初級翻訳・一休さん 第7話

一休さん

」
一休さんが和尚さまの前にくると、和尚さまは、
「周恵、いまおまえは何でお灯明を消した?」
と聞きました。
「はい、口でふきけしました。」
「それはいけません。
口はいろいろなものを食べるところです。
口の中はきたなくなっています。
その口でお灯明をふきけしては、仏のばちがあたります。
おまえももう、まるまるの子どもではありません。
そのくらいのことは覚えておきなさい。」
「…………」
はい、と答えるかと思いのほか、一休さんはいかにもわからないという顔つきで、
「では、和尚さま、おきょうも口でよんではなりませぬか?」
「なぜじゃ。」
「ただいまのお話ですと、口はきたないからお灯明をふきけしてはいけないとおっしゃいましたが、そのきたない口で、とうといおきょうをよんでは、なおさら仏のばちがあたりはしないかと心配です。」
「うむ、なるほど……。」
和尚さまも、これには返事のしようがありません。
しかし、これはけっしてへりくつではありません。
どんなこともこういう具合にして、わるいところがあらためられていくのです。

でるか、はいるか

ひさしぶりで、ジクサイさんから手紙がきました。
「なかなかあつい日が続きます。
こんなときは、とんち問答でもしてあつさをしのぐにかぎります。
どうぞ、おししょうさまといっしょに遊びに来てください。
そのかわり、ごちそうはたくさん用意しておきます。」
「和尚さま、ジクサイさんからこんな手紙がきましたよ。」
一休さんは和尚さまの部屋にとんでいきました。
「ほう、よしよし。
それではさっそく出かけるとしよう。」
一休さんと和尚さまはそろってジクサイさんの家に出かけました。
こんどは、橋のたてふだもありません。
「ジクサイさん、今日はどんな難問を用意しているかな。」
どこからなにがとびだすかもわかりません。
一休さんは用心おさおさおこたりなく、家に入りました。
が、今日のジクサイさんはとてもきげんがよくて、なかなか難問をだしません。
そのうちめしつかいたちがどんどんおいしいごちそうを運びました。
と、ひとりのめしつかいが、いま部屋を出ようとして、しきいをまたいだときです。
「これこれ、ちょっとまちなさい。」
と、ジクサイさんがそのめしつかいをよびとめました。
「はい。」と言って、めしつかいはしきいをまたいだまま立ちどまりました。
するとジクサイさんは一休さんに向かって、
「周恵さん、あのめしつかいは、部屋を出ますか、それとももどってきますか?」
と聞きました。
ははん、きたなと思った一休さんは、ぽんぽんと手をたたいて、
「ジクサイさん、いま鳴った手は右ですか、左ですか?」
と言いました。
「はははあ……。」
ジクサイさんはなにもいわないで笑っています。
これで、問答はジクサイさんのまけです。
みなさんわかりますか。
手をたたいて鳴ったほうは右と答えても、左と答えても、両方です、と答えてもいいでしょう。
ですから、右、と答えれば、左です、と言うかもしれません。
ジクサイさんのよびとめためしつかいも、一休さんが、
「出る」」と、こたえれば、もどってくるつもりです。
「もどる。」と、こたえれば、でていくつもりです。
へんじのしようがありません。
へんじのしようがないではないか、ということを、一休さんは手をたたいてこたえたのです。

とりのもんどう
このもんどうだけでごちそうがおわりました。
三にんでえんがわにでてにわをながめていると、ひとりのこどもがちょこちょことめのまえにでてきました。
そのこどもはみぎてに小とりをいちわにぎっていました。
それをみたじくさいさんは、そしらぬふりで、一休さんにのはなしかけました。
「しゅうけんさん、あの子どもの手ににぎられている小とりは、しんでいますか、いきていますか?」
一休さんはにこにこして、すーっとたちあがりました。
そして、さっきじくさいさんのめしつかいがしたようにへやのさかいのしきいをまたいで、
「じくさいさん、わたしはへやをでますか、もどりますか?」と、いいました。
それをみたじくさいさんは、わらいながら、
「わたしのまけです。」といっておじぎをしました。
これもさっきのもんどうとおんなじことで、一休さんが子どもの手ににぎられた小とりを、
「いきている。」といえば、にぎりころすつもり、
「しんでいる。」といえば、
「ほれ、このとおりいきている。」といきたままだしてみせるつもりにちがいないのです。

十三ねん目
一休さんはいつか十八さいになっていました。
するとある日、おしょうさまが一休さんをよんで、
「しゅうけん、おまえもいつの間にか十八になりましたね。」と、しんみりといいました。
「ええ、おかげさまでいつか十八になりました。
おししょうさまのもとにまいりましたのは、六つのときでございますから、いつのまにか十三ねんたちました。
まるでゆめのようです。」と、一休さんもしんみりしました。
おしょうさまは、
「ついてはしゅうけん、おまえにおりいって話したいことがあるのだがね。」
「はい、なんでしょうか?」
「じつはね、しゅうけん、わしはもうおまえにおしえることが、なんにもなくなったのだ。
わしの持っているがくものは、みんなのこらずおまえにおしえつくしてしまったのじゃ。
このうえはたれかわしよりえらいかたにおまえをおたのみして、おまえにもっともっとがくもんをふかめてもらいたいのじゃ。」
「はい。」
「十三ねんもいっしょにいたおまえと、いまさらわかれるのはわしもつらいことじゃが、おまえのがくもんのためにはこれもいたしかたないことじゃ。」
「はい。」
「ついては、ここにさいごんじのおしょうにてがみがかいてある。
さいごんじのおしょうはてんかにかくれないがくもんのふかいおしょうじゃ。
このてがみをもって、これからすぐさいごんじにいきなさい。
さいごんじのおしょうにはもうよく話してある。」
「はい、おししょうさま、ありがとうございます。」
一休さんはその日さっそくさいごんじにいきました。
さいごんじのおしょうさまは、あんこくじのおしょうさまのそえてがみをみて、一休さんをへやにとおすと、
「しゅうけんという小ぞうはおまえか?」と、どなりつけるよういいました。
「はい、しゅうけんともうします。
よろしくおねがいいたします。」
「おまえはたいへんけんかこうろん、とんちもんどうが好きだそうだが、ほんとか?」
「いや、おしょうさま、わたしはけんかもこうろんも好きではありません。」
「なに、好きでない。
それじゃあおんなみたいによわむしか?」
「でもありません。」
「では、けんかこうろんは好きじゃろ?」
「ほんとは好きですが、しないことにしております。」
さいごんじのおしょうさまは、じょうひんできだてのやさしい、まえのあんこくじのおしょうさまとはまるで反対で、かみなりような大ごえでがみがみいうひとでした。
一休さんをじろりとみおろして、
「おまえをでしにするまえに、一つきいておこう。」ともんどうをじめました。

あたまは石
「おまえはいまけんかこうろんはせぬ、といったな。」
「はい、もうしました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました