私は冷や汗をかきながら、すぐに答えました。
「入れてあげるよ。お母さんにも話して、必ずそうしてあげる。僕は嘘はつかないからね」
そう慌てて答えると、女の子は少し安心したのか微笑んで、
「あたし大切にしていたから。この間もお母さんにお願いしたんですわ」
女の子はそう言うと激しく咳き込み、体を藻掻くようにしました。興奮しすぎたせいか、今度は反対にウトウトと眠り出しました。私はその病に疲れ果てた小さな体を寂しく眺めましたが、もう二度と健康な体に戻ることはないのだろうと感じました。しばらくしてまたパッチリと目を開けましたが、すぐに閉じられました。
お母さんが外へ出るたびに、
「ちょっと薬をもらいに行ってきますから、お願いしますよ」
と言って出かけたあと、女の子は決まって例の力のない声で、
「お母さん……お母さん……」
と呼ぶのが、妙に重い響きを持って二階まで聞こえてくるのです。私はそのたび、胸が締め付けられるような思いで、二階から降りていくのでした。
「どうしたの? 寂しいのかい? 一人だから……」
そう声をかけると、女の子は例のじっとした目で、長い間私の顔を見つめていましたが、
「お母さんは?」
と低い声で尋ねました。
「いつものお薬を取りに行ったんだよ。もうすぐ帰ってくるからね」
そう言うと、女の子は髪の毛をうっとうしそうに握り、手でたくし上げて、
「あたし、お薬なんかもういらないの。そう言っておいてちょうだい」と、きっぱり言いました。
「だって、薬を飲まないと良くならないよ」
「だって、いくら飲んだって同じことですもの」
青白い顔を少女らしくそっと微笑ませて、もう自分でも回復しないことを悟っているようでした。私は黙って部屋を出ました。
間もなくお母さんが帰ってきました。医者が「もう幾日も保たない」と告げたあとのある日、女の子は母親にこう言いました。
「あたしね、もうすぐいけなくなるんですから」
そう言って小さな鏡台を指差しました。そこには女の子が使っていたいろいろな白粉(おしろい)や刷毛の類が、引き出しにしまわれていました。母親はその指先と鏡台を見つめましたが、女の子が何を言っているのか分かりませんでした。
「鏡台が見たいの?」と尋ねると、女の子は「いいえ」と首を振りました。
「では、どうしてほしいのかい?」と聞くと、
「あたし……あの……」と言って、恥ずかしそうに顔を赤らめました。
そのとき母親は、初めて女の子が化粧をしたいと言いよどんでいることに気がつきました。母親はそれを感じると同時に、女の子が死ぬときは綺麗にお化粧をして送ってやるものだということを知っていたのです。
母親は間もなく、女の子に温めたおしろいを形ばかりに塗ってやりました。青白い顔は少しばかりの水気によって潤いましたが、その肌はもう冷たくなっていたのです。小さな病人は、形ばかりの化粧が済むと、少女らしく満足げに――美しいものが美しいものを守るかのように――こうした最後の化粧に微笑んでみせたのでした。小さな病人は、また突然にこう言って母親を悲しませました。
「お母さん、今日は何日?」
そう言っただけで、母親ははっきりと娘の顔に、死の冷たい影が忍び寄ったことを悟りました。
医者がやってきました。
すると女の子は、じっと医者の顔を見つめていましたが、突然に微笑みを浮かべました。
医者は驚いたような表情で女の子を眺めました。
「おじさんは、明日もまた来てくださるでしょうか」
彼女はそう言うと、寂しげで、か細い微笑みをこぼしました。
医者はすぐに元気そうな声で、はっきりと病人の耳元でささやきました。
「明日も明後日も来ますよ。それからずっと後もやってきます。あなたがすっかり良くなるまではね」
「明日も明後日も……」
弱々しい声で同じことを繰り返すと、医者はまた機械的に、
「明日も明後日もね」
と言いましたが、医者の額には悲しげで荒いしわが浮かび上がっていました。
もう駄目なのだと悟ったのです。
医者は母親と目と目で言葉を交わしました。
私がその時部屋に入ると、彼女は薬のせいで、ほそぼそと眠りについていました。
「お化粧をしたのですね」
そうお母さんに言うと、母親は湿った声で答えました。
「自分でももう駄目だと分かっているようなんです。さっき、化粧をしてほしいと言いましてね……」
呼吸は、あるかないかの境目を、たえだえに続けていました。
しばらくすると、また女の子はぽっかりと目を開けました。
「お母さん。さっきからそこにいらしたの?」
そう言って、じっと母親の顔を見つめました。
「さっきからずっといたわ。何か欲しいものはない?」
「時計にね……」
と、だるそうな声で言いました。
「ネジをかけるのかい?」
母親が時計のそばへ歩み寄ると、女の子は、
「ええ」
と嬉しそうに微笑みました。
時計にネジが巻かれました。すると、静かだけれど単調な音楽が、部屋中に静かに響き渡りました。
女の子はうっとりとした目で、その音楽に聞き惚れていましたが、母親はうつむいて静かに泣いていました。
そばにいた私も、うつむくしかありませんでした。
時は、刻一刻と進んでいきました。
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