夜明けまであと三十分というところで、ぼくたちは「恐竜号」のハッチをしっかりと閉めると、すぐさま出港し、潜航を開始しました。
少し沖合まで出てから、海面に浮上しました。
艇長と見張り番を、二人で交代しながら務めることにしました。
まずはサムが艇長で、ぼくが見張り番をやりました。
見張り番の役目は、双眼鏡で水平線三百六十度をぐるりと見渡し、近づいてくる船がないか注意することです。
それだけでなく、ときどき空にも目を向けて、飛行機が来ないか気をつけなければなりません。
飛行機はおどかすことができないだろうと思ったからです。
おどかせるのは船だけです。
もし船が見えたら、急いで潜航します。
そして、その船がいよいよこちらへ近づいてきたタイミングで、ぬっと海面へ浮上する手はずになっていました。
第一日目は、大した相手にはぶつかりませんでした。
なにしろこのギネタという町は、それほど大きな港ではないので、一日中、船の出入りがまったくないことも珍しくないのです。
そのため、港の外の沖合で待っていたのですが、その日はついに獲物が現れませんでした。
「今日はだめだったね」
帰ってきてから、ぼくはサムに言いました。
するとサムは、かばんの中から海図を取り出し、テーブルに広げながら言いました。
「今日の場所だと、毎日空振りかもしれない。
もう三十マイル沖合へ出れば、主要な航路にぶつかるんだ。
つまり、このあたりさ。
この主要航路で待っていれば、かなり大きな汽船が通ると思うよ。
三十マイルの往復はちょっと骨が折れるけれど、明日はやってみないか」
「ふーん。やってみよう」というわけで、翌日はエンジンを全速力で動かして遠出をしました。
ぼくもサムも、昨日と今日の見張りで、すっかり日に焼けて黒くなってしまいました。
「ここもだめじゃないか」とぼくが言いました。
「いや、気長に待たなくちゃだめだよ。
世界中の汽船がここに集まってくるわけじゃないんだから、もっと我慢することさ」
と、サムは大人のような口をききました。
しかし、彼もやはり退屈だったようで、その日、帰路につくときにはこう言いました。
「まだ本番の店開きをやっていないんだから、これから小さな船でもなんでも見つけ次第、一度おどかしてみようじゃないか」
「うん、それがいい。よし、最初の犠牲船を見つけてやるぞ」
ぼくはすぐに見張りに就きました。
港まであと三マイルというところで、ぼくは五、六艘のカヌーが帆を張って走っているのを見つけました。
一日の漁を終えてギネタの港へ戻っていく、現地の人たちの舟でした。
「見つけた。六隻の船団だ!」
「えっ、六隻の船団だって? おい、よく見ろよ。それは艦隊じゃないのか。艦隊をおどかしたりしたら、大砲やロケット弾で撃たれて、こっちはこっぱみじんだぞ」
サムはおびえています。
「よく見た。六隻の船団ではあるけれど……」
「けれど――どうした?」
「帆を張った現地人のカヌーだよ」
「なんだ、カヌーか。カヌーじゃおどかしがいもないが、店開きだからやってみよう」
そして、かねてからの手はず通りに実行しました。
すぐさま恐竜号は潜航に移り、カヌーの船団を追い越しました。
それから、ぬーっと海面に浮上したのです。
恐竜は首をもたげ、ゆらゆらと振りながら、現地人のカヌーをじろりとにらみつけました。
どぼん、どぼん。
ばたん、ばたん。
「きゃーっ!」
「きゃきゃーっ!」
ものすごい騒ぎでした。
現地の人たちは、手に持っていたオールを放り出し、大急ぎで海の中へ飛び込みました。
ぼくたちは潜望鏡でその様子を見ていて、おかしくて涙が出て止まりませんでした。
あまり長く恐竜の姿を出していると、正体を見破られるおそれがあるので、適当なところで潜航に移りました。
いたずらの祟り
巨大な汽船「グロリア号」に出会ったのは、その翌日のことでした。
「おう、来るぞ来るぞ。こっちへ来る。でかい汽船だ。一万トン以上の巨船だぞ!」
サムが見張り番をしていましたが、ものすごい声を上げました。
そこで急いで潜航に移りました。
あとは潜望鏡だけで覗いています。
巨船は、何も知らずに近づいてくるようです。
「ねえサム。あの汽船はきっといい望遠鏡を持っているだろうから、少し離れたところで浮上して、あまり近くへ寄らないほうがいいんじゃないか?」
「うん。しかし、あまり遠く離れては、相手が恐竜の存在に気づかないかもしれない。花火を上げる用意をしておけばよかったね」
「恐竜が花火を上げるものか!」
結局のところ、恐竜号はグロリア号の進路の前を横切ることになりました。
距離は半マイル。これなら嫌でも相手は気づくはずです。
ぼくたちは念入りに、海面から恐竜の頭を出しました。
しきりに恐竜の頭を振り動かしました。
口も大きく開けてみせました。
その効果は絶大でした。
巨船の甲板では、乗組員や船客があわてて走り回るのが潜望鏡を通して見えました。
ライフボートが用意され、船客たちは大あわてで乗り込んでいきました。「ふふふ、これが作り物の恐竜だって分からないのかなあ。船長さんまであわてているみたいだよ」
「おやおや、進路を変え始めたぞ。逃げ出すつもりと見える」
巨船は大きな船底を見せ、波を白く立てながら向きを変えました。そのあわてた様子は、乗組員や船客たちの騒ぎ声と共に、ぼくたちのカメラにしっかりと収められました。巨船は、やがて船尾をこちらへ向けて、全速力で遠ざかっていきました。ぼくたちは、手を叩き、膝を打って、床の上で転げ回って笑いました。
恐竜号は、それからギネタの港の方へ引き返しました。しかし、日はまだ高く昇っていたので、港へ入るには都合がよくありません。そこでぼくたちは相談して、ギネタの北東七マイルのところにある小さな無人島へ艇をつけ、夕方まで休むことにしました。そこはマングローブの密林が海の上まで張り出していたので、その密林の影に入っていれば、恐竜の長い首が海面から突き出ていても見つかる心配がなかったからです。
ぼくたちは、その無人島の影に早く入っておいてよかったと胸をなでおろしました。というのも、それから間もなく、頭上をぶんぶんと飛行機が何台も飛び交い、騒がしくなったからです。察するところ、例の巨船グロリア号が、ぼくらの恐竜を見てびっくり仰天し、そのことを無線で放送して救助を求めたため、救助の飛行機が方々からこちらへ飛んできて、空からの捜索を始めたのでしょう。次から次へと、新しい飛行機が様子を見にやってきました。だんだんと大型機に変わっていきます。
「しょうがないね。まだ飛行機のやつ、下界をのぞきこんでいるぜ」
「困ったねえ。もうすぐ日が暮れる。ぼくたちは夜間航行のやり方を習っていないから、明日の朝まで、ここを動くことはできやしないよ」
「それなら、今夜はここに泊まろう」
ぼくたちは無人島の影で一泊することになりました。夜になっても飛行機はまだ捜索を続けていました。中にはご丁寧に照明弾を落としていく飛行機もありました。
「いやに大がかりになってきたね」
「きっと恐竜事件は世界中の大ニュースになって、大騒ぎになっているんだぜ」
「痛快だなあ。
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