「もうロープの用はない、とこうや」
「よし」
少年たちは、ロープをほどきはじめた。
「おや、なにか、あやしい音がしているよ、五井君、四本君、六条君、あれは何だろう」
二宮のおびえた声が響いた。
「あやしい音がするって?」
「あれは時計の音だよ、さっきからしているんだ」
かった、かった、かった。
ゆっくりと同じ周期で同じ音がくりかえされている。
たしかに時計の音に間違いなかった。
「時計は停っていたはずなのに……」
「さっきの地震のせいで、久しぶりに、動きだしたんだろう」
「ああ、そうか!」
ロープをといたあと、五井は、さっき見かけたあかりのさしこむところまで行ってみた。
四本の懐中電灯でよく照らしてみると、そこはとなりの部屋との間のすき間らしかった。
だが、となりの部屋へは、かんたんに行けそうもなかった。
というのも、壁がしっかりしているばかりか、引きあけるための取っ手も、何の穴もなかったからだ。
つまりここは、この部屋にいる者が勝手に開け閉めできる場所ではなかったのだ。
五井たちはがっかりしたが、それでも希望を捨てず、この部屋の中を探しまわった。
この部屋はがらんとしていて、何一つ置かれていなかった。
戸もなければ、ふすまもない。あるのは厚い壁ばかりで、天井は太い木を組み合わせた格子天井になっていた。いったい、この部屋はどこから出入りするのか見当もつかない。
「あっ、窓があるよ! あそこにある、空気ぬきかもしれないぞ」
六条の目が、天井に近い隅っこに、鉄格子のついた小さな窓のようなものを見つけた。
しかし、この窓からは光が入ってこなかった。
鉄格子の外側に、窓をふさいでいる何者かがあるのだ。
「あれを、叩きやぶろうじゃないか! そうすれば光が入ってくるかもしれないよ」
「賛成だ。それでは、元の場所まで戻って、階段のこわれたところから、使えそうな材木でも見つけてこよう」
そのときだった。
とつぜん大きな音をたてて、鐘が鳴り響いた。
かーん!
「あっ、なんだろう!」
ぎりぎりと音がして、また、かーんと鐘の音が響きわたった。
四人の少年は思わず一つところに駆け寄った。
久しぶりの報時
「なんだ、あれは! 時計が鳴りだしたんだよ」
「えっ、時計のか? ほんとうか?」
「時計だよ! 時計はさっきから動いていたんだから、ちょうどいい時間になれば、音をたてて鳴りひびくはずさ」
「三つ打ったね……三時だ!」
「そうだ、三時だ。ほんとうの時間は、今いったい何時ごろなんだろう?」
「やっぱり三時ごろじゃないかなあ」
「気味のわるい音だね……この時計台の時計の響きは……」
そう話し合っているとき、さらに思いがけないことが起きた。
さっき見つけた空気穴らしいうす汚れた小窓のふたが、ひとりでに、ぱっと開いたのだ。
そしてそこから、さっと明るい光線が差し込んできた。
「あっ、あの窓が開いたよ!」
「いったい、だれが開けたんだろう?」
「みんな、油断するなよ! きっとこのあと、なにか恐ろしいことが起きるぞ!」
五井が大声で叫んだ。
「ほら、もうなにか起きてるよ! そこの壁が動いている!」
今度は四本の声だ。
「えっ、壁が動いているって?」
「そうだ、窓の左手の壁だ! 壁全体が上に上がっていっている!」
「あっ、本当だ! みんな、うしろへ下がれ、危険だぞ!」
五井はみんなを壁とは反対のうしろへと引っ込ませた。
その間にも壁は音もなく上へと上がっていく。その向こうにいったい何があるのか――あいにく、その奥はまっくらで、何の形も見えなかった。
壁はだんだん上がっていった。
このまま天井の中にでも吸い込まれてしまうのだろうか。
やがて、壁はてっぺんまで上がりきった。
ことんと小さな音がしたかと思うと、今上がった壁の向こうの部屋が、急にぱっと明るくなったのだ。
どこかに明かり取りの窓があって、それがいま開いたものらしかった。
さて、四人の少年は、その次の部屋にいったい何を見たのだろうか?
「あっ……!」
「なんだ、あれは……!」
少年たちは、心のどこかで、かねてから噂に聞いていた「左東左平(さとうさへい)の妻・お峰と娘・千草らしい二体の白骨が、寝床に横たわっている」という、あの恐ろしい光景を目にするのではないかと身構えていた。
ところが、その予想はまったくはずれた。
少年たちが見たものは、古ぼけた洋風の実験室のような場所だった。
いくつかの実験台があり、その上にいろいろな形をしたレトルト、ビーカー、蛇管(だかん)などが、それぞれの架台にのせて置かれている。
たくさんのガラス瓶が並んでいる。
古いタイプの摩擦電気を起こす発電機のようなものもある。
小さな炉のようなものもある。
ふいごが三つもころがっている。
棚には、本や薬品の瓶らしいものがずらりと並んでいる。
椅子が一つ、横たわるように倒れている。
ほかの腰掛けはちゃんとしている。
壁には額縁が一つ、ひんまがって掛かっていたが、その中には肝心の絵が入っていなかった。
いや、入っていなかったわけではない。
そこにはめ込まれていたはずの油絵らしきものが、きれいに切りとられていたのだ。
それはどうやら、誰かの肖像画らしかった。
八木君目ざめる
話はここで、八木のほうへと戻る。八木君は、空井戸の中にひとりぼっちとなり、心細くなっていた。
空井戸の底から上を見上げたとき、井戸の上あたりで、鬼火が二つおどっているのを見て、びっくりした。
そこまでの話は、前にしておいた。
八木君は、肝玉のすわっている方であった。
けれども、青白い鬼火がふわふわと宙におどっているのをこんな場所でしかも心細いひとりぽっちで見物したんでは、あまりいい気持ではない。
「あああァ……」
と、八木君は声をあげて、地下道をまた奥の方へ逃げこんだ。
そこで彼は小さくなって、土の壁にもたれてかがんでいた。
恐ろしさに気がつかれ、その上に、ここへはいってからの活動のつかれも一時に出て来て、八木君はいつとも知らず睡りこんでしまった。
それからどのくらい時間がたったか、八木君は知らなかった。
夢の中に、カーン、カーン、と天主教会の鐘がなるひびきを聞いた。
大司教さまが、盛装をしてしずしずとあらわれた。
と、下から清水がこんこんわき出して……。
「あッ、水が出てきた」
八木君は目をさました。
気がついてみると、あたりは水だらけになっている。
お尻も足も、水づかりだ。
なぜ急に、こんなに水が出てきたのか。
八木君は、立ち上った。
そして足もとに注意し、耳をすました。
水は、だんだんふえて来る様子だ。
すこしはなれたところで、どうどうと音がしている。
それから水がわいて来るものらしい。
「このままでは、溺れてしまう、なんとかして、水の出るのをとめることはできないかしらん」
八木君は、この期におよんでも、あわてることなく、冷静を保っていた。
ざぶざぶと水をわたって、八木君は、水のわいてくると思われるところへいってみた。
あいにく、まっくらで分らない。
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