初級翻訳・怪人二十面相 第3話

怪人二十面相

「ショウ一二ジ」は「正十二時」、つまり午前零時きっかりに盗み出すという、自信に満ちた犯行予告です。

「この『二〇』というのは、もしや二十面相のことではありませんか?」
壮一君がハッとしたように、お父様を見つめて言いました。
「そうだ。お前もよく知っているね」
「下関に上陸して以来、たびたび噂を聞きました。飛行機の中で新聞も読みました。とうとううちを狙ったのですね。しかし、あいつは何を欲しがっているのです?」
「わしは、お前がいなくなってから、旧ロシア皇帝の宝冠を飾っていたダイヤモンドを手に入れたのだよ。賊はそれを盗んでみせると言っているのだ」

そうして壮太郎氏は、「二十面相」という賊について、またその予告状について詳しく話して聞かせました。
「しかし、今夜はお前がいてくれるので心強い。一つ、お前と二人で、宝石の前で寝ずの番でもするか」
「ええ、それがよろしいでしょう。ぼくは腕力には自信があります。帰宅早々、お役に立てればうれしいです」

たちまち、邸内には厳重な警戒が敷かれました。
青ざめた近藤支配人の指示で、まだ午後八時だというのに、表門をはじめあらゆる出入り口がピッタリと閉められ、内側から鍵が下ろされました。
「今夜だけは、どんなお客さまでも断るのだぞ」
老人が召使いたちに厳命しました。

夜を徹して、三人の非番警官と三人の秘書、そして自動車運転手が手分けをして、各出入り口を固め、邸内を巡視する手はずになりました。
羽柴夫人と早苗さん、そして壮二君は、早くから寝室に引きこもるように言いつけられました。大勢の使用人たちは一つの部屋に集まり、おびえたようにボソボソとささやき合っています。
壮太郎氏と壮一君は、洋館二階の書斎に籠城することになりました。書斎のテーブルにはサンドイッチとぶどう酒を用意させ、徹夜の覚悟です。書斎のドアや窓にはみな、外からは開かないように鍵や掛け金がかけられました。本当にアリ一匹入る隙間もないほどです。

さて、書斎に腰を下ろすと、壮太郎氏が苦笑しながら言いました。
「少し用心が大げさすぎたかもしれないね」
「いや、あいつが相手では、どんな用心だって大げさすぎることはありますまい。ぼくはさっきから新聞の切り抜きで『二十面相』の事件をすっかり研究してみましたが、読めば読むほど恐ろしいやつです」
壮一君は真剣な顔で、不安そうに答えました。

「ではお前は、これほど厳重に守っても、まだ賊がやってくるというのかね?」
「ええ、臆病に聞こえるかもしれませんが、なんだかそんな気がするのです」
「だが、一体どこから……? 賊が宝石を手に入れるには、まず高い塀を乗り越えなければならない。それから大勢の人の目を盗んで、たとえここまで来たとしても、ドアを打ち破らなければならない。そして、私たち二人と戦わなければならない。しかも、それで終わりじゃない。宝石は、ダイヤルの組み合わせを知らなければ開かない金庫の中に入っているのだ。いくら二十面相が魔法使いだといっても、この四重五重の関門をどうやってくぐり抜けるというのだ。ハハハ……」

壮太郎氏は大きな声で笑うのでした。しかし、その笑い声には、どこか空虚で、強がっているような響きが混じっていました。

「ですがお父様、新聞記事で見ますと、あいつはこれまで何度も、絶対に不可能だと思われるようなことを、いとも簡単に成し遂げているではありませんか。金庫に入れてあるから大丈夫だと安心していると、その金庫の裏側にポッカリと大きな穴があいていて、中身が跡形もなく消えていたという実例もあります。それに、五人の屈強な男が見張りをしていたにもかかわらず、いつの間にか眠り薬を飲まされていて、肝心な時にはみんなグッスリと寝入っていたという例もあります。あいつは状況に合わせて、どんな手段でも思いつく知恵を持っているのです」

「おいおい壮一、お前、なんだか賊を褒めちぎっているような口調だな」
壮太郎氏は、あきれたように我が子の顔を眺めました。

「いいえ、褒めているのではありません。でも、あいつは調べれば調べるほど恐ろしいやつです。あいつの武器は腕力ではなく、知恵ですから。知恵の使い方次第では、この世にできないことなどほとんどないのですからね」

父と子がそんな議論をしている間に、夜は少しずつ更けていきました。風が強まってきたのか、サーッと吹き抜ける黒い風が窓ガラスをコトコトと鳴らしました。

「いや、お前があまりに賊を買いかぶるものだから、どうやら私も少し心配になってきたぞ。念のため宝石を確かめておこう。金庫の裏に穴でもあけられていたら大変だからな」
壮太郎氏は笑いながら立ち上がると、部屋の隅にある小型金庫に近づき、ダイヤルを回して扉を開け、赤銅製の小さな小箱を取り出しました。そして、いかにも大事そうにその箱を抱えて元の椅子に戻ると、壮一君との間にある丸テーブルの上に置きました。

「ぼくは、初めて拝見するわけですね」
壮一君が、問題の宝石に好奇心をそそられたのか、目を輝かせて言いました。
「ああ、お前には初めてだったな。さあ、これがかつてロシア皇帝の頭を飾ったことのあるダイヤモンドだよ」

小箱の蓋が開かれると、目もくらむような虹色の光が飛び出しました。大豆ほどもある見事なダイヤモンドが六個、黒いビロードの台座の上で輝いていたのです。壮一君が十分に観賞するのを待ってから、小箱の蓋は閉じられました。

「この箱はここへ置いておくことにしよう。金庫なんかより、お前と私、四つの目でにらみ合っているほうが確実だからね」
「ええ、そのほうがいいでしょう」

二人はもう話すこともなく、小箱を載せたテーブルを挟んで、じっと顔を見合わせていました。ときどき思い出したように、風が窓のガラス戸をコトコトと叩いて通り過ぎます。どこか遠くのほうから、激しく吠え立てる犬の声が聞こえてきました。

「何時だね」
「十一時四十三分です。あと十七分……」
壮一君が腕時計を見て答えると、それっきり二人はまた黙り込んでしまいました。見ると、さすがに豪胆な壮太郎氏の顔もいくぶん青ざめ、額にはうっすらと汗がにじんでいます。壮一君も膝の上で拳を固め、歯を食いしばるようにしていました。二人の荒い息遣いや、腕時計の秒を刻む音まで聞こえるほど、部屋の中は静まり返っていました。

「もう何分だね」
「あと十分です」

するとそのとき、何か小さな白いものが、絨毯の上をコトコトと走っていくのが二人の目の端に映りました。
「おやっ、ハツカネズミだろうか」
壮太郎氏は思わずギョッとして、後ろの机の下をのぞき込みました。白いものはどうやら机の下へ隠れたように見えたからです。

「なんだ、ピンポンの玉じゃないか。だが、こんなものがどうして転がってきたんだろう」
机の下からそれを拾い上げ、不思議そうに眺めました。

「おかしいですね。壮二君が棚の上に置き忘れていたのが、何かの拍子に落ちたのでしょうか」
「そうかもしれない……だが、時間は?」
壮太郎氏の時間を尋ねる回数が、だんだんと頻繁になっていきます。

「あと四分です」
二人は目と目を見合わせました。秒を刻む音が恐ろしく感じられます。

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