彼らはまず鼻先で「ふん」と笑い、肩を揺すぶりながら、腰の太刀に手をかけ、「本当にバカバカしい」という顔つきをしながら、同じ道を往復するうちに、たまにすれ違うこともありました。
お互いの心を突き刺すような冷たい笑みが、ときどき口から漏れることもあったのです。
その頃の夜の雨はそこまで激しくはありませんでしたが、ある夜は、二人が同時に門のひさしに身を寄せ合っていました。
お互いに反対側の暗闇を向きながら、骨までしみるような雨の音を寂しく聞き入りながらも、しだいに何か言葉を交わしたくなるような、これまでに経験したことのない奇妙な状態に陥っていました。
それほど、雨の音が胸に突き刺さるように響いてきたのです。
「もう何ヶ月になるのかなあ」
津の国の若者が突然、暗闇の中に文字を放り投げるように、横も向かずに話しかけました。
「さあね、ご自分で数えてみるのが一番早いんじゃないですか」
和泉の国の男の声は、待ち構えていたかのように津の国の男の言葉にかぶさるようにして、突っかかるように言いました。
「おい、そこのお前、ひとつ数えてくれないか」
「黙ってください、あなたとなんて話したくもありません」
「そうか、話したくないか」
津の国の男の声は、怒りを押しこらえた、無理をした声でした。
「話すことなんて、とうの昔にとうのからない二人だろ」
「では、何が残っているというんだ」
「そんなこと、もう分かりきっているじゃないか」
「命のことか」
「よく言ったな。それを決着をつける日が近づいているとは思わないのか」
「たしかに近づいているさ、昨日より一歩も二歩も飛び級するように近づいているぞ」
「その時が来たらどうする」
「必ずお前の命をもらい受ける」
「それはこちらのセリフにしたいぐらいだ」
二人の声には少しの狂いもなく、むしろお互いに念を押すように、冷酷な調子で交わされました。
しかも彼らは顔を向かい合わせることもせず、冷たい雨の中にその言葉をたたきつけているかのようでした。
いつの日か、また、どんな思いがけない機会からか、二人はどうしても真正面から向き合わなければならないのでした。
「今日こそは」「明日こそは」と毎日のように募る焦りや、心の中に溜まりに溜まったものが、積もりに積もっていったのです。
二人にはもう他のやるべきことなど何もなく、おそらく橘姫の存在すら、彼らの目には入っていなかったのかもしれません。
彼らの目に見えているのは、津の国の男にとっては和泉の男の命であり、和泉の国の男にとっては津の国の男の命の憎らしさ、それだけでした。
彼らは、その命に向き合い、それを奪い合うために生き、その日をただ待ちわびるために生きているのかも分からなかったのです。
雨はますます激しくなり、どうしようもない憂鬱さは、二人にとって何か突然の恐ろしい出来事が起きるのを待ち望んでしまうほど、陰鬱な気持ちに落ち込ませました。
「この雨じゃあどうしようもなさそうだな、帰るとするか」
津の国の男は立ち上がり、手のひらで雨の降り方を確かめながら言いました。
「あなたがお帰りになるなら、我々も帰ります」
「そして、また明日か」
「もっと先の日かもしれない。命のある限りここへ通うぞ」
「それならこちらだってもちろん同じだ、命のある限り通い続ける」
「だがな、津の国の男、どちらかが先に命のなくなる日があることだけは、忘れないでくれよ」
「その時が来るまで、首を洗って預けておくさ。いいか、たっぷり太って待っていろよ」
「お前の剣じゃ刃も立たないくらい、ぶくぶく太って返り討ちにしてやるわ!」
二人は同時に雨の中の道路に飛び出しました。
二人はやがて西と東に分かれていきました。
暗闇の気配に気を配りながら、どちらもいつ不意にひらめくかもしれない敵の刀の先を警戒して身を固くし、背後から聞こえてくるお互いの足音に耳を澄ませながら、土塀の際を急いで去っていきました。
津の国の男と和泉の国の男は、まるで何かに取り憑かれたように橘の門のあたりにやって来ては、初更(夜の八時頃)になるまでその場を去らないという毎日が、相変わらず続いていました。
橘姫は、もはや恐怖心に似た、日ごとに険しくなっていく若者たちの危うい心のすきを、今日も昨日も目の当たりにしているような気持ちでした。
女房たちの話によると、若者たちはついには門の前で決闘を始めてしまうかもしれない、事態はまさにその一歩手前まで差し迫っているとのことだったのです。はじめて見た初春のころの若者たちの目のやさしさや素直さ、そして物腰の静かさなどはとうにどこかへ消え去り、人の目つきというのはこれほど急激に変わるものなのだろうかと驚くほど、彼らの視線はすっかり荒々しくなり、いつでも相手に飛びかかろうとするような緊張感を孕んでいました。門の前から離れようとしないその様子は、見ているだけでも怖いくらいだと女房たちは噂していました。
はじめの頃に見せていた、武家の御曹司のような初々しく丁寧な言葉づかいも、だんだんと失われていったといいます。
「この上は、もう最後に選ぶべき道をえらぼう」
基経は暗い表情に包まれながら、どこか億劫そうに言いました。
「わらわのために、ここまでお父様に御心労をおかけしてしまい、本当に申し訳ございません」
橘姫は身をもって詫びましたが、基経にとってそんなことはもはや問題ではありませんでした。
「そちにも、あの若者たちにも何の罪もない。これは不思議な宿命としか思えないのだ。だから、早く決着をつけよう」
「とおっしゃいますと……?」
「狩りを開こう。その機会に、わしから二人によく話をつけようと思う」
橘姫も、その方がかえって物事がはっきりして良いと思いました。
二人を狩りに招いて、一日ゆっくりと野原で遊んでもらってから、すべてを包み隠さずに話そうと決めたのです。
「お前もその日は、あの人たちに会ってやりなさい」
「はい」
「お前は何も言わずにじっとしていた方がいい。それから、特に酒やごちそうの用意もしっかりしておいた方がよかろう」
「はい」
橘姫はさっそく使者を二人の若者のもとへ送り、狩りの日取りを知らせました。
若者たちの喜びはたとえようもないほどで、橘姫にとっても、二人をこのように狩りに招くことは、何だかとても幸いなことに思えました。
何をするにも縁起が良いとされる「天一天上(てんいちてんじょう)」の吉日を選んだのも、橘姫の晴れ晴れとした気持ちの表れでした。
たとえそれが不幸な結末に終わるのだとしても、若者たちとの直接の話し合いから導かれる結果であるならば、もはや仕方のないことだと思えたのです。
迎えた狩りの日、橘姫はうす青い単衣(ひとえ)に山吹の匂いのする装いをまとい、父のそばに付き従っていました。津の国の茅原(かはら)の者も、和泉の国の猟師も、それぞれ弓や太刀を身につけて、濃い初夏の気配が漂う生田川のほとりへとやって来ました。
二人の男は一目見ただけで、その高ぶった心が手に取るように分かるほど、激しいまばたきを繰り返していました。基経は、あらかじめ用意してきた言葉をなかなか切り出すことができません。
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