殺人光線銃を浴びせられそうになった瞬間、彼は「こんなものに打たれて体を焼かれるよりは」と思い切り、自ら海中へ身を投げたのでした。
ところが、体はそのまま激しい渦巻きに巻き込まれてしまい、彼も気を失ってしまいましたが、その間に彼の体は海底をくぐり、岩の隙間を通り抜けて、別のこの明るい洞窟の中に浮かび出たのです。
そこはどうやら海からすぐに入り込める洞門のようでした。
おそらく彼の体は、海へ注ぐ潮に流されていくうちに、狭くなった水路のところに出ている岩の上に押し上げられたのでしょう。
どこまでも運のいい帆村探偵でありました。
こうして命は助かりましたが、荒潮にもまれ流されている間に、体は何度も硬い岩にぶつかったため、全身がずきずきと激しい痛みに襲われ、どうしても立ち上がることができません。
残念ですが、しばらく治るのを待つことにして、そのまま岩の上に長く寝そべっていました。
すると、いろいろなことが思い出されてきました。
(小浜兵曹長はどうしたかなあ)
彼は、兵曹長の身の上が心配になってきました。
(あの大利根博士という人物は、一体ほんとうの大利根博士なのだろうか。怪塔王のような声に聞こえたが、あれはどういうわけだろう)
何もかもが不思議というほかありませんでした。
(しかし世の中に、どんな不思議があるといっても、解けない謎があるはずはない。頭を働かせさえすれば、その謎は必ず解けるに違いない!)
帆村のこの前向きな気持ちを神様も喜ばれたのか、そのとき、帆村の頭に何かぐにゃりとしたものがぶつかりました。
4
洞門の岩の上、帆村荘六の頭に、ぽかりと当たったものは何であったでしょうか。それは、ぐにゃりとしていて、なんとも気持ちの悪い手ざわりのものでした。
拾い上げてみて、帆村はびっくりしました。
「やっ、これは!」
と思わず驚きの声を上げてしまいましたが、それも無理はありません。
帆村が拾ったそのぐにゃりとしたものは、やわらかい上質のゴムで作られたマスクだったからです。
それこそ、怪塔王がいつも使っているあのマスクでした。
「とんでもないものが見つかった!」
帆村は、そのマスクを光が差し込む方へとかざして、じっくりと観察しました。すると、
「ややっ、これは怪塔王の素顔!」
と、またしても驚きの声を上げました。
なんという不思議でしょうか。帆村が手にしているマスクは、怪塔王の素顔――とばかり思っていた、例の西洋人の顔だったのです。
それは鼻が低くて頬骨が出っ張った、あの汐吹(しおふき)の顔ではありません。
汐吹のマスクを脱いだ後に現れた、あの西洋人の顔! 今の今まで、あれこそが怪塔王の本当の素顔だと信じ込んでいたのに、帆村の手元にあるマスクは、不思議なことにその西洋人の顔だったではありませんか。
「なんという謎だ。
これが怪塔王の素顔でないとしたら、一体、怪塔王の本当の素顔はどんな顔をしているんだ?」
帆村は一瞬、頭の中が混乱してぼんやりとしてしまいました。
しかし、しばらくして、彼はついに恐ろしい事実に気づいたのです。
「そうだ、わかったぞ。
怪塔王の本当の素顔というのは――」
その先を口にするのが恐ろしくて、帆村は思わず唾を飲み込みましたが、意を決して言葉を続けました。
「――本当の素顔というのは、あの大利根博士だったのだ。
大利根博士が、いくつものマスクを重ねてつけることで、怪塔王になりきっていたんだ。では、あの憎むべき怪塔王の正体は、意外にも大利根博士だったということか!」
5
意外も意外、驚くべき事実です。
怪塔王の正体を暴いてみれば、それは大利根博士だったということになりました。
帆村探偵は、理屈の上では確かにそうなるのだから間違いないと信じつつも、あまりに事態が意外すぎて、これが夢ではないかと何度も考え直さずにはいられませんでした。
「いや、間違いなく、大利根博士こそが怪塔王だったんだ!」
帆村は、はっきりと自分に言い聞かせました。
そうに違いありません。
ただ、さらなる謎は、国宝級の科学者とまで言われているあの大利根博士が、なぜ仮面を脱げば、あのように憎むべき怪塔王であったのかという点です。
それこそが、どうしても解き明かさねばならない大きな謎でした。
恐ろしい怪塔王の悪事のすべてが、その謎の中に隠されているに違いありません。
なぜ? なぜなんだ?
帆村の勇気は百倍にも膨れ上がりました。
わが海軍の機密を知り尽くしている大利根博士が、あの怪塔王だとしたら、一刻たりともそのまま放置しておくことはできません。
何としても怪塔王を捕らえ、そしてなぜ怪塔王がこれほどまでの悪事を働くのか、その重大な謎を解かなければ、国防上、大変なことになります。
怪塔王は一度は死んだものと思われていましたが、ここへ来て、残念ながらその判断を取り消さなければならなくなりました。
怪塔王は、まだ生きているのです。
岩窟の中で見た大利根博士こそは、ほかならぬ怪塔王の姿だったのです。
ですから怪塔王は、ただ生きているというだけではなく、あの岩窟を脱出して、また何か新しい悪だくみをしようとしているに違いありません。
大利根博士の姿をした怪塔王は、今どこで何をしているのでしょうか。
「こうしてはいられない!」
帆村は、潮が鳴り響く洞門の彼方を、じっと見つめました。
ああ、上官……。
1
さて、お話は小浜兵曹長の場面へと移ります。
兵曹長は帆村と別れ、怪塔ロケットへと向かいました。
黒人たちは、もうすっかりおとなしくなっています。
主人のいなくなった黒人たちは、まるで虎が猫になったかのような様子でした。
兵曹長は、殺人光線灯を構えながら、怪塔の無電室へと入っていきました。
そして、さっそく秘密艦隊を呼び出したのです。
「塩田大尉にお願いします。こちらは白骨島にいる小浜兵曹長です」
そう言って、無線電話を手にしきりに呼びかけました。
艦隊は、そのとき空と海面の両方から、まだ空中に残っている敵のロケットや、海面に落ちながらも降参せずに撃ってくる敵の生き残りたちと、激しく戦闘中でした。
もちろん、この戦いは秘密艦隊の勝利となった模様です。
しかし、空中に残る最後の一台のロケットだけが、なかなか降参しようとしません。
それは敵の隊長が非常に激しく抵抗しているためでした。
この最後の一台のロケットは、なぜか非常に手強いのです。
味方が少し手を焼いているとき、小浜兵曹長からの無電が入り、軍艦「六甲」の艦橋にいた塩田大尉がマイクロフォンの前に出ました。
「おお、小浜兵曹長か。こちらは塩田大尉だ」「お前はよく生きていたな。わたしはたいへんうれしいぞ」
と、まず大尉は部下の無事を喜びました。
こっちは小浜兵曹長です。上官の声を聴いて、どれほど心強くなったことでしょう。
「ああ塩田大尉、私も上官のお声を耳にして、これほど嬉しいことはございません」と答えましたが、その瞬間、思わず胸がいっぱいになってしまいました。
2
塩田大尉と小浜兵曹長の無線電話は続いています。
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