三根夫はあの憎むべき悪党に、天蓋のところで出会って、あとで振り切って逃げたが、あのあと、まだ何か悪いことをしていたのであろうか。
「そうです。ガスコです。あいつは、アドロ彗星の回し者です。あいつは、立ち入り禁止の天蓋の所へ出て、もう十何日間も、アドロ彗星と連絡していたのです。アドロ彗星って、ご存じでしょうな、テッド博士」
「よく知りませんが、今、我々のほうへ向かってくる宇宙の賊のことですか」
「宇宙の賊! ふうん、それはいい名称だ。あの悪魔星にはうってつけの名称だ。宇宙の賊ですよ、まったく」
「で、ロナルドとスミスは、どうしたのですか」
「さあ、そのことです。我々がガスコを取り押さえようとしたが、なかなか手におえない。困っていたところへ両君が通りかかったものだから、両君に力を貸してくれるよう頼んだのです。地球人類を抑えるのには、やはり地球人類に頼むのが一番いいのです。その結果、私たちの希望通り、ガスコは取り押さえられました。もうあいつは、アドロ彗星へ連絡することはできなくなりました。だが、お気の毒に両君とも、だいぶ怪我をしました。我々は地球人類の傷の手当てをするのに十分な自信はないのです。ゆえに、両君を急いでお連れしたわけです。早く手当てをしてあげてください。それから、我々は両勇士およびあなたがたに、大きな感謝を捧げるものです」
ガンマ和尚は、ロナルドとスミスの働きについてそう語った。
両人は、すでに別室で医局員の手で手当てが加えられつつある。ガスコが死にもの狂いで刃物を振り回したので、両人は身体にたくさんの切り傷を負っていた。しかし幸いに急所は外れている。両人は、ガンマ和尚に協力することよりも、少しでも早くサミユル博士のところへ行って、連絡任務を果たしたかったのだ。しかし、ガンマ和尚たちの命令を聞かないわけにいかなかった。そこでガスコと決闘したのである。こんな傷を負い、連絡に行けなくなって申し訳ないと、両人は手当てを受けながら詫びた。
ガンマ和尚は、二人の勇士についての報告と感謝を済ませたあとで、改まった態度でテッド隊長に相談を持ちかけた。
「わがガンマ星が非常なる危機に立っていることは、もうご存じの通りです」
和尚はガンマ星という名称を使った。
「たぶん今度はアドロ彗星の攻撃から抜け出すことはできないでしょう。しかし我々は、最後まで宇宙の賊と戦う決心です。アドロ彗星には正義感というものが少しもないのです。強大には違いないが、許しておけない巨人です」
「アドロ彗星というのは、天然の彗星なんですか。それともこの怪星ガン――いや、失礼しました、ガンマ星のごとく、人工的に建造された星体なのですか」
「やはり人工的な星です。いまこの近くの宇宙において、人工的自動星が少なくとも四、五万は飛んでいるようです。アドロ彗星は、その中の一番巨大なやつで、銀河の暗黒星雲あたりから出てきた凄いやつです」
「ははあ、なるほど」
テッド隊長は思わずため息をつく。
「そこでテッド博士。折り入ってお願いしたいことがあります。それはあなたがた地球人類にお願いして、われわれがこれまで盛り上げてきたガンマ星文化というものを、できるだけたくさん、ここから持っていっていただきたいのです。わしは、それがやがて地球上において、地球人類の手で研究される資料となることを望むものです」
「驚いたご相談です。お引き受けする気持ちはありますが、どうしたらいいか……」
「われわれは大宇宙の研究に乗り出して、もう五百年以上経っているのです。最近地球と地球人類に興味を持ちまして、この前は『宇宙の女王』号を捉えたのです。」まことに失礼なことをしたわけだが、あれは私として、どうしても手に入れたかったので捕獲したのです。そして、非常に喜んだ。そこへあなたがたが来たものだから、ますます喜んで、中へ入っていただいたのです。が、失礼はお許しください。一方的なやり方で申し訳なかったのですが、私としては、もうすこし先になったら、ここであなた方と気持ちよく共同研究をする夢を抱いていたのです。だが、いまとなっては、そんな言い訳をしても何の役にも立ちません。さあ、お願いしたことを引き受けてください。私は部下たちに言い付けて、今までの文化記録を大至急、あなたのところへ運び込ませることにします。どうぞ、よろしく。もう時間もないのです」
和尚は席から立ち上がった。
「待ってください、ガンマ和尚。あなたは、我々がふたたび地球へ戻れるものと思っているようですが、我々はそんなことができようとは考えられないのですがね」
「いや、機会はかならず来ます。あなたがたは優秀な人たちです。あなたがたが機会をつかまえ損なうということはないと信じます」
そう言ったとき、ガンマ和尚は電気に打たれたように身体をびくっと震わせた。彼は席を離れた。
「私は自分の部署へ戻らねばなりません。では諸君の幸運と冷静と勇気とを祈りますぞ」
ガンマ和尚とその部下は、風のように部屋から走り去った。
大団円
その直後、事態は急に重大となった。アドロ星の撃ち出す破裂弾の射程が、いまやガンマ星に届くようになったらしく、しきりに空気は振動し、本艇はゆさゆさと揺れだした。また、ときおりどこから差し込んでくるのか、目もくらむほどの閃光が頭上で光ることがあった。
テッド隊長は忙しかった。繋留索(けいりゅうさく)は、はじめはとても本艇から外すことができないほど強いもので、それを断ち切ることを断念していたが、テッド隊長はガンマ和尚が言った言葉に希望を持ち、隊員をなおも繋留索のところへ行かせて、それを断ち切る作業を続けさせた。
「サミユル先生は、どうされたろう」
テッド隊長はもう一つ気にかかっていたことを口にした。こっちから連絡に出したロナルドとスミスが途中でああいうことになったため、サミユル博士は待ちぼうけをしているであろう。そこで無線をかけてみると、博士はついに待ちあぐねて、部下十名とともにこちらへ向かったという。
博士はまもなく姿を見せた。息せき切って、テッド隊長のところへ飛び込んできた。
「燃料がないのだ。少しもないのだ。君のところも十分ではないだろうが、できるだけ分けてくれたまえ。私は乗組員たちを見殺しにすることができない」
放射能物質であるその燃料は、本艇でも十分な貯蔵がなかった。それは怪星ガンに捕獲される前後に、ひどく使いすぎてしまったからだ。といって、テッド隊は『宇宙の女王』号を救いに来たのであるから、サミユル博士の頼みに応じないわけにいかなかった。テッド隊長は英断を下した。
「よろしい。先生のところへ、わが貯蔵量の半分を差し上げましょう。しかし大急行でここから運び出さないと、間に合わないかもしれませんよ」
その通りであった。あたりの空気を破って爆発音がしだいに間隔を縮めて、ドカーン、ドドンと気味の悪い音を響かせ、艇は波にもまれているように揺れた。
「ありがとう、テッド君。私は感謝の言葉を知らない。私は、わが乗組員に対して……」
「いや、先生。お礼をおっしゃるよりも、一分間でも早く燃料を運ぶことですよ。
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