初級翻訳・怪塔王 第17話

怪塔王

駆逐艦隊は昼も夜も、ずっと海上の警戒を解かず、もしや怪塔ロケットが波間から顔を出した時は大砲でドゥンと撃ってやろうと思って待ち構えていましたが、相手はどこに隠れているのか何の音沙汰もありません。
ここで話は、勿来関(なこそせき)近くの山の中に移ります。
炭焼きのお爺さんが山の中で、気を失っている少年を見つけました。
そんな深い山の中に少年がやって来たのも不思議なら、少年の服装や足を見ても、旅をしたらしい様子がないのも不思議でした。
助け起こしてみますと、少年は右足に怪我をしていました。
さっそく傷の手当てをしてやり、小屋へ連れて行くなどして、炭焼きのお爺さんは思いがけない仕事にくるくると働きました。
少年がやっと正気にかえったのは、それから三十分も後のことでした。
少年は気づくとお爺さんの顔を見てびっくりし、逃げ出そうとしましたが、足がきかないのでそのままパタリと顔をわらむしろの上に伏せ、
「ああ、痛い、痛い!」
とわめきながら、痛む足を抱えました。
この少年は誰であったでしょうか。一彦少年です。
皆さんよくご存じの一彦君なのでありました――一彦といえば、彼は怪塔の中にいたはずなのに、なぜこんな山の中に転がっていたのでしょうか。
「どうだ、そんなに痛いかね。男の子だ、我慢しておくれ、我慢して」
とお爺さんはしきりに一彦をいたわっています。
一彦は歯を食いしばりながら、
「お爺さん、町へ知らせるのには、どうするのが一番早いの?」
と尋ねました。

2

傷ついている少年から、町へ使いを出すにはどうするのが一番早いかと聞かれた炭焼き爺さんは、少年の顔をじっくり見やりつつ、
「町へ使いを出すといっても、そんなにいく通りもやり方があるわけじゃない。わしがとことこ山を降りて行くよりほかに、別段変わった方法はないねえ」
と答えたあとで、
「しかしお前さんは、どうしてこんなところへやって来たのかね。お前さんは一体誰だね?」
と、さも不審そうに尋ねました。少年は、傷が痛むのか顔をしかめていましたが、やがて口を開きました。
「……僕のことかい。僕は一彦という名前なんだよ」
「なんじゃ、カズヒコというのか」
「そうだ、一彦だ。怪塔の中から逃げ出したんだ。その時こんなふうに傷を負ってしまったんだ」
傷ついている少年は、意外にも一彦だったのです。怪塔の中に、帆村荘六とともに閉じ込められているはずの一彦少年が、意外も意外、山の中に放り出されていたというわけでありました。
しかし、炭焼きのお爺さんには、「一彦」と言われても、「怪塔」と言われても、何のことだかさっぱり通じません。
「怪塔ってのは、いったい何のことかな?」
と、のんきに問いかけました。
「怪塔を知らないの?」
一彦は目を丸くして言いました。
「ほら、昨日のことさ。たくさん飛行機がやってきて、空から爆弾を落としていたじゃないか。この山の向こうでやっていたじゃないか。あれは飛行機が怪塔を攻めて、空から爆撃していたんだよ」
「ほうほう、なるほど、あれか。わしは演習でもやっているのかと思っていたんだ」
「演習だなんて、お爺さんはのんきだなあ。そして最後に大きな塔が尾を引いて、空中へ飛び出したじゃないか。あれが怪塔だよ。僕は、あの塔の中から逃げ出したんだよ」

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「ああそうか、あれが怪塔かね。あれならわしも見たぞ。いま聞けば、お前はあの中から逃げてきたというが、一体どうして、また怪塔の中なんぞにいたのかね」
炭焼きのお爺さんは目を丸くして、次から次へと一彦少年に尋ねました。
一彦としては、お爺さんに聞かせてやりたい山ほどの話がありましたが、そんなことよりも、一分でも早く塩田大尉に知らせ、一彦が怪塔から逃げ出すまでに起きたさまざまなことを報告しなければならないと思いました。
「ねえ、お爺さん。ぐずぐずしていると、怪塔王のせいで日本の軍艦がどんなにひどく壊されてしまうかわからないんだよ。だから僕はね、少しでも早く海軍の軍人さんか、お巡りさんかに会いたいんだ。急がないと、大変なことになるんだ。ねえ、お爺さん。すまないけれど、山を下りて、誰かに僕がここにいるということを知らせてくれないか」
一彦は熱心な様子で訴えました。
日本の軍艦がひどく壊されてしまうという話を聞いて、炭焼きのお爺さんは飛び上がるほど驚きました。なぜなら、このお爺さんの一人息子は水兵さんで、いま軍艦に乗っているからです。軍艦も大切ですし、一人息子も大切です。
「よし、じゃあこれからわしが村のみんなへ知らせよう。待てよ、早く知らせるには、これから山を下りるよりももっといい方法があったっけ。もっともこれは、天地がひっくり返るような大事件の時でないと使ってはならぬと、村のみんなとのあいだで申し合わせているんじゃが、怪塔王が日本の軍艦をメキメキ壊すというのなら、この非常警報を使ってもかまわんじゃろ」
そう言うと、お爺さんは腰に下げていた鎌を取って、そばに生えていた太い竹を切り落とし、ちょうどいい長さに切って穴を開けました。
お爺さんは、いったい何を作っているのでしょうか。

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「お爺さん、竹を切って、それで一体何を作るの?」
一彦は、お爺さんの手に握られた鎌が器用に動くのを感心しながら言いました。
「うん、これかね。これはわしの大得意な『竹法螺(たけぼら)』じゃ」
「竹法螺って、何さあ?」
「お前は竹法螺を知らないのか。こいつは驚いた。まあ見ているがいい」
そう言ってお爺さんは、五十センチほどの長さに切った竹筒に細工をしていましたが、やがてにっこりと笑いました。
「さあ、竹法螺ができたぞ。これならよく鳴りそうだ」
お爺さんは竹法螺を唇に当て、はるか麓(ふもと)の村の方を向きながら、プウッと大きな息を吹き込みました。
プーウ、プーウ、プーウ、プーウ。
竹法螺は、大きく、そしていい音色で朗々と鳴り出しました。その音は山々に木霊(こだま)し、ウウウーッと長く尾を引いて響き渡りました。
「ああ、いい音だなあ」
一彦少年は、傷の痛みを忘れて、お爺さんの吹く竹法螺の音に聞き惚れました。
お爺さんは、いくたびもいくたびも竹に口を当て、頬っぺたをゴムまりのように膨らませて、長い信号音を吹き続けていましたが、やがて言いました。
「さあ、このくらいやれば、村の衆の耳に、この竹法螺の音が届いたはずだ」
「お爺さん、今の竹法螺を聞きつけて、村の人がこの山の中まで登ってくるのかい?」
「そうさ。みんな驚いて、ここへ登ってくるよ。ああいう吹き方をすると、ちゃんと場所がわかるのさ」
「竹法螺をいろいろに吹き分けて、麓の村へ言葉を知らせられないの?」
「吹き分けて言葉を知らせることができるかって?」「それは無理だ、息が続かない」

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炭焼きのお爺さんは首を振って、竹法螺で麓の村へ言葉を送るなんて、とても息が続かないと残念そうに言いました。これを聞いた一彦少年は、少しがっかりしました。
しかし、麓の村からこの山の中まで、村人たちにわざわざ登ってきてもらい、また山を下りて塩田大尉のところへ使いに行ってもらうのは、どう考えても二度手間です。何かほかにいい通信方法がないものかと、一彦は知恵を絞ってみました。

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