初級翻訳・姫たちばな 第4話

姫たちばな

自分自身でさえこれほど困惑しているのだから、若い女性である橘姫はもっと複雑な気持ちに違いないと、基経は何度も娘の方を振り返りました。
その時の橘姫は、野原の明るい陽射しの中で一段とまばゆいばかりの目鼻立ちを際立たせており、これが本当に自分の娘だろうかと思われるほど、見慣れないほどの美しさを放っていました。
津の男も和泉の男も、控えめではありながら、このような明るい陽光の中の野原で見る橘姫の顔の隅々にまで宿る、しみ一つない圧倒的な気品を目の当たりにして、自分の胸に秘めた決意をいっそう固めるばかりでした。

四人は土手の上に腰を下ろしていました。
高い榛(はしばみ)の木の頂の枝には、もう田んぼの方には降りてこない春のツグミが、枝の間に身を隠しながら、何度も高く美しい声でさえずっていました。
油が乗った春の黒ツグミが、枝と枝の間で翼の光を日光の中にきらめかせ、田のあぜ道にも川面にも、もうもうと春の景色が立ちこめていました。二人の若者たちは、どこかうすぼんやりとした夢心地のような気持ちで、美しく佇む橘姫の姿に見入っていました。
思えば二人は、もう八十日もの間も橘姫の館に通い続けているのであり、今日のようにこうして悠々と野原で遊ぶことは、まったく予期していなかった嬉しい招きでした。
橘姫は用意していたお酒とごちそうを女房たちに運ばせ、まだ萌え出たばかりの草の上に広げました。
二人の若者が、橘姫がものを食べている姿を見るのは、これが初めてのことでした。
食事をしているというだけで、女性の美しさがさらに倍増して見えるようで、唇の動きや頬のわずかな動きさえも、言い知れぬ親しみを覚えるものでした。
もしこのように、この女性と朝に晩に一緒に食事をすることができたなら、どれほど楽しいだろうかと、若者たちは同時にまったく同じ想像にふけっていました。

「我らは、野の美しさを長い間すっかり忘れておりました」
都の忙しい日々に追われていた若者たちは、今さらながらに野原の清々しい広大さに心を奪われ、しみじみと景色を眺めました。
津の男は、和泉の男が誰に言うともなくつぶやいたこの言葉に対して、どうしても何か返事をしないわけにはいきませんでした。
「我らとても、野原の風情など夢にも見たことがございませんでした。こうしてたまに風に吹かれるのも、本当に幸せなことでございます」
「荒ぶる魂をしずめる暇もない我らにとって、明日もまたここに来てみたいと願ってしまうほどです」

しかし、津の男も和泉の男も、今日こそは橘姫の父親から何らかの言い渡しがあるだろう、おそらく「どちらか一方に身を引いてほしい」と、有無を言わさず直接に決断を迫られるに違いないと、言いようのない不気味な不安と憂鬱を感じていました。
そして、そのほかにまた何か別の、思いがけない出来事が起こるなどとは、みじんも考えていませんでした。
津の男も和泉の男も、普段の激しいいがみ合いから離れ、これまで夜の暗闇の中でしか見てこなかったお互いの顔を、どこか探るようにしみじみと見つめ合いました。
あれほどまでに憎み合っていた二人が、こんなにも明るい野原の景色のなかで、比較的平穏に言葉を交わしていることなど、これまでは一度たりとも想像すらしなかったことでした。

基経が杯を取り、二人に酒をすすめました。
「どうぞお召し上がりくだされ」
「恐れ入ります」
津の男も和泉の男も、普段はお酒をたしなむ方ではありませんでした。
二人が基経に杯を返すと、基経は静かな声で言いました。
「お二人の方でも、どうぞ」
そう促されては、津の男は和泉の男へと杯を回さなければなりませんでした。
津の男は、清らかな水をその杯にそそぎながら、そっと差し出したのです。「和泉どの、お一つおつきあいくだされ。」
「忝うござる。」
和泉の若者も同じように清らかな水を杯にそそぎ、津の若者へと返しました。
こうしたほんの少しの親しみの機会は、二人の心をほぐし、その顔に柔らかい笑みさえ浮かばせました。
先ほど、この野原で初めて顔を合わせたときの、あの鋭い目つきの面影は、もうどこにも残っていませんでした。
「きょうのお招きにより、姫にもお目にかかることができ、何とお礼を申し上げてよいか分かりません。」
「これは、我ら両人より心より厚くお礼申し上げます。」
素直な二人は、いつの間にか自分たちのことを「我ら両人」と自然に口にするようになっていました。
橘姫は、いま目を覚ましたばかりのような明るい瞳に、思いやりと優しさをたたえながら、二人を包み込むような温かい空気の中で言いました。
「いつも心にもない失礼ばかりいたしまして、本当に申し訳ございませんでした。きょう、このようにくつろいだお顔を拝見できて、橘がどれほど嬉しいか言い表せません。」
「そのお言葉、ありがたくお受けいたします。いつも夜盗のような振る舞いばかりしていた我らを、どうかお許しください。」
津の若者がそう言うと、和泉の若者は顔を赤らめて言いました。
「お心をざわがせてばかりいたその罪を、きょうこそお詫び申し上げる。」
「何もかも、もう過ぎ去ったことでございます。お詫びしなければならないのは、このわたくしの至らなさばかりですもの。」
橘姫はそっと手を伸ばし、二人の杯を満たしました。
その優しさは二人の顔にこの上ない喜びを浮かばせ、その心は杯を持つ手が震えてしまうほどでした。
こうして、野遊びのひとときは静かに過ぎていきました。
彼らが口にするのは、野原の穏やかさや美しさのほかに、語り合うことなどありませんでした。
ただ、橘姫の父親がこの後いったい何を切り出すのか、それを予測することのほかに、不安なことは何もありませんでした。
「わたくしも、きょうのように素晴らしい景色を見たことがございません。」
橘姫は誘われるようにそう言いました。
橘姫がそこにいるからこそ景色が美しいのだということも、若者たちの胸に、ほとんど同時に浮かんだ言葉でした。
基経は先ほどから黒ツグミが飛び去らない木の梢を見つめていましたが、今この機会を逃してはならないと思い、突然、そのツグミを指差して言いました。
「あれを見られい。」
榛(はしばみ)の枝の間から動こうともしない何羽かの黒ツグミを、二人の若者は見上げました。
橘姫もまた、はっと胸を打たれる思いで梢を見上げ、そして父の鋭いまなざしをとらえました。
父のそのただならぬ眼差しの意味を、橘姫は自分の胸の内でひしと感じ取っていました。
もう、その時が来てしまったのだと思わずにはいられませんでした。
基経の二度目の声は、まるで命令者のように厳しく響き渡りました。
「ツグミをお打ちあれ。」
津の若者も、和泉の若者も、それがどういう試みの言葉であるのかをよく知っていました。
一人は白羽の矢をつがえ、もう一人は中黒の矢をつがえ、狙いが定まったその瞬間、二本の矢は同時に榛の枝をくぐって放たれました。
それと時を同じくして、二羽の春のツグミが、津の若者の矢と、和泉の若者の矢の先端によって、見事に射落されたのでありました。
橘姫は、どちらか一方をひいきしていると思われないよう、左右どちらの頬にも同じように優しい笑みをたたえて言いました。
「お見事に存じます。

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