初級翻訳・三枚のヘビの葉 第1話

グリム ヴィルヘルム・カール

むかしむかし、ひとりのまずしい男がおりました。
その男は、たったひとりのむすこさえも、ごはんを食べさせることができないほど、くらしにこまっていました。
そこで、むすこが言いました。
「おとうさん、だいぶくらしもくるしくなってきましたね。
ぼくはおとうさんの重荷になるばかりです。
いっそ、家をでて、じぶんでなんとかしてパンをかせぐようにしたいと思います。」
そこで、おとうさんはむすこのしあわせをいのり、胸がはりさけそうなほどかなしい思いで、むすことわかれました。

ちょうどそのころ、ある強い国の王さまが戦争をはじめました。
若者はこの王さまにつかえて、戦場に出かけました。
若者が敵のまえまできたとき、ちょうどたたかいがはじまりました。
そのあぶないことといったらありません。
鉄砲のたまが豆のようにバラバラとふってきて、味方の兵士たちはあっちでもこっちでも、ばったばったとたおれていきます。
そのうちに、隊長までも戦死してしまいました。
だから、のこった人たちはあわててにげだしました。
そのとき、若者がすすみでて、みんなに勇気をあたえるように、大声でよばわりました。
「おれたちの生まれた国をほろぼすな!」

それをきいて、ほかの人たちも若者のあとにしたがいました。
若者は敵のなかにとびこんで、さんざんに敵をやっつけました。
王さまは、たたかいに勝つことができたのはこの若者ひとりのおかげだったときいて、若者をだれよりもとりたてて、たくさんの宝ものをあたえたうえ、国いちばんの家来にしました。

王さまには、ひとりのお姫さまがいました。
お姫さまはたいへん美人でしたが、ただ、ちょっとかわったところがありました。
なにしろ、このお姫さまは、結婚する相手は「もしもお姫さまが先に死んだ場合、お姫さまといっしょに生きたままお墓に入ってもかまわない」と約束できる人でなければだめだという、かたい誓いをたてていたのです。
「あたしを心のそこからすいているのなら、あたしが死んだあと、どうして自分の命がいりましょう」
と、お姫さまは言うのでした。
そのかわり、お姫さまもおなじことをするつもりでした。
つまり、もしご主人のほうが先に死んだら、お姫さまもいっしょにお墓のなかへ入る気でいたのです。

いままでのところは、このかわった誓いをきくと、お姫さまに結婚をもうしこもうと思っていた人も、みんなおそろしくなってやめてしまうのでした。
ところがこの若者は、お姫さまの美しさにすっかり心をうばわれてしまって、ほかのことはなんにも考えられなくなり、「お姫さまをください」と、王さまにお願いに出ました。
「おまえは、しなければならない約束があるのだが、それも知っているのかね?」
と、王さまがたずねました。
「もしもわたくしがお姫さまよりあとまで生きておりましたら、お姫さまといっしょに墓の中に入らなければなりません」
と、若者はこたえて言いました。
「しかし、お姫さまをすきに思うわたくしの気持ちは、そのようなことはものともいたしませぬほどに、ふかいのでございます」
これをきいて、王さまは結婚をゆるしました。
やがて、ご婚礼の式が、たいそうりっぱにおこなわれました。

それからふたりは、しばらくの間、なにも不満がなく、しあわせにくらしていました。
ところがあるとき、ふと、わかいお妃さまが重い病気にかかりました。
どんなお医者でも、お妃さまの病気をなおすことはできませんでした。
こうして、とうとうお妃さまが亡くなってしまいますと、わかい王さまは、まえにいやいやながらした約束のことを思い出しました。
すると、生きたままお墓の中に入るのが、たまらなくこわくなってきました。
といって、いまさらのがれる道もありません。
なにしろ、王さまが国中の門という門を番兵であますところなくかためさせてしまったので、この運命からにげることはとてもできなかったのです。

いよいよ、お妃さまのなきがらを王家のお墓にほうむる日がやってきました。
わかい王さまは、いっしょにお墓の中へ連れていかれました。
やがて、お墓の門にかんぬきがさされ、カギがおろされました。
お棺(ひつぎ)のそばに、机がひとつ置いてありました。
その上には、あかりが四つと、パンのかたまりが四つ、それにブドウ酒が四本なのっていました。
これだけの食べ物がおわってしまったら、わかい王さまはうえ死にするほかありません。
わかい王さまはかなしみにうちしずんで、そこにすわっていました。
くる日もくる日も、パンをほんのひと口食べ、ブドウ酒をほんのひとしずくのむだけでした。
それでもやっぱり、自分の死ぬときが、刻一刻とせまってくるのがわかりました。
こうして、わかい王さまがぼんやりまえのほうを見つめていたときです。お墓のすみのほうから一ぴきのヘビがはいだしてきて、お妃さまのなきがらのほうへ近よっていきました。
わかい王さまは、ヘビがなきがらをかじりにきたのだろうと思いましたので、剣をぬいて、いいました。
「わたしの生きているかぎりは、妃のからだにはふれさせぬぞ。」
こういって、わかい王さまはそのヘビを三つに切りすてました。

しばらくすると、もう一ぴき、べつのヘビがすみからはいだしてきました。
けれども、まえのヘビが三つに切られて、そこに死んでいるのを見ますと、そのままひきかえしていきました。
けれども、すぐにもどってきました。
みれば、こんどは、みどりの葉を三枚、口にくわえています。
そのヘビは、三つに切られているまえのヘビのからだを、ちゃんともとのようにおしつけて、傷口の上にその葉を一枚ずつのせました。
と、きれぎれになっていたからだの部分が、たちまちつなぎあわさったかと思うと、ヘビはピクピクうごきだして、生きかえったではありませんか。
そして、ヘビは二ひきそろっていってしまいました。
葉は地面におちたままになっていました。

ふしあわせな王さまは、このありさまをすっかり見ていましたが、いまヘビを生きかえらせたこの葉のもっているふしぎな力が、もしかしたら人間にもききはしないだろうかと、ふと思いつきました。
そこで、わかい王さまはその葉をひろいあげ、一枚を死んだ人の口の上におき、あとの二枚を目の上にのせてみました。
と、どうでしょう、葉っぱをのせたとたんに、はやくも血が血管のなかをめぐりだして、それがまっさおな顔にのぼって、ふたたび顔に赤みがさしてきたではありませんか。
お妃さまはそれから息をして、目をぱっちりとあけて、いいました。
「あらまあ、あたしはどこにいるのでしょう。」
「おまえはわたしのそばにいるのだよ。」
と、わかい王さまはこたえました。
そして、いままでのできごとをのこらずものがたって、じぶんがお妃さまを生きかえらせたことを話しました。

それから、わかい王さまはお妃さまにブドウ酒とパンをすこしずつやりました。
やがて、もとのようにからだに力がつきますと、お妃さまは立ちあがりました。
そうして、ふたりで扉のところへいって、ドンドンたたいて、大声にさけびました。
番兵がそれをききつけて、王さまにもうしあげました。
王さまはじぶんでおりてきて、扉をあけました。

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