初級翻訳・幸福な家庭 第3話

井上 紅梅

「あ、ははは、乞食(こじき)」
子供はすぐに笑い出した。
「そうそう、乞食だ」
彼はまたしてもいくつも円を描いてようやく手を休めてみると、子供はにこにこ笑いながら、涙に濡れている目で彼を見ている。
なんと可愛らしく、天真爛漫な顔だろうと彼は思った。
ちょうど五年ばかり前、この子の母親の唇がこんなに真っ赤だったが、これはその縮小版だと思えばいいだろう。
あの時は晴れ渡った冬の日で、彼女は、俺がどんな障害にも反抗し、彼女のためであったなら甘んじて犠牲になると言うのを聴いて、この通りににっこりと笑いながら、涙でいっぱいになった目で俺を見たのではなかったか。
彼はぼんやりして、そこに座ったまま、少し酔ったような心地になった。
「ああ、可愛い唇……」
と、彼は思いにふけっていた。
突然だった。
カーテンが開かれて、薪が運ばれてきた。彼はハッと我に返りました。
子供はまだ、涙でいっぱいの目で、真っ赤な唇を少し開いたまま彼を見つめています。
「唇……」
彼が横に目をやると、薪はすでに運び込まれた後でした。

「……将来この子も、五五二十五とか、九九八十一とかいった計算に追われるようになるんだろうな! あの二つの目を気味悪いくらい光らせて……」
彼はそう思いながら、タイトルだけ書いた原稿用紙と、計算の数字で埋まった原稿用紙を乱暴に引っ張り出しました。それをくしゃくしゃに丸めてから、また無理やり広げ、子供の涙と鼻水を拭き取ってやりました。

「いい子だから、向こうへ行ってひとりで遊んでおいで」
彼は子供を押し退けると、その紙を丸めて力任せに紙屑籠へ放り込みました。
彼は子供のことも急にどうでもよくなってしまいましたが、もう一度振り返ると、子供がよちよちと部屋を出ていくのが見えました。
耳には、薪を積み上げる音が聞こえてきます。

彼は気持ちを落ち着けようと目を閉じ、余計な考えを追い出して、じっと腰を下ろしました。
すると、一つの平らで丸い黒い花が、黄色い芯を持って目の前に浮かび上がりました。それは左目の端から漂い出て、右の方へ流れて消えていきました。
続いて、鮮やかな緑の花と黒緑色の芯が現れ、そのあとには六株の白菜が、彼に向かってはっきりと大きな「A」の字を作り上げていました。

(一九二四年三月十八日)

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