初級翻訳・後の日の童子 第2話

室生 犀星

「病院の奥様からこの花をいただきました。もう枯れてしまいましたけれど」
「水甕(みずがめ)に入れておきなさい。いつもよくしてくださるのね」

いつの間にか、男の子は母親のそばに立っていました。背伸びをして、赤ちゃんを覗き込もうとしています。父親もその背後に立っていました。
「お母様」
「なあに?」
「僕にそのあかん坊を、少し見せてください」
「こうしてですか?」
「うん」

男の子は赤ちゃんを覗き込みました。そばから父親が、男の子の肩に手を置いて静かに言いました。
「おまえによく似ていると思わないかい? 鼻つきにしても目にしても、本当におまえによく似ているよ」
父親は赤ちゃんの頬を指で触れてみたりして、それを男の子に見せました。しかし、男の子の目には、明らかに不快そうな曇った表情が浮かんでいました。父親には、それが何よりも先に心に伝わってきました。
「僕には少しも似ていない。僕のような顔はどこにもないよ。お母様、僕には似ていません」

母親はその言葉を悲しそうに聞き、父親と顔を見合わせました。父親の顔には「何も言うな」という表情が浮かんでいました。男の子は赤ちゃんから離れると、もみじした蔦の葉をちぎり始めました。

――食事のときも、母親は男の子に小さな魚を焼いてあげましたが、男の子はそれよりも野菜の方に箸を伸ばしました。
「お母様、お魚はどうして釣るの?」
男の子は、赤い肌をした一匹の魚を箸の先で指さして尋ねました。
「川にも海にもいるのよ。針の先に餌をつけて、お魚がいそうなところに垂らして、じっとしているの。お腹を空かせたお魚がやってきて、ふいに食べて針に引っかかるのよ……」
「お魚は痛いでしょうね」
男の子は母親の顔を見て、痛そうな表情を浮かべて言いました。「このお魚も、そうやって釣られたの?」
「多分そうだろうね」と、父親がそばから言いました。「お魚は、生きているうちは人間に食べられるなんてあまり考えないらしい。だから悲しくはないんだよ」
「食べられてからも悲しくないの?」
男の子はそう言うと、食卓の向こう側にいる父と母を交互に見つめました。

父親も母親も少し顔を青ざめ、しばらく黙り込んでしまいました。
「おまえは難しいことを言うね。そりゃあお魚だって悲しいに違いないだろうけれど、もう死んでいるからどうだか分からないんだよ」
「死んでいるから分からないの?」
男の子は同じ言葉を繰り返すと、深く考えるような目つきをしました。父親はそのとき、不思議なほど何かに思い当たり、顔色を変えました。そうなるのも当然です。なぜなら、母親が真っ青になっていたのですから。
「お父さん、僕はどうしてこうしているのでしょうか。お魚のようにではないでしょうか」
男の子は、腰に差していた笛を手に持ちました。そして、自分自身もどうしていいか分からないといった困り果てた顔をしました。
「おまえはお父さんの子だから、こうしてお母さんのそばにいるのは当たり前のことなんだよ。お魚とは違う。ほら、おまえはちゃんと、そこに座っているではないか」

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