初級翻訳・帽子箱の話 第8話

佐藤 緑葉

そこで庭師は帽子箱を作業着の下に隠すと、ハリーを手招きし、先に立って家の方へと歩いていった。
戸口の近くで二人は、いかにも聖職者らしい青年に出会った。
その人は色の浅黒い、非常に顔立ちの整った青年で、どこか弱々しさと強い意志が混ざり合っているような表情をしており、自分の身分にふさわしく、非常にきちんとした服装をしていた。
庭師は思いがけない人物との遭遇に、明らかに困った様子だった。
だが、できるだけ何でもない顔をして、お世辞を並べながら、微笑みを浮かべて話しかけた。
「結構なお天気でございますな、ロールズ様。」と、彼は言った。「まことに結構なお天気で。この方は私の若い友達でございますが、私の育てた薔薇が見てみたいと言いますので、勝手に案内して参りました。他の方々も、別にいけないなどとはおっしゃるまいと思いましてな。」

「私個人の考えでは、」と、ロールズ氏は答えた。「いけないなどという事はございません。また他の方々にしても、そんな事にいちいち口を出す者などおりますまいよ。庭はあなたの物ですからね、レイバーンさん。私達は誰でもそれを忘れてはなりません。それにあなたは私達に、勝手にここを歩かせて下さっているのですから、私達の方でもそのご親切に甘えて、あなたのお友達のお楽しみの邪魔などをしては、本当に失礼というものです。それはそうと、」と、彼は続けて言った。「この方には以前にお目にかかった事があるようです。確か、ハートリーさんでしょう。お気の毒に、どこからかお落ちになったのではないですか?」

そう言って彼は手を差し出した。
ハリーは少女のような一種の品格と、できるだけ説明の必要を先に延ばしたいという願いに動かされて、せっかくのこの助かる機会を退け、自分がその本人であることを否定してしまった。
彼は知人に好奇心や疑念を抱かれるよりも、自分にとっては少なくとも見ず知らずではあるが、この庭師の優しい慈悲心の方を選んだのであった。
「それは何かのお間違いでございましょう。」と、彼は言った。「私はトムリンスンと申しまして、レイバーンさんの友達でございます。」
「そうですかな?」と、ロールズ氏は言った。「実によく似た方がいるものですな。」

この会話の間、まるで茨の上にでも座っているような居心地の悪さを感じていた庭師は、この辺で話を切り上げるのが一番よいと思った。
「それではご自由に散歩なさいませ。」と、彼は言った。
そうしてハリーを連れて家の中に入り、それから庭に面した一つの部屋へと連れて行った。
そこで彼がまずしたことは、日よけを下ろすことだった。ロールズ氏がまだ彼らと別れた場所に立っていて、何だかわけが分からないような顔をして考え込んでいたからである。
そこで庭師は壊れた帽子箱をテーブルの上にあけた。
そしてすっかりさらけ出された宝物の前に、うっとりとしたような貪欲な顔をして、両手を股で擦りながら立っていた。
ハリーは、こういった卑しい感情に動かされている男の顔を見ると、今までの苦痛にさらに別の苦痛が加わるのを感じた。
自分の清く、優しい生活から、一息に、卑しく、罪深い関係に飛び込むなどという事は、到底信じられない事だった。
彼は自分の良心を責めようとしても、少しも罪ある行いをした覚えはなかった。
しかも彼は今、最も鋭く、そして最も残酷な形で罪を責められているのであった――それは刑罰の恐ろしさ、立派な人が抱く疑惑、そして下劣で残忍な人間の仲間となり、それに汚されるという事だった。
彼はその部屋から逃げ出し、レイバーンの仲間から抜け出せるものなら、喜んで自分の命さえ捨てるだろうと感じた。

「さて、」と庭師は宝石をほとんど同じくらいに二分してから、その一方を自分の近くへ引き寄せて言った。「さて、何でもこの世の中じゃ、代金を払わなきゃ手に入らねえものだ。しかも代物によると相当気前よくな。どうだね、ハートリーさん――とかいう名前だったな――俺は至極気さくな人間だよ。人が好いので今まで損ばかりしてきた始末さ。俺がその気になれば、ここにある綺麗な石ころをみんな俺の懐へしまい込めるよ。そして君のほざく顔でも見ていたいぐらいなものだ。だが俺は、なんだかお前が気に入ってるような気がするよ。というのも、お前をそんなにめちゃくちゃに踏み倒す気は起きねえからな。そこで、分かったかね、全くの親切心で、俺は二人で山分けにしようと言っているんだ。これで、」と、二つの山を示して、「俺には文句なしの分け前だと思えるがね。何かごたくを言いたいことがあるかね? ハートリーさん。俺はブローチの一本や二本にこだわる人間じゃねえよ。」
「ですが、あなた、」と、ハリーは叫んだ。「そのお話はできない相談です。」「この宝石は私のものじゃありません。それに、人のものを分けるなんて、私にはできないことです。誰とでも、どんな割合でも」

「これはお前のものじゃないって? そして誰とも分けることはできないって? はてな、そりゃお気の毒というものだ。というのも、そう決まったなら、俺はお前を警察へ突き出さなきゃならないからな。警察だよ――よく考えてみろよ」と、彼は続けた。「お前の家族の恥になることも考えてみろ。それからまた」と、ハリーの手首を掴んで言葉を続けた。「追放のことや、最後の審判の日のことも考えてみろよ」

「私にはできないことです」と、ハリーは泣き出した。「私が悪いんじゃないのです。あなたは私と一緒にイートン・プレースへ行ってはくれないし」

「だめだよ」と、男は答えた。「俺はどうあっても行きやしない。俺はここで、このおもちゃを二人で分けるつもりなんだ」

そう言うと、彼は突然若者の手首をひどくねじり上げた。ハリーは叫び出さずにはいられなかった。顔には汗がにじみ出てきた。恐らく苦痛と恐怖が、彼の知恵を働かせたのだろう。とにかくその瞬間、事の全体が別の見方から彼の頭にひらめいてきた。今はただ、この悪者の言い分を聞き入れるよりほかに方法はない。そして、もっと都合のよい時期になって、自分自身の疑いもすっかり晴れたとき、この家を見つけさせて、この男に吐き出させるばかりだ、と彼はそう悟った。

「よく分かりました」と、彼は言った。

「そうこなくっちゃね」と、庭師はあざ笑った。「どうせ自分の損得くらいは分かるだろうと思っていたよ。それからこの帽子箱だがな」と、彼は続けた。「これは俺ががらくたと一緒に焼いてしまうぜ。これは好奇心の強い連中が喜びそうな代物だからな。それからお前だが、そのぴかぴかをかき集めてポケットへしまい込みなよ」

ハリーは相手の言葉に従って宝石をかき集めた。庭師は彼を見つめていたが、そのきらきらする光から折々欲望がまた燃え立ってきて、秘書役の分から改めて一つつまみ出し、それを自分の分へ付け加えた。それが終わると、二人は正面の戸口の方へ進んでいき、レイバーンは用心深くそれを開けて、通りの様子をうかがった。そこには見渡したところ通行人もいなかった。

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