初級翻訳・かえるの王さま 第2話

かえるの王さま

するとかえるがまた言いました。
「どうぞ、わたしをテーブルの上にのせてください」

おひめさまがテーブルに乗せてやると、こんどはこう言いました。
「さあ、その金のお皿をずっとわたしのほうへ寄せてください。そうすれば二人一緒に食べられるから」

おひめさまは、かえるの言うとおりにしました。本当に、かえるが「ぴちゃぴちゃ」と、さも美味しそうに舌鼓を打って食べているそばで、おひめさまは一口一口、喉につかえるような思いでした。かえるは食べ終わると、お腹を前へ突き出して言いました。
「ああ、おなかがいっぱいで眠くなった。おひめさま、さあ、わたしをあなたのお部屋に連れて行ってください。かわいらしい、あなたの絹のお布団のなかで、わたしはゆっくり眠りたい」

おひめさまは、もう我慢ができなくなって、しくしく泣き出してしまいました。本当に、ぬるぬる・ぴちゃぴちゃして、触るのも気味の悪いかえるが、自分のお布団のなかで眠りたいなんて言うのですから、おひめさまが悲しくなるのも無理はありません。

するとまた王さまが言いました。
「泣くことがあるか。誰でも困っているときに助けてくれたものに対して、あとで知らん顔をするのはいけないことだよ」

おひめさまは、さも気味悪そうに、指の先でそっとかえるをつまみ上げると、上のお部屋まで持って行って、そっと隅っこに置きました。そうして、自分だけがベッドに入りました。

ところが、かえるはさっそく、のこのこ這い出してきて言いました。
「ああくたびれた、くたびれた。早くゆっくり眠りたい。さあ、そこへ上げてください。でないと、お父さまに言い付けるから」

これでおひめさまは、すっかり腹が立ってしまいました。そこで、おひめさまは突然かえるをつかみ上げると、ありったけの力で、思いっきり壁へと叩きつけました。
「さあ、これでたっぷりゆっくり眠りなさい。この本当に嫌なかえるさん!」

ところが、どうでしょう。
床に転がったかえるは、落ちた瞬間に、もうかえるではありませんでした。そこには、この世のものとは思えないほど美しく、優しい目をした王子が立っていたのです。
こうして王子は、おひめさまのお父さまである王さまのお許しを得て、おひめさまのお友だち、そしてゆくゆくは結婚相手となることになりました。
そのとき、王子はあらためて自分の身の上を話してくれました。ある悪い魔法使いの女に呪いをかけられ、みにくいかえるの姿に変えられてしまったこと。そして、その泉の中から自分を助け出し、元の人間へと戻してくれる人は、この王さまのおひめさま以外にはいなかったのだと語りました。
そして、明日にはさっそく二人で連れ立って、王子の国へ帰るつもりだとも言いました。

三

こうして二人はゆっくりと休みました。
そして翌朝、お日さまがにこにこと二人を照らして起こすころ、八頭立ての白馬をつけた立派な馬車が、お城へとやって来ました。
どの馬も頭には白いダチョウの羽を飾り、金色の鎖を引いていました。
馬車の後ろには、若い王子さまの家来が一人、しゃんと立っていました。
この人こそ、忠義者のハインリヒでした。
忠義者のハインリヒは、悲しみのあまり胸が張り裂けそうになった自分の心臓を抑えようと、鉄のたがを三本も胸に巻きつけていたのです。ご主君がかえるの姿にされてしまったことが、あまりに悲しかったからです。
大切な王さまが元の姿に戻ったので、今日さっそく、八頭立ての馬車がお迎えに上がったというわけです。
忠義者のハインリヒは、お二人を馬車に乗せてあげると、自分はまた馬車の後ろに立ちました。ご主君が再び世に出られたことを思って、身震いするほど嬉しくてなりませんでした。
馬車が走り出してしばらくしたころ、王子さまの耳の後ろで「ぱちり、ぱちり」と、何かが弾けるような音がしました。
若い王子さまは、そのとき後ろを振り返って言いました。
「ハインリヒ、馬車が壊れるぞ!」

「いいえ、いいえ、お殿さま。
あれは馬車ではございませぬ。
せっしゃの胸にはめたたが。
殿さまが、かえるになられて、
ぎゃあぎゃあと泉で泣いておいでのお姿に、
張り裂けそうだったこの胸を、
無理に押さえていたそのたがが、弾けた音でございます」

それでも、「ぱちり、ぱちり」と、また二度ほど弾ける音がしました。
若い王子さまは、そのたびに馬車が壊れるのではないかと心配しました。
けれどもそれは、ご主君が人間に戻り、これから楽しい日々を送れることになったおかげで、ずっと塞がっていたハインリヒの胸が晴れ、胸のたがが弾けて飛び散る音だったのでございます。

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