怪塔ロケットは、傘のように固まっていた数多くの爆弾が弾け飛ぶ中をすり抜けて、天空へと舞い上がったのです。
見てみると、怪塔ロケットにはどこにも壊れた様子がありません。
それもそのはず、怪塔ロケットは前もって強力な磁力砲を全開にして飛び出したので、鉄でできている爆弾の破片なんてものは、すべて吹き飛ばされてしまったのです。
2
怪塔ロケットは爆弾の破片を吹き飛ばし、その恐るべき姿を夕焼け雲の上に現しました。
お尻の部分からはシューシューとガスを噴き出していますが、それが夕日に照らされて、あるときは白く、あるときは赤く、またあるときは黄色になり、怪塔ロケットをより一層不気味に際立たせていました。
塩田大尉は偵察機隊を率いて、雲間を縫うように飛びながら、怪塔ロケットの後を追いかけました。
小浜兵曹長は、大尉の隣にぴったりと寄り添い、戦いを仕掛けるのに絶好のタイミングを狙っています。
「おい、小浜。わが機はもう全速力を出しているのか」
「はい、塩田大尉。速力はもう限界まで出しております」
「そうか。早く追いつかないと夜になってしまう。そうなると探すのが面倒だ」
「はい。今度こそ何としても追いついて、体当たりで撃墜したいものだと私は考えております」
「うむ、俺も同感だ。俺はこっちの機体を怪塔ロケットの尾翼にぶつけて、舵(かじ)を壊してやろうと考えている。舵を失えば、いくら怪塔ロケットだって飛ぼうとしても飛べないはずだ」
「なるほど、それは名案ですな。よろしい、私は精一杯がんばりますよ」
塩田大尉はさすがに隊長だけあって、優れた考えを持っていました。しかし、相手の舵を体当たりで壊すといっても、実際にやるのはなかなか大変なことです。果たしてうまくいくのでしょうか。
怪塔ロケットは、急に頭を上に向けてグングンと天に昇っていきました。そうかと思うと、また急に舵を切って南の方へ走り出します。するとまた今度は急に上を向き、お尻をキリキリと振りながら天へと昇っていきます。どこへ飛んでいくのか、さっぱり分かりません。まるで酔っ払いの足取りのようでした。
3
怪塔が酔っ払いの足取りのようにあっちへ飛び、こっちへ飛んでいるのも無理はありません。
なぜなら、怪塔の中では、運転手の黒人たちが二人の怪塔王がそれぞれに叫ぶ、まったく反対の命令に怯えきって、あるときは天へ、またあるときは水平にと、めちゃくちゃに飛び回っていたからです。
そのうちにも、怪塔はいつしか太平洋の上に出ていました。夕焼けの残りの光がだんだん薄くなってきて、今やあたりはすっかり暮れようとしています。
塩田大尉は死力を尽くして、空中の怪塔ロケットを追いました。怪塔ロケットが迷走してくれているおかげで、塩田大尉の機はようやくそのそばに近づくことができました。
「もうすぐだ、がんばれ!」
塩田大尉は操縦員を盛んに励ましています。
「舵を狙え! こっちの車輪で、あの舵を蹴散らすんだ!」
大尉の後に続く各偵察機も、大尉の気持ちを察して、自分こそが体当たりで怪塔ロケットの舵を壊そうと、一生懸命に追いかけています。
そうこうするうちに、塩田大尉機が待ちに待っていた機会がやってきました。
怪塔ロケットが上を向いたままガスを止めたため、ロケットはその重さでだんだんと上昇速度が落ちてきたのです。おそらくロケットは、やがてクルリと一転して下向きになると同時に、サッと水平に走り出すことでしょう。まるでインメルマン旋回のような動きです。
ロケットが上昇速度を落とし、宙に止まりかけたところを塩田大尉は見逃さず、「今だ! 垂直旋回! 敵の舵を払え!」と、大胆極まりない号令をかけました。
4
塩田大尉はさすがに優秀な軍人でしたから、最高に良いタイミングで体当たりの命令を出しました。
大尉の乗った偵察機は、垂直旋回のまま、怪塔ロケットの尾翼を狙って見事に「ドゥン!」とぶつかりました。
「ううむ、どうだ!」
必死の覚悟でぶつかったのです。飛行機の車輪を使って、怪塔ロケットの尾翼を蹴散らしたのです。
激しい音と共に相手の尾翼はもぎ取られ、火花のようなものがピカリと光りました。偵察機もまるで突き飛ばされたように空中でひっくり返り、塩田大尉をはじめ乗っていた者たちは、みんなクラクラと目まいを覚えました。
それでも気丈夫な操縦員はがんばって、傾いていた機体を元の状態に戻しました。グズグズしていれば墜落したかもしれないところを、危ういところで食い止めたのでした。「喜んでください、機体は無事です!」
と操縦員が叫びました。
ゴム製の車輪は思った以上に頑丈で、敵の尾翼を蹴飛ばしても平気でした。
そのころ、塩田大尉や小浜兵曹長はようやく目まいが収まり、目を開けられるようになりました。
「怪塔はどこへ行った?」
「あれ、見えないぞ!」
二人は座席から身を乗り出して、上を見たり下を見たりしました。
「あ、あそこにいます!」
小浜兵曹長が見つけました。
「おお、いたか。どこだ?」
「あれです。あそこの夕焼け雲を突き抜けて、下へ落ちていくのが見えます」
小浜兵曹長の指差す方を見ると、なるほど、怪塔ロケットはその半分を夕日に照らされ、雲の影に尾を引きながら落ちていきます。
そして機体は、ブルンブルンと奇妙に首を振っているのでした。
5
塩田大尉は、再び全機に命令を出して怪塔ロケットの跡を追わせました。
全機は、それこそ隼(はやぶさ)のように猛然と怪塔ロケットを追いましたが、相手はブルンブルンと首を振りながら、ついに海中へドボンと落ちてしまいました。
「あっ、怪塔ロケットが海の中にもぐり込んだぞ!」
「いや、墜落したのだ。早くあの真上まで行って確かめろ!」
どこかへ飛び去るかと思われた怪塔ロケットが、勢いもついになくなったのか、そのまま太平洋の波間に沈んでしまったものですから、塩田大尉以下は面食らってしまいました。
偵察機は海面すれすれまで降りて、怪塔ロケットが見えるかどうか探しました。
しかし黒い海は、どこにロケットを飲み込んだのか、何食わぬ顔をしていました。
仕方なく塩田大尉は、全機を少し遠くに離し、海面を広く警戒するように命令しました。
それは怪塔ロケットが、いつ波間から飛び出してくるかもしれないと思ったからでした。
しかし怪塔ロケットは、ついに再び姿を見せませんでした。
そして暮れかかっていた空はどんどん暗くなっていき、とうとう真っ暗な夜になってしまいました。
こうなっては、怪塔を探すことができません。
塩田大尉は残念に思いましたが、やむを得ずあとのことを、折から全速力で集まってきた駆逐艦隊に任せ、ついにそこを引き揚げることにしました。
怪塔ロケットはどこへ行ったのでしょうか。そして今はどうなっているのでしょうか。怪塔王や帆村探偵は何をしているのでしょうか。
いろいろな謎を包んだまま、怪塔を飲み込んだ黒い海面は、静かに眠り続けています。
炭焼き老人
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太平洋の波間に姿を消してしまった怪塔ロケットは、その後も少しも姿を見せませんでした。
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