昔は、お金持ちに自分を数え入れるほどの者で御座いましたが、今はもうこの様につまらない貧乏人になりまして、国の神様、大神様をお泊め申すも恐れ多い事ながら、今日はもう日も暮れましたから、今宵は大神様をお泊め申し上げ、明日は、ただイナウだけでも大神様をお送り申し上げましょう」という事を申しながら、何遍も何遍も礼拝を重ねました。老婦人は、東の窓の下に敷物を敷いて私をそこへ置きました。それからみんな寝ると直ぐに高いびきで寝入ってしまいました。
私は私の体の耳と耳の間に坐っていましたが、やがて、ちょうど真夜中時分に起き上がりました。「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに。」という歌を静かに歌いながら、この家の左の座へ、右の座へ、美しい音をたてて飛びました。私が羽ばたきをすると、私のまわりに美しい宝物、神の宝物が美しい音をたてて落ち散りました。一寸のうちに、この小さい家を、りっぱな宝物、神の宝物で一ぱいにしました。「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに。」という歌を歌いながら、この小さい家を、一寸の間にかねの家、大きな家に作り変えてしまいました。家の中は、りっぱな宝物の積場を作り、りっぱな着物の美しいのを早作りして家の中を飾りつけました。富豪の家よりももっとりっぱにこの大きな家の中を飾りつけました。私はそれを終えると、もとのままに私の冑の耳と耳の間に坐っていました。
家の人たちに夢を見せて、アイヌのニシパ(主人)が運が悪くて貧乏人になって、昔は貧乏人で今は金持ちになっている者たちに、馬鹿にされたりいじめられたりしてるさまを私が見て、不憫に思ったので、私は身分の卑しいただの神ではないのだが、人間の家に泊まって恵んでやったのだという事を知らせました。それが済んで少したって夜が明けますと、家の人々が一しょに起きて目をこすりこすり家の中を見ると、みんな床の上に腰を抜かしてしまいました。老婦人は声を上げて泣き、老人は大粒の涙をポロポロこぼしていましたが、やがて老人は起き上がり、私のところへ来て、二十も三十も礼拝を重ねて、そして云う事には、「ただの夢、ただの眠りをしたのだと思ったのに、ほんとうに、こうしていただいた事。つまらないつまらない、私共の粗末な家にお出で下さるだけでも有難く存じますものを、国の神様、大神様、私たちの不運な事を哀れんで下さいまして、お恵みのうちにも最も大きいお恵みをいただきました事」と云う事を泣きながら申しました。
それから、老人はイナウの木を切り、りっぱなイナウを美しく作って私を飾りました。老婦人は身支度をして小さい子を手伝わせ、薪をとったり水を汲んだりして、酒を造る仕度をして、一寸の間に六つの酒樽を上座に並べました。それから私は火の老女、老女神と種々な神の話を語り合いました。二日程たつと、神様の好物ですから、はや家の中に酒の香が漂いました。そこで、あの小さい子に態と古い衣類を着せて、村中の、昔は貧乏人で今は金持ちになっている人々を招待するため使いに出してやりました。ので、後見送ると、子供は家毎に入って使いの口上を述べますと、昔は貧乏人で今は金持ちになっている人々は大笑いをして、「これはふしぎ、貧乏人どもがどんな酒を造ってどんな御馳走があってそのため人を招待するのだろう、行ってどんな事があるか見物して笑ってやりましょう」と言い合いながら大勢打ち連れてやって来て、ずーっと遠くから、ただ家を見ただけで驚いて恥ずかしがり、そのまま帰る者もあります。家の前まで来て腰を抜かしているのもあります。すると、家の夫人が外へ出て、人皆の手を取って家へ入れますと、みんないざり這い寄って顔を上げる者もありません。
すると、家の主人は起き上がり、カッコウ鳥のような美しい声で物を言いました。斯々の訳を物語り、「この様に、貧乏人で隔てなく互いに往来も出来なかったのだが、大神様があわれんで下され、何の悪い考えも私どもは持っていませんでしたので、この様にお恵みをいただきましたのですから、今から村中、私共は一族の者なんですから、仲善くして互いに往来をしたいという事を皆様に望む次第であります」という事を申し述べると、人々は何度も何度も手をすり合わせて、家の主人に罪を謝し、これからは仲よくする事を話し合いました。私もみんなに拝されました。
それが済むと、人はみな心が柔らいで、盛んな酒宴を開きました。私は、火の神様や家の神様や御幣棚の神様と話し合いながら、人間たちの舞を舞ったり躍りをしたりするさまを眺めて深く興がりました。そして二日三日たつと酒宴は終わりました。人間たちが仲の善いありさまを見て、私は安心をして、火の神、家の神、御幣棚の神に別れを告げました。それが済むと私は自分の家へ帰りました。私の来る前に、私の家は美しい御幣、美酒が一ぱいになっていました。それで近い神、遠い神に使者をたてて招待し、盛んな酒宴を張りました。席上、神様たちへ私は物語り、人間の村を訪問した時のその村の状況、その出来事を詳しく話しますと、神様たちは大層私をほめたてました。神様たちが帰る時に美しい御幣を二つやり三つやりしました。
彼のアイヌ村の方を見ると、今はもう平穏で、人間たちはみんな仲よく、彼のニシパ(主人)が村に頭になっています。彼の子供は、今はもう成人して、妻ももち子も持って、父や母に孝行をしています。何時でも何時でも、酒を造った時は酒宴のはじめに、御幣やお酒を私に送ってよこします。私も人間たちの後に坐して何時でも人間の国を守護っています。
と、ふくろうの神様が物語りました。
—
### 狐が自ら歌った謡「トワトワト」
トワトワト。ある日に海辺へ食物を拾いに出かけました。
石の中ちゃらちゃら、木片の中ちゃらちゃら。行きながら自分の行手を見たところが、海辺に鯨が寄り上って、人間たちがみんな盛装して、海幸をば喜び舞い、海幸をば喜び躍り、肉を切る者、運ぶ者が行き交って、重立った人たちは海幸をば謝し拝む者、刀をとぐ者など浜一ぱいに黒く見えます。私はそれを見ると大層喜びました。「ああ早くあそこへ着いて少しでもいいから貰いたいものだ」と思って「ばんざーい! ばんざーい」と叫びながら、石の中ちゃらちゃら、木片の中ちゃらちゃら、行って行って近くへ行って見ましたら、ちっとも思いがけなかったのに、鯨が上ったのだとばかり思ったのは、浜辺に犬どもの便所があって、大きな糞の山があります。それを鯨だと私は思ったのでありました。人間たちが海幸をば喜んで躍り、海幸をば喜び舞い、肉を切ったりはこんだりしているのだと私が思ったのは、からすどもが糞をつっつき糞を散らし散らし、その方へ飛びこの方へ飛びしているのでした。
私は腹が立ちました。「眼の曇ったつまらない奴、眼の曇った悪い奴、尻尾の下の臭い奴、尻尾の下の腐った奴、お尻からやにの出る奴、お尻から汚い水の出る奴、なんという物の見方をしたのだろう。」それからまた、石の中ちゃらちゃら、木片の中ちゃらちゃら、海のそばから走りながら見たところが、私の行手に舟があってその舟の中で人間が二人互いにお悔みをのべています。
コメント