明石君のようにもっとまわりをよく調べてごらん。
なぞをとくためには、ふつうの人が気づかないような、こまかいところをよーく観察することが一番大切なのだよ。
そして、その見たことを、すじみちを立ててしっかり考えるんだ。
算数でも理科でも、そうやって考えれば、いつでも正しい答えが見つかるものなのさ」
高橋さんにそう教えられて、ほかの三人の少年たちも歩き出そうとした、その時でした。ずっと先の方へ行っていた明石一太郎君が、ニコニコしながら、かけもどって来ました。
「高橋さん、わかりました。
これは啓ちゃんの足あとです。
啓ちゃんは鳥じゃないから、空へまい上ったのではなくて、ちゃんとむこうの大通りまで歩いて行ったのですよ」
啓ちゃんというのは、近所の酒屋さんの子供ですが、今朝の雪投げには、仲間入りをしなかったのです。
一太郎君の答を聞きますと、高橋さんが何もいわぬ先に、横から北川君が口出しをしました。
「へえ、歩いて行ったんだって? でも、足あとがないじゃないか」
「足あとはないけれども、歩いて行ったんだよ。
君、あすこをごらん。
雪の上にポツポツと小さな穴があいているだろう。
あれはなんだと思う?」
それはさしわたし三センチほどの小さな穴が、たびはだしの足あとがとだえているへんから、七十センチぐらいの間をおいて、ポツポツとむこうの大通りまでつづいているのです。
「雪の上に石を投げた穴みたいだね。
それとも、棒の先でつついたのかしら」
木村君という少年が、小首をかしげていいました。
「アハハハ……、棒でつついたんだって? じゃ誰がその棒を持っていたんだい。
その人の足あとがないじゃないか」
北川君が、こういって木村君の考えをうちけしました。
すると今度は、一太郎少年が、妙なことをいい出しました。
「北川君、君の方がまちがっているよ。
あれは、やっぱり棒でつついた穴なんだよ」
「えっ、なんだって? それじゃ君は、棒がひとりで動きまわったっていうのかい」
北川少年はあっけにとられて聞き返しました。
「そうじゃないよ。
人が動かしたんだよ。
君は、それじゃその人の足あとがつくはずだっていうのだろう。
ところが、足あとをつけないで棒を動かすやり方が、たった一つあるんだよ。
よく考えてごらん。
なんでもないことなんだよ」
一太郎君はいよいよへんなことをいいます。
「へえ、そんなことができるのかい。
わからないなあ」
北川君も、木村君も、もう一人の少年も、なにがなんだか、わけがわからないという顔つきです。
「君たちわからないの? それじゃ、僕、啓ちゃんをここへつれて来るよ。
そうすれば、一ぺんにわかってしまうんだから。
ね、高橋さんいいでしょう」
大学生の高橋さんは、少年たちの問答を、ニコニコしながら聞いていましたが、一太郎君に声をかけられて、大きくうなずいて見せました。
一太郎君はいきなりかけ出して行きましたが、しばらくしますと、むこうの大通りから、一太郎君のニコニコ顔があらわれ、そのうしろに、高い竹馬にのった酒屋の啓ちゃんが、ヒョイヒョイと両方の竹馬の先をあげて、やってくるのが見えました。
「なーんだ、竹馬だったのか」
三人の少年は頭をかきながら、口をそろえてつぶやきました。
この近所には、あまり竹馬にのるものがなく、お友だちの中では、啓ちゃんがただひとり竹馬を持っていることを、つい忘れていたのです。
あとで啓ちゃんが話したところによりますと、啓ちゃんは今朝、みんなが雪投げをやっているころは、一人で竹馬にのって、そのへんの町を歩きまわったのですが、ちょうどこの横町の入口のところで、足袋のこはぜがはずれて、ぬげそうになったものですから、一度竹馬をおりて、それをなおして、そのまま十メートルほど竹馬をかかえて歩いてから、また乗って行ったのです。
大通りの方はたくさんの人の足あとで、雪がふみけされていたので、そのあとは残りませんでしたが、横町は誰も通っていなかったので、啓ちゃんが、たびをなおしてから歩いた足あとが、はっきり残ったわけです。
でも、もし啓ちゃんが、竹馬が下手でしたら、たぶん塀ぎわまで行って、塀にもたれて竹馬にのったでしょうから、雪の上にそのあとがついて、謎はもっと早くとけたのでしょう。
ところが、雪投げよりは竹馬の方が好きなほどの啓ちゃんですから、なかなかの名人で、道の真中でも平気で、ヒョイヒョイと竹馬に足をのせて、そのまま歩いて行くことができたものですから、足あとの謎をとくのが、あんなにむずかしくなったわけでした。
そこで、大学生の高橋さんは、一太郎君の考え深いのを、たいそうほめましたが、そのあとで、ほかの三人の少年たちに、こんなことをいいました。
「君たちは、なーんだそんなことかというけれど、そのなんでもないことが、君たちにはわからなかったじゃないか。
足あとのかわりに、まるい小さな穴がならんでいるのは『なぜ』ということを、よく考えてみれば、竹馬という答のほかはないはずだよ。
それを考えつくのが智恵というものだ。
それに気がつかない君たちは、謎をとくことでは、やっぱり智恵の一太郎君にはかなわないわけだね」
智恵の火
「お父さん、何かおもしろい謎の題を出して下さいよ。「今日は、うんとむずかしいのをね」
「そうら、また一太郎のいつものおねだりがはじまったね、よしよし、それじゃあ今夜は、お父さんも頭をしぼって、うんとむずかしい問題を出してやるぞ」
赤々と炭火のもえた火鉢をかこんで、明石一太郎君のおうちの人たちが、晩ごはんのあとの、うちくつろいだ一ときをすごしていました。
白髭を胸にたれて、いつもニコニコしていらっしゃる、一太郎君のお祖父さん、頭を坊主がりにして、口髭のりっぱなお父さん、そのとなりにはお母さんと、それからお母さんのお膝にもたれて、じっとみんなのお話をきいている、まだ幼稚園生の妹の妙子ちゃん。
お父さんの正面には一太郎君が、お父さんの真黒な口髭の下から、今にどんなむずかしい謎がとび出してくるかと、目をみはって待ちかまえています。
それは真冬の二月はじめのことで、庭のお池にはりつめた氷が、昼間もとけないで、一日一日と厚みをまして行くような、寒い寒いころでしたが、部屋の中は、大ぜいがあつまっているのと、火鉢のおかげで、心持よいあたたかさです。
「ウン、それじゃあ、こういう謎がとけるかね」
しばらく考えておいでになったお父さんが、ニッコリしておはじめになりました。
「いいかい。
ここにお椀に半分ばかりの水があるとするね。
その水でもって、どうすれば火をもやすことができるかというのだ。
水から火をつくる法とでもいうかね。
井戸の水でもいい。
水道の水でもいい。
だが、薬をつかってはいけないのだよ。
お前も理科でならっただろうが、薬品をまぜあわせて火をもやすやり方はいろいろある。
しかしお父さんのは、そういうことではなくて、ただの水をつかって、火をもやしてごらんというのだよ。
わかったかい。
どうだ、むずかしいだろう」
お父さんはそういってお笑いになりましたが、なるほどむずかしい問題です。
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