初級翻訳・忠義者のヨハネス 第3話

グリム ヴィルヘルム・カール

結婚式のあとで踊りが始まって、若いお妃がおどりだすと、急にお妃は真っ青になって、死んだようにぶっ倒れる。そのとき、誰かがお妃を抱き起こして、右の乳房から血のしずくを三滴吸い取って、それを吐き出さなきゃ、お妃は死んでしまうんだ。しかし、誰かがこのことを知っていて、告げ口でもすれば、その男は頭のてっぺんから足のつま先まで、体全体が石になっちまうんだ」

鳥たちはこんなことを話し合いながら、飛び去っていきました。忠義者のヨハネスには、この話がすっかり理解できました。ですから、このときからというものは、ヨハネスは口もきかなくなって、悲しそうにしていました。無理もありません。自分の聞いたことを主人に黙っていれば、主人が不幸になりますし、もしそれを打ち明ければ、自分の命を失わなければならないのですから。でも、とうとうヨハネスは、「ご主君をお救いしよう。たとえ、そのためにこの命を失っても」と、ひとりごとを言いました。

いよいよ一同が陸に上がると、鳥の言ったとおりのことが起こりました。キツネ色の立派な馬が一頭、まっしぐらに飛んできました。
「よし、あれに城まで乗せていってもらおう」
王さまはこう言って、馬に飛び乗ろうとしました。ところが、そのときいち早く、忠義者のヨハネスはひらりと馬に飛び乗るが早いか、くらのわきから鉄砲をとって、いきなりその馬を撃ち殺してしまいました。しかし、前から忠義者のヨハネスのことをよく思っていなかったほかの家来たちが、口々に騒ぎ立てました。
「王さまをお城まで乗せていくはずの、あんな立派な馬を殺すとは、不届き至極なやつだ!」

けれども、王さまは言いました。
「黙って、あの男のやるとおりにさせておけ。忠義この上もないヨハネスのことだ。それに、これがまた、何の役に立つかもしれぬ」

やがて、みんながお城の中に入ると、広間に鉢が置いてあって、その中に仕立て上がった婚礼用のシャツが入っていました。ちょっと見たところでは、どうしても金と銀で織ってあるとしか見えません。若い王さまは、つかつかとそのそばに歩み寄って、それを手に取ろうとしました。ところが、忠義者のヨハネスは王さまを押し退けて、手袋でそれをひっつかみ、素早く火の中へ放り込んで燃やしてしまいました。それを見て、ほかの家来たちがまたぶつぶつ文句を言い始めました。
「見ろよ、あいつ、今度は王さまの婚礼用のシャツまでも燃やしているぞ!」

けれども、若い王さまは言いました。
「これがまた、何の役に立つか分からないのだ。あの男のすること通りにさせておけ。忠義この上もないヨハネスのことだ」

まもなく、ご婚礼のお祝いがありました。踊りが始まって、花嫁もその中に入りました。忠義者のヨハネスはじっと気をつけて、花嫁の顔ばかり見守っていました。すると突然、花嫁は真っ青になって、死んだように床に打ち倒れました。それを見るやいなや、ヨハネスは急いで駆け寄り、花嫁を抱きかかえて隣の部屋へ運び込みました。
そして、花嫁をそこに寝かせると、自分はその傍らにひざまずき、花嫁の右の胸から三滴の血を吸い取って、それを吐き出しました。
すると、たちまちのうちに花嫁は息を吹き返し、すっかり元気を取り戻したのです。
若い王さまは、すぐそばでこの様子を見ていました。
けれども、忠義者のヨハネスがどうしてこんなことをするのか、その理由が分からなかったものですから、すっかり腹を立てて、
「あの男を牢屋にぶち込め!」
と、怒鳴りつけました。

翌朝、忠義者のヨハネスには死刑が言い渡され、首つり台へと引き出されました。
そして、高い台の上に上がり、いよいよ処刑されることになりました。
そのとき、ヨハネスは言いました。
「死刑を宣告された者であっても、死ぬ前に一言だけ願いを言うことが許されております。わたくしにも、それを許していただけましょうか?」
「よろしい、願いを聞こう」
と、王さまは答えました。
そこで、忠義者のヨハネスは言いました。
「わたくしは、身に覚えのない罪を言い渡されました。わたくしは、いついかなるときも、ご主人さまに忠義を尽くしてまいりました」
そしてヨハネスは、海の上で鳥たちの話を耳にしたこと、王さまを救うために、どうしてもああした行動をとらなければならなかったことなどを、すべて話し始めました。
それを聞くと、王さまは叫びました。
「おお、忠義において右に出る者のないヨハネスよ! 許す、許すぞ! あの男をすぐに下へ降ろせ!」

ところが、忠義者のヨハネスは、最後の言葉を言い終えるのと同時に息絶え、そのまま地面に転がり落ちてしまいました。
ヨハネスは、すでに石になっていたのです。
王さまとお妃さまは、これをひどく悲しみました。
王さまは、
「ああ、これほどまでに立派な忠義に対して、わたしはなんとひどい報いをしてしまったのだ」
と嘆きました。
それから、王さまはその石像を引き取らせ、自分の寝室のベッドのそばに立てさせました。
そして、それを見るたびに、王さまは涙を流しながら言いました。
「ああ、おまえをもう一度生き返らせることができたらなあ。忠義この上もないヨハネスよ」

それから時が過ぎ、やがてお妃さまは双子を産みました。
双子はどちらも男の子で、すくすくと育ち、いまでは王さまとお妃さまの喜びの種となりました。
ある日のこと、お妃さまが教会へ出かけてしまい、二人の子どもがお父さまのそばで遊んでいたときのことでした。
王さまは、いつものように悲しい思いで石像を眺めながら、深いため息をつき、思わず大きな声でこう言ってしまいました。
「ああ、おまえを生き返らせることができたらなあ。忠義この上もないヨハネスよ」

すると、どうでしょう。その石が突然、口をきき始めたのです。
「はい、あなたさまのいちばん大切なものを犠牲にしてくださるなら、わたくしはもう一度生き返ることができます」
それを聞いて、王さまは叫びました。
「わたしがこの世で持っているものなら、何なりとおまえのために捧げよう!」
すると、石はなおも言葉を続けました。
「もしもあなたさまが、ご自身の手で二人の子どもたちの首をはね、その血をわたくしに塗ってくださるなら、わたくしは命を取り戻すことができます」
王さまは、自分にとって最も大切な子どもたちを、自分の手で殺さなければならないと聞いて、思わずハッとしました。
けれどもすぐに、ヨハネスのあの立派な忠義を思い出し、しかもそのヨハネスは自分を救うために死んだのだと考えると、剣を抜き放ち、自分の手で二人の子どもの首をはねました。
そして、その血を石像に塗りつけました。
するとたちまち、ヨハネスは命を取り戻し、あの忠義者のヨハネスが、昔と変わらぬ元気で生き生きとした姿で、王さまの前に現れたのです。
ヨハネスは王さまに言いました。
「あなたさまのこの真心、決して無駄にはいたしません」

そう言うと、ヨハネスは子どもたちの首を拾い上げ、胴体の上に乗せて、傷口にその血を塗りつけました。
すると、みるみるうちに子どもたちは生き返りました。
そして、まるで何事もなかったかのように、元気いっぱいに跳ね回り、遊び続けたのです。
王さまの心は喜びでいっぱいになりました。

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