初級翻訳・恐竜艇の冒険 第2話

恐竜艇の冒険

すばらしい計画

ぼくたち二人は、しばらくの間、その豆潜水艇「恐龍号」(どうです、素晴らしい名前ではないか)の運転を習うために、ギネタ船渠(せんきょ)会社へ通いました。
技士のアミール氏は、元海軍の下士官で潜水艦乗りの経歴が八年もある人だそうで、ぼくたちに潜水艦の操縦を教えるのはとても上手でした。
「なあに、こんなものの操縦なんてわけはない。
自分が人間であることを忘れて、魚になったつもりで泳ぎまくればいいんだ。
ほら、このとおり……」
アミール技士は、潜水艦を海面からサッと沈めたり、また急いで海面へ浮き上がらせたりして、まるで自分が泳いでいるかのように見せてくれるのでした。
「ただ、忘れてならないのは、潜るときに上甲板への昇降口がちゃんと閉まっているかどうか、それを必ず確かめてからにすること。いいかね」
「はいはい。聞いていますよ」
「それから、潜るときの注意としてもう一つ。
それは上甲板に、水に浸かると困るものが残っていないか、それに気をつけることだ」
「なんですか、水に浸かると困るものというと……」
「実例を挙げればすぐ分かる。
たとえば、上甲板に人間が残っているとする。
それを忘れてそのまま艇が海の中に潜ってしまえば、その人間は大変困るだろう。
困るどころか、溺死してしまうからね」
「ははーん、なるほど」
「第二の例。
上甲板に、虫のついた小麦粉を日に干してある。
それを中へ入れるのを忘れて、その潜水艦が海の中へ潜ってしまえば、小麦粉とはもう永久にサヨナラだ」
「ああ、分かりました!」
ぼくたちは操縦を一生懸命に練習しました。
アミール技士は、ぼくたちの熱心さに対して、最高級の言葉で褒めてくれました。
ぼくたちがそれほどまでに熱心だったのには、別に理由がありました。
それはこの豆潜水艇を手に入れてから、サムとぼくが素晴らしい計画を思いついたからなのです。
その計画を思う存分行うためには、豆潜水艇の操縦がうんと上手になっていた方がよかったのでした。
みなさん、ぼくの大計画が何であるかお分かりですか?
もうここでお話ししてしまいましょう。
それはね、ぼくたちは豆潜水艇を使って、海の中に恐龍を出す(※編注:登場させる)ということなのです。
恐龍! 知らない人はいませんよね。数千万年前に地球の上で暮らしていたという、巨大な爬虫類である恐竜。頭の先から尻尾まで三十メートル以上もあるという、とてつもない恐竜。いつだったか、ヒマラヤ山脈のふもとの村に現れて、人々を驚かせたというあの恐竜。トカゲの首を長くして、胴体をふくらませたような形をして、列車の上をひょいとまたいで行ったという恐竜。それから今から二十年ほど前、スコットランドのネス湖の真ん中あたりで、長い首をひょっこりと出していて、地元の人に見つけられたというあの太古の怪獣である恐竜! この恐竜を、ぼくたちは豆潜水艇を使って海の中に登場させる計画なのです。

いったいどうして、そんなことができるのか。えへん、えへん。それがちゃんとできるんですよ。サムとぼくで、とうとう考え出したことなのです。その仕掛けをみなさんに打ち明けると、こうです。例の潜水艇にはマストがあります。このマストに、作り物の恐竜の首を取り付けるのです。もちろん、海水に濡れても色や形が崩れない材料でこしらえておきます。こうしておいて、豆潜水艇を海の底から浮き上がらせたり、また急に沈めたりする。するとどうなるでしょう。巨大な恐竜が海の中から首を出したり引っ込めたりするように見えるはずです。

さあ、そのとき、すぐ前に汽船が通っていたらどうでしょう。「うわっ、恐竜が船のすぐそばに現れた! た、た、大変だ!」と、そこで汽船の中は上を下への大騒動となり、無電を打ったりして「大恐竜が熱帯の海に現る。二十世紀の大不思議」なんて具合に世界中に報道されて大騒ぎになるでしょう。ぼくたちは恐竜の目玉の中に取り付けてあるカメラで、汽船の騒ぎを何枚も撮っておくのです。そして当分は知らない顔をしています。そして、夏休みが過ぎた頃、「恐竜艇の冒険」と題する例の写真を発表して、全世界をゲラゲラと笑わせてしまおうというわけです。これが正直なところ、サムとぼくが考えた大計画のすべてでした。

ぼくたちは、この計画に必要な恐竜の頭部を設計し、航空便で本国に注文しました。ぼくは、そういうものを製作している工場を前から知っていたのです。その工場からはすぐ返事が来ました。遅くとも七日目には完成させて、航空便でそちらへ送ると書いてありました。サムとぼくは、顔を見合わせるとうれしくなって、その場に踊り出しました。

恐竜艇、乗り出す

それから十日後、ぼくたちは恐竜の頭部の作り物が入った荷物を受け取りました。思いのほか小さいものでした。一メートル四方くらいの箱に入っていたのです。ぼくたちはホテルの部屋で扉に鍵をかけ、この秘密の荷物を取り出しました。すばらしい出来栄えの恐竜の頭部が出てきました。さすがにあの工場です。そしてぼくたちの設計よりもずっと簡単で、便利で、優秀に仕上げてありました。

この恐竜の頭部を作り上げている材料は、目の細かい鎖網でした。その上に絹製の防水布と思われるものがかぶせてあり、これが恐竜の皮膚と同じ色をしていて、上の方には目もあり口もあるのです。畳み込むとわずか一メートル四方の箱の中に楽に入ってしまいますが、取り出して膨らませると、すばらしく巨大なものになります。恐竜の目の中にはカメラが取り付けられるようになっていました。その上、ぼくの設計にはなかったのですが、恐竜が首を上下左右に振ることのできる仕掛けがついていました。

それは操り人形と同じような仕掛けで、何本かの鎖が下に垂れていて、それを滑車とハンドルのついた巻き取り機で巻いたり繰り出したりすればいいのです。この鎖はマストの中を通って艇内へ入れるようにと注意書きがしてありました。

そのとき、突然扉がノックされました。鍵がかかっているので安心していたら、扉はガタンと開かれ、ボーイが入ってきました。
「きゃーっ!」
ボーイは、ベッドのシーツをその場に放り出して逃げていきました。
「しまったね。見られちゃったね」
「扉の鍵は君がかけたんだろう」
「確かにぼくがかけた。おやおや、これではだめだ。戸が歪んでいるから、鍵をかけても開いちゃうんだもの」

ぼくたちは大急ぎでそれを箱の中にしまいました。そしてあとでボーイが支配人を連れてぼくの部屋へおそるおそるやって来たときには、ちゃんと片付いていました。ぼくたちは「ボーイが夢を見ながらこの部屋へ来て、大怪物を見たような気がしたのだろう」と言って追い返しました。

しかし、こうなるとこの荷物をあまり長くホテルへは置いておけません。そこでその夜、ぼくたちはこの荷物を海岸にあるギネタ船渠の構内へ運び込み、ぼくたちの潜水艇の中へ入れました。あいにく月はありません。月は夜中にならないと出ないのです。ぼくたちは、その夜はこの豆潜水艇の中で眠りました。夜明けの二時間前である午前三時に、ぼくたちは起き出しました。半月が空にかかっています。その光を頼りに、ぼくたちは恐竜の首をマストに取り付けたのです。

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