初級翻訳・三本の金の髪の毛をもっている鬼 第2話

グリム ヴィルヘルム・カール

すると、お妃さまはその手紙を王さまにわたして、
「ごじぶんで、なかに書いてあることをお読みになってごらんなさいませ」
と、いいました。
王さまはその手紙を読んで、はじめて、それがじぶんの書いたのとすりかえられたものであることに気がつきました。
そこで、王さまは福の子に、じぶんのたのんだ手紙はどうなったのか、どうしてまたかわりにべつの手紙をもってきたのかとたずねました。
「わたしはなんにも知りません」
と、福の子はこたえていいました。
「わたしが森のなかでねた晩に、きっとすりかえられたにちがいありません」
王さまはかんかんにおこって、いいました。
「そうやすやすと、おまえにうまくやられてたまるものか。
わしのむすめがほしいなら、地獄から鬼の頭の金の髪の毛を三本とってこなければならんのだ。
わしののぞみのものをもってくれば、むすめはそのままおまえの妻にしておいてよろしい」
王さまとしては、これでこの若僧を追いはらうことができると思ったのです。
ところが、福の子はこたえました。
「おのぞみの金の髪の毛は、かならずとってまいります。
鬼なんか、すこしもこわくはありません」
こうして、福の子はおわかれをつげて、旅にでかけました。
福の子がずんずん歩いていきますと、やがてとある大きな町にきました。
町の門のところで、番人が、おまえはどんな仕事を知っているか、どんなことができるかと福の子にたずねました。
すると、福の子は、
「なんでも知ってるよ」
と、こたえました。
「そいつはありがたいな」
と、番人はいいました。
「じつは、この町の井戸から、いまでは酒がわきでていたんだが、そいつがいまではすっかりかれちまって、水さえもでないしまつなんだ。
どうしたわけだか、おしえてもらえないかね」
「おしえてあげるよ。
だが、わたしがかえってくるまで、待っていたまえよ」
と、福の子はいいました。
こういって、福の子はずんずん歩いていきました。
やがて、またべつの町の門のまえにきました。
ここでもまた、門番が、おまえはどんな仕事を知っているか、どんなことができるかとたずねました。
「なんでも知ってるよ」
と、福の子はこたえました。
「そいつはありがたいぞ」「じつは、この町に一本の木があるんだが、いままではその木に金のリンゴがなっていたのに、いまじゃ葉っぱ一枚ないありさまなんだ。どういうわけだか、ひとつおしえてもらいたいね」
「おしえてあげるよ。だが、わたしがかえってくるまで待っていたまえ」
福の子はこういって、またさきへいきました。
そのうちに、とある大きな川のところにでましたが、この川はどうしてもわたらなければなりません。
ここでも渡し守が、おまえはどういう職をこころえているか、なにを知っているか、と、福の子にたずねました。
「なんでも知ってるよ」
と、福の子はこたえました。
「そいつはうれしいな」
と、渡し守がいいました。
「おれは、年がら年じゅういったりきたりして、人をわたしてばかりいるんだが、どうしてかわりがこないのか、そのわけをおしえてもらいたい」
「おしえてあげるよ。だが、わたしがかえってくるまで待っていたまえ」
と、福の子はいいました。
この川をわたりますと、いよいよ地獄の入り口が見つかりました。
地獄のなかはまっ黒で、すすけていました。
鬼はちょうどるすでしたが、鬼のおかあさんが大きな安楽いすにこしかけていました。
「なんの用だい」
と、鬼のおかあさんは福の子にたずねました。
けれども、このひとは、そんなにたちがわるいようには見えませんでした。
「ぼくは、鬼の頭の金の髪の毛が三本ほしいんです。でないと、およめさんをぼくのものにしておけないんですもの」
と、福の子はこたえました。
「そりゃあまた、たいへんなのぞみだね」
と、鬼のおかあさんがいいました。
「鬼がかえってきて、おまえを見つけようもんなら、おまえは、たちまちやっつけられちまうよ。だが、おまえがかわいそうだから、なんとかおまえをたすけてやるようにするよ」
鬼のおかあさんはこういって、福の子をアリのすがたにかえてしまいました。
そして、
「わたしのスカートのひだのなかにはいこんだおいで。そうしていりゃ、だいじょうぶだよ」
と、いいました。
「ええ」
と、福の子はこたえていいました。
「それでけっこうなんですが、まだ三つほど知りたいことがあるんです。
いままでお酒のわきでていた井戸が、すっかりかれてしまって、水一てきでないというのは、どうしてなんですか。
いままで金のリンゴがなっていたのに、いまでは葉っぱ一枚ないというのは、どうしてなんですか。
それから、渡し守が年がら年じゅういったりきたりして、ひとをわたしているのに、かわりの人がさっぱりこないというのは、どうしてなんですか」
「そいつはむずかしい問題だね」
と、鬼のおかあさんがいいました。
「だがまあ、うごかずにじっとしておいで。そして、わたしが鬼の頭から金の髪の毛を三本ひきぬくときに、鬼がなんていうか、よく気をつけてきいているんだよ」
日がくれてから、鬼がかえってきました。
鬼はうちのなかへはいるかはいらないうちに、なかの空気がすんでないことに気がつきました。
「くさいぞ、くさいぞ、人間の肉くさいぞ。なんだかへんだぞ」
と、鬼がいいました。
それから、鬼はへやのすみからすみまでのぞいてさがしまわりましたが、なんにも見つかりませんでした。
それを見て、鬼のおかあさんが鬼をしかりつけて、いいました。
「たったいま、そうじしたばっかりだよ。せっかくひとが、すっかりかたづけておいたのに、またおまえがごちゃごちゃにしてしまう。おまえの鼻にゃ、しょっちゅう人間の肉のにおいがくっついているんだよ。さあ、すわって夕はんでも食べな」
鬼はごはんを食べたりお酒をのんだりしてしまいますと、つかれがでてきて、頭をおかあさんのひざの上にのせました。
そして、シラミをすこしとってくれ、といいました。
しばらくすると、鬼はうとうとしてきて、やがて、ぐうぐういびきをかきはじめました。
そのようすを見て、鬼のおかあさんは金の髪の毛を一本つかんで、ぐいとひきぬいて、じぶんのそばにおきました。
「おう、いてえ。なにをするんだい」
と、鬼がさけびました。
「いまね、いやな夢を見たんだよ」
と、鬼のおかあさんがこたえました。
「それで、思わずおまえの髪の毛をつかんだのさ」
「いったい、どんな夢を見たんだい」
と、鬼がたずねました。
「ある町の市場の井戸の夢だったよ。いままでは酒がわきでていたのに、それがかれちまって、水さえもでなくなっちまったんだよ。どうしたわけなんだろうね」
「へへん、あいつらにわかってたまるもんか」
と、鬼はこたえました。
「その井戸のなかの石の下に、ヒキガエルが一ぴきいるのさ。そいつを殺しさえすりゃあ、また酒がわいてくるんだ」鬼のおかあさんは、また鬼の頭のシラミをとりはじめました。
そのうちに、鬼はまたもやねむりこんで、窓もふるえるような、ものすごいいびきをかきはじめたのです。
そこで、鬼のおかあさんは、鬼の頭から二本めの髪の毛をひきぬきました。

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