産んだもんだから、その子の洗礼に立ち会ってくれっていうのさ。だから、きょうはひとつ、わたしをでかけさせて、おまえさんひとりで、家のことをやっていてくれないかね」

「いいですよ、いいですよ」と、ネズミは答えました。
「遠慮なく行ってらっしゃい。あなたが何かおいしいものでも食べるときには、あたしのことも思い出してくださいな。産婦さんの飲む、甘い赤ぶどう酒のようなものなら、あたしもひとしずくぐらい、いただきたいですよ」

ところがこれは、ぜんぶでたらめなんです。だって、ネコにはおばさんなんてひとりもいないのですからね。ですから、名づけ親に頼まれたなんて、とんでもない話なのです。
ネコは、そのまままっすぐ教会へ行って、あのつぼのところへ忍び込むと、さっそくピチャ、ピチャと舐め始めました。
そしてまもなく、ヘットのどろんとした上皮を、きれいになめてしまいました。
それから、町の家々の屋根の上を散歩して、あたりの様子を眺めてから、今度は日なたに長々と寝そべりました。そして、さっきのヘットのつぼのことを思い出しては、そのたびに、ひげをこすっていました。

日が暮れてから、ネコはやっとうちへ帰ってきました。
「おや、おかえりになったのね。きょうは、さぞかし楽しかったでしょう」と、ネズミが言いました。
「うん、うまくいったよ」と、ネコが答えました。
「赤ちゃんにはどんな名前がつけられましたの」と、ネズミがたずねました。
「〈皮なめ〉さ」と、ネコは、そっけなく答えました。
「皮なめですって」と、ネズミは思わず大きな声で言いました。「それはまた、奇妙な、変わった名前ですのね。あなたがたのおうちでは、そういう名前がよくつけられるんですの?」
「こんなのは、なんでもないさ。きみの名づけ子の〈パンくずどろぼう〉なんてのよりは、悪かあないぜ」と、ネコは言いました。

それからまもなく、ネコはまたまた、ヘットが舐めたくてたまらなくなりました。
そこで、ネコはネズミに言いました。
「ほんとに、きみにはすまないけど、もういっぺん、家のことをひとりでやってもらわなきゃならない。実は、また名づけ親に頼まれちまったんだよ。なにしろ、今度の赤ん坊の首のまわりにゃ白い輪がついてるってことだから、どうしても断るわけにいかないのさ」

心の素直なネズミは、すぐに承知しました。
ところがネコのほうは、町の石塀の後ろを通って、教会の中へ忍び込みました。そして、あのヘットのつぼを半分ほどもたいらげてしまったのです。
「まったく、このうまさは、ひとりで食べてみなくちゃわからんて」と、ネコは言いました。そして、きょうはうまいことをやったもんだと、すっかり満足していました。
やがて、ネコがうちへ帰ってきますと、ネズミがたずねました。
「今度の赤ちゃんは、なんて名前をつけてもらいましたの」
「〈半分ぺろり〉」と、ネコは答えました。
「半分ぺろりですって。なにをおっしゃるのよ。「そんな名前、聞いたこともありませんわ。だいいち、そんな名前、人名簿にだって載っていませんよ」

ネコは、まもなくまたおいしいごちそうが食べたくなって、口の中につばがたまってきました。
「『いいことは三度ある』っていうからね」と、ネコはネズミに話しました。「実は、また名づけ親になってくれって頼まれているんだよ。今度の子はまっ黒でね、足だけが白いんだ。そのほかは、体じゅうどこにも白い毛なんて一本も生えていないのさ。こんなのは、二、三年で一匹生まれるかどうかっていう珍しい子なんだよ。だから、どうかわたしをもう一度行かせておくれ」

「『皮なめ』だの、『半分ぺろり』だのって、ずいぶんおかしな名前ばかりね。考えてみると、なんだか変だわ」と、ネズミは答えました。
「きみは、そのネズミ色のぼさぼさした毛の服を着込んで、長い毛をおさげにして、いつもうちの中にばかり引きこもっているからさ。おまけに、年がら年中くよくよしている。昼間外へ出ないもんだから、そんなふうに考えちまうんだね」と、ネコは言い返しました。

ネズミは、ネコの留守の間にうちの中をきれいに片づけて、きちんと整えておきました。ところが、食いしん坊のネコは、つぼの中のヘットをすっかりたいらげてしまいました。
「全部食べてしまえば、やっと安心できるってもんさ」
ネコはこう独り言を言って、夜が更けてから、ようやくお腹いっぱいでうちに帰ってきました。

ネズミはさっそく、三番目の赤ちゃんにつけられた名前を聞いてみました。
「今度の名前も、きみには気に入らないだろうよ」と、ネコは言いました。「今度の子は、『みんなぺろり』というのさ」
「『みんなぺろり』ですって!」と、ネズミは大声を上げました。「そんな名前、本で見たこともないわ。みんなぺろり……一体、どういう意味なの?」
ネズミは不思議そうに首をふりましたが、やがて体を丸めて、そのまま眠ってしまいました。

それからは、もうだれもネコに名づけ親になってくれと頼むことはありませんでした。しかし、やがて冬が近づいてきて、外には食べ物が何ひとつ見つからなくなりました。すると、ネズミは蓄えのことを思い出して言いました。
「ねえ、ネコさん、ふたりでしまっておいたヘットのつぼのところへ行きましょうよ。きっとおいしいわよ」
「よしきた」と、ネコは答えました。「きっと、きみのその薄っぺらな舌を窓から出したときのような味がするだろうぜ」

そこで、ふたりは出かけました。目的地に着いてみると、たしかにつぼはもとの場所に置いてありました。ところが、その中身はからっぽです。
「まあ!」と、ネズミは言いました。

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