「うわあ!
なにをするんだい!」
鬼はかんかんにおこって、どなりました。
「わるく思わないでおくれ。
夢を見てやったことなんだからね」
と、鬼のおかあさんはこたえました。
「こんどは、どんな夢を見たんだい?」
と、鬼がたずねました。
「ある王さまの国にはえている、くだものの木の夢なんだがね。その木にはいままでずうっと金のリンゴがなっていたのさ。
それが、いまじゃ葉っぱ一枚でやしないんだよ。
いったいどうしたわけなんだろうね?」
「へへん、あいつらにわかってたまるもんかい!」
と、鬼はこたえていいました。
「その木の根っこをネズミがかじっているからさ。
そのネズミを殺しちまや、また金のリンゴがなるようになるのさ。
だけど、このままネズミがかじっているようだと、いまにその木はすっかりかれちまわあ。
ところでおっかさん、もう夢を見るのはやめにして、おれをねかしてくれよ。
こんど、おれのねているじゃまをしたら、横っつらをぶんなぐるぜ!」
鬼のおかあさんはうまく鬼をなだめて、またシラミをとりはじめました。
そのうちに、鬼はまたもやねむりこんで、ぐうぐうものすごいいびきをかきはじめました。
そこで、鬼のおかあさんは、鬼の頭から三本めの金の髪の毛をつかんで、ぐいとひきぬいたのです。
鬼はびっくりしてとびあがり、わめきながら、おかあさんにらんぼうしようとしました。
けれども、おかあさんはもういちど鬼をなだめて、いいました。
「こんないやな夢を見たんだもの、しかたがないじゃないか」
「いったい、どんな夢を見たんだい?」
と、鬼がたずねました。
やっぱり、鬼も気になってききたかったのです。
「渡し守の夢なんだがね。その渡し守は、かわりがこないものだから、年がら年じゅういったりきたりして、ひとをわたさなければならないって、ぶつぶつもんくをいってるのさ。
いったいどういうわけなんだろうねえ」
「へーん、ばかな野郎だなあ!」
と、鬼はいいました。
「だれかがやってきて、むこうへわたしてくれといったら、そいつの手にさおをにぎらせちまやいいんだよ。
そうすりゃ、こんどはそいつがひとをわたさなけりゃならなくなって、じぶんは自由になれるんだからさ」
こうして、鬼のおかあさんは金の髪の毛も三本ぬいてしまいましたし、それに三つの問題のこたえも話させてしまいましたので、こんどは、このばけものをそのままそっとねかせておいてやりました。
それで、鬼は夜のあけるまで、ぐっすりねこんだのです。
鬼がふたたびでかけてしまいますと、鬼のおかあさんはスカートのひだの中からアリをとりだして、この福の子をもとの人間のすがたにもどしてやりました。
「そら、この三本の金の髪の毛をやるよ」
と、鬼のおかあさんがいいました。
「それから、おまえの三つの問題にたいして、鬼がなんていったか、よくきいていたろうね?」
「ええ、きいてましたよ。よくおぼえておきます」
と、福の子はこたえました。
「これで、おまえをたすけてやったわけだから、ぼつぼつでかけたらどうだい?」
と、鬼のおかあさんがいいました。
福の子は鬼のおかあさんに、こまっているところをたすけてもらったお礼をくりかえしいって、地獄をたちさりました。
そして、なにもかもがじつにうまくいきましたので、福の子は大よろこびでした。
渡し守のところまきますと、渡し守は約束のへんじをきかしてくれ、といいました。
「まずわたしを、むこうへわたしてくれ」
と、福の子はいいました。
「そうすれば、どうしたらおまえが自由になれるかをおしえてやるよ」
むこう岸へつきますと、福の子は鬼のいったことをそのままおしえてやりました。
「こんどだれかがやってきて、むこうへわたしてくれといったら、その男の手にさおをにぎらせてしまや、それでいいんだよ」
福の子はずんずん歩いていきました。
やがて、実のならなくなった木のはえている町へきますと、ここでも番人が、福の子のへんじを待っていました。
そこで福の子は、鬼からきいたとおりのことを話してやったのです。
「その木の根っこをかじっているネズミを殺しなさい。そうすれば、また金のリンゴがなるよ」
これをききますと、番人は福の子にありがとうございます、といって、お礼のしるしに、金貨を山とつんだ二ひきのロバをくれました。
ロバは福の子のあとからついてきました。
いちばんおしまいに、井戸のかれてしまった町にきました。ここでも福の子は、番人に、
「この井戸の中の石の下に、ヒキガエルが一ぴきいるんだよ。
そいつをさがしだして、殺しなさい。
そうすれば、またまえのようにお酒がいくらでもわきでてくるよ」
と、鬼がいったとおりに話してきかせました。
番人はお礼をいって、こんどもまた、金貨をつんだ二ひきのロバをくれました。
こうして、福の子はようやく、およめさんの待っている家にかえりつきました。
およめさんは、福の子にもういちどあえたばかりか、なにもかもがうまくいったことをきいて、心からよろこびました。
福の子は、王さまのおのぞみの、鬼の金の髪の毛を三本もって、王さまのまえにでました。
王さまは金貨を背中につんだ四ひきのロバを見て、すっかり満足して、いいました。
「さて、これで条件はすっかりととのったわけだ。
わしのむすめは、おまえの妻にしてよろしい。
だがな、むこどの、このたくさんの金貨はどこで手にいれたのかね。
じつにすばらしい宝ものだが」
「わたしはある川をわたりました。
この金貨は、そこからとってまいりましたのです。
その川の岸には、砂のかわりに、こういうものがいっぱいございます」
と、福の子はこたえました。
「わしにもとってこられるかな」
王さまはほしくてたまらなくなって、こうたずねました。
「いくらでも、おのぞみなだけ」
と、福の子はこたえました。
「その川には渡し守がおりますから、そのものに川をわたしておもらいなさいませ。
川むこうへまいりますと、いくつふくろがありましても、すぐいっぱいになってしまいます」
欲のふかい王さまは、おおいそぎででかけました。
あの川のところまできますと、王さまは渡し守を手でまねきよせて、むこう岸へわたしてくれ、といいました。
渡し守がやってきて、王さまにおのりなさい、といいました。
ふたりがむこう岸へついたとたん、渡し守は王さまの手にさおをにぎらせるがはやいか、じぶんは陸にとびあがって、にげていってしまいました。
王さまは、じぶんのおかした罪の罰として、それからはずうっと渡し守をしなければなりませんでした。
(1)子どもが生まれたとき、大網膜の一部がやぶれないで、そのまま子どもの頭にのこっていることがあります。
むかしは、これを幸運のしるしだと考えて、〈福の皮〉とよんだわけです。
初級翻訳・三本の金の髪の毛をもっている鬼 第3話
グリム ヴィルヘルム・カール
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