」
それは、「どうぞお射ちくださいました」という心からの安堵の表れでした。
どちらか一方が負けてしまえば、父の手前とても悲しくなってしまうところでしたが、お二人とも全く劣らない見事な腕前を示してくださったことに対し、何にたとえてこの嬉しさを申し上げたらよいものか――。優しい橘姫は父の方へ快い笑みを浮かべながら、あまりの嬉しさに父親の体にそっとすり寄っていきました。
「早業でござった。なかなかこうはいかぬものだが、見事にやり遂げられた。」
基経の驚きは、一層深いものでした。
ツグミを射止めるということは、たとえ油が乗って鳴き交わす最中の動かない姿勢であったとしても、細かく震える榛の枝の間を縫って、並大抵の技で簡単に射止められるものではありませんでした。
左右に分かれた二人を見たとき、基経は「どちらもツグミを外してしまうだろう」と、ツグミの鳴き声がぴたりと止んだその瞬間にはそう思っていました。
だが、その瞬間にはすでに、ツグミは射止められていたのです。
基経は息を呑んで、目の前の二人の若者をじっと眺めました。
若者たちは、まず自分たちのいけにえとなってくれたツグミを丁寧に土に埋めてから、
「未熟者でお恥ずかしい限りです。」
と、二人ともそろって謙虚に頭を下げたのです。
「あなた方は、まるで一人の人間のようじゃ。」
基経はますます窮地に追い込まれたような気持ちになりました。
これほどまでに人が似るものかと、二人の清らかな目をまじまじと見つめました。
その眼差しは、どちらも橘姫を自分のものにするためには、どんな手段も、どんな苦労も惜しまないという真剣なものでした。
津の茅原の男は、初めて和泉の猟師に向かって、感嘆するように言いました。
「わしは、もしあのツグミを射落とせなかったら、それきりでここから去るつもりだった。」
「あなたも、橘の君のもとから去るおつもりであったか。」
猟師はその正直さに心を打たれ、敵手でありながらも、その誠実な人柄をしみじみと認めたのでありました。
「残念ではあるが、そう覚悟してござった。貴所は?」
「わしも、黙って去るつもりでおりました。貴所に橘の君をお任せして……。だが、もうお譲りすることはできぬ。」」
猟夫は語尾にぐっと力を込めて言いました。
同じような考えが、津の若者の胸にも激しく渦巻いていました。
「もう一歩だって引き下がらないさ。
」
しかし、二人は心の中にずっと溜め込んでいた想いをこの機会にぶつけ合ったことで、これまでにないほど顔の表情も和らぎ、どこかすっきりとした、晴れ晴れとした雰囲気さえ漂わせていました。
なんと長い間、このような穏やかな時間が彼らに訪れていなかったことでしょうか。
その時、川の水面に何やら動くものがみんなの目に飛び込んできました。
それは、一羽のかいつむり(カイツブリ)が水の中にすっと潜り込んだ姿でした。
まるで小さな小石を投げ込んだようにしか見えないほど、そのカイツブリは、はっきりと何の鳥かすら見分けられないほど遠く離れたところにいました。
四人の視線は、一斉にその素早い鳥へと釘付けになりました。
「我らはあんな小さな鳥は見たこともござらぬ。
」
和泉の若者は夢中になって見つめながら、誰に言うともなくつぶやきました。
「我らも見たことがございませぬ。
」
まばゆい川面の日の光の合間にひょっこり浮かび上がっては、また一瞬のうちに水面を細かなさざ波立てて沈んでいく、スズメほどの大きさしかない小さな水鳥は、春の温かい水面に浮かんでいるかと思うと、まばたきするほどのほんの一瞬の出来事でした。
「あの鳥は何という鳥でございましょう。
」
橘姫は、これまで一度も見たことのない小さな水鳥を指さして尋ねました。
「あれはカイツブリという鳥じゃ。湿地や川にいる鳥だがの。」
基経はそう言いながら、はっと気づきました。
この水鳥を、あの二人の若者なら射止めることができるだろうか? 基経が何気なく二人をちらっと見たとき、勘の鋭い若者たちは基経の目の色から、「いよいよあの言葉が父の口から飛び出すのだろうか」と、息をのんで待ち構えている様子でした。
基経は念を押すように、娘のほうをじっと見つめました。
橘姫は、まるで祈るように「お父様、どうか何も言わないでください」と怖じ気づいたような顔をし、これ以上あの鳥を射るなんてかわいそうだと訴えるような目を向けていました。
しかし、基経としては、今日こそ父親として果たさなければならない務めを全うしなければなりませんでした。
二人の男の間で揺れ動く娘を、どちらか一人にしっかりと決めなければならなかったのです。
「何とも素早い水鳥じゃ。
」
津の若者は鋭い眼光で、手元にぐっと弓を引き寄せました。
「一発で仕留めてみせる。
」
和泉の猟師の目はギラギラと輝き、いつでも矢をつがえようと、じりじりとした構えを基経の息づかいに合わせるようにして詰め寄りました。
基経は、もう一刻の猶予もできないほどの切迫感を、水面に浮き沈みする小さな水鳥の、あまりにも素早い羽ばたきの微細さに見ているうちに、自分自身まで妙に煽り立てられていくのを感じていました。
基経はここで、二人のうちのどちらか一人を選ばなければならず、もう一人を娘のそばから引き離さなければならなかったのです。
父親としての基経はもう耐え切れなくなり、大声で突然、命令するかのように厳しく言い放ちました。
「あの水鳥を射止めた御仁に、橘を嫁がせよう!」
「お父上様……!」
橘姫は何やら小さな声で、父の言葉を止めようとすがりつこうとしました。
その目は恐怖に満ちていましたが、おびえているからこそ一層引き立つ、比類なき美しさを宿していました。
「今日こそ、お二人のうちのどちらかをお決めしなければならぬのだ。」
橘姫には、もう返す言葉がありませんでした。
津の若者も、和泉の若者も、その言葉と同時にさっと立ち上がりました。
顔はまるで布のように青白く、呼吸も荒くなっていました。
橘姫の顔はこわばり、思わず低く驚きの声を漏らしてしまうほどでした。
事態がここまで来てしまってはもうどうすることもできず、足元が細かく震え出し、まるで声の出ない人のように二人の若者をただ見つめることしかできませんでした。
「ご用意はいいか?」
「いつでもござる!」
矢がキリキリと番えられました。
そして、一羽のカイツブリが再び水面に浮かび上がりましたが、すぐにまた水中へと沈んでいきました。
矢は番えられたまま、次のチャンスを待ちました。
二度目のチャンスはすぐにやってきました。水鳥が再び水面に顔を出したその瞬間、二人の目の前で動きがありました。
矢は一瞬のうちに弦を離れましたが、白々と川面にただよう二本の矢羽のほかには、水鳥の姿はどこにも見当たりませんでした。
若者たちは諦めず、三度目のチャンスを待ち構えました。二人とも怒りで顔が真っ赤に燃え上がっていました。
カイツブリが再びひょっこり浮かび上がりました。
しかし、飛び出しの早かった津の若者が放った白い矢は、小さな水鳥の背中を越えてしまい、和泉の猟師の中黒の矢羽は、水鳥が消えたあとの水面に、音もなく寂しく沈んでいきました。
初級翻訳・姫たちばな 第5話
姫たちばな
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