あの警報ベルが鳴っているのが聞こえるだろうな」
「は、はーい」
「あれはお前たちも知っている通り、この塔の一部が壊れたのを知らせているのだ」
「はい、はい」
「このままでは危険だから、塔を早く動かさなきゃ危ない」
「はあ、その通りです。私どももさっきからそれを申しておりましたので……」
「じゃあ、すぐ動かせ。よく気をつけて動かすんだぞ」
「先生、どっちへ塔を動かしますか」
「うん、それは――」
と怪塔王はちょっと考えてから言いました。
「そうだ、横須賀の軍港へ下りるように、この塔を飛ばしてくれ」
「へえ、横須賀軍港! それは危ない」
黒人たちは、横須賀軍港と聞いて顔色を変えました。
4
「横須賀の軍港とは、ワタクシ驚きます」
円筒の中の黒人は、大きなため息とともに、怪塔王にあわれみを乞うように言いました。
もう一人の黒人も震える声を出して言います。
「横須賀の軍港へこの塔を持っていくと、ワタクシたち、まるでわざわざ捕虜になりに行くようなものです」
残りの一人の黒人だけは、元気よく叫びました。
「いや、そんなことはない。横須賀軍港であろうが何であろうが、わが塔の誇りとする磁力砲で戦えば、軍港なんかめちゃめちゃだ。ワタクシ、心配しない。オマエたちも心配することはない」
そう言って胸を張りました。
「いや、なかなか心配がある。軍港には、大砲ばかりでない。日本水兵はなかなかつよい。それが塔の中へ入ってくる。磁力砲では人間を防ぎきれない」
「そのときは、殺人光線でもって水兵をやっつける」
「だめだめ。殺人光線は、数が一つしかない。大勢の水兵が攻めてくると、殺すのがなかなか間に合わぬ」
「いや、だめでない」
「いやいや、だめだめ」
黒人たちがさかんに言い争っているのを、そばではアラビアの王様が着ているような長いマントをまとった怪塔王が、難しい顔をして聞いていましたが、
「お前たちは黙りなさい。わしの命令だ。さあ早く、横須賀へ飛ばせるんだ」
と手を振りました。黒人たちは、怪塔王の剣幕にびっくりして、円筒の中に首をひっこめました。
この黒人たちは、この怪塔の運転手だったのでした。怪塔王が特別に教え込んである、なかなか重宝な運転手です。
いよいよ怪塔はまた飛び出すことになりましたが、そのとき天井に取り付けてある拡声器が、突然ガアガアと鳴り出しました。5
突然、頭の上で拡声器がガーガーと鳴り出しました!
三人の黒人は、またしてもびっくり仰天です。
しかし、それ以上に驚いたのは怪塔王でした。
彼は素早く腰をかがめると、床に落ちていた木片を拾い上げ、天井の拡声器めがけてパッと投げつけました。
その木片は拡声器には当たらず、そのまま下へ落ちていきました。
このとき、拡声器の中からしゃがれた声が飛び出しました。
「おい、ジャンにケンにポンよ。塔を横須賀の方へ飛ばしてはならんぞ。わしの命令だ。背いた奴は、あとで魂を火あぶりにしてやる」
その声は、怪塔王の声とそっくりでした。
「おやおや、先生はそこに立っているのに、三階からも先生の声がするぞ」
黒人たちは、驚きで目が点になっています。
「こら、早く横須賀へやれ。わしのこの顔が見えないとでもいうのか」
と、室内にいる怪塔王は怒鳴ります。
「へえへえ、それでは横須賀へ……」
と黒人たちは頭を下げながら、心の中でこう思いました。
(変だな。この先生の顔はどう見ても先生に違いないが、言葉遣いが少し違うような気がするぞ。しかし、先生と全く同じ顔の人が二人もいるはずがない。なんだかわけがわからなくなってきたぞ)
そう思っているところへ、頭の上から声が降ってきました。
「おい、ジャンにケンにポンよ。わしの声がわからないか。お前たちの前にいるのは、偽者のわしだぞ。言うことを聞いてはいけない」
「えっ、それでは……」
と、三人の黒人は目をキョロキョロと動かし、天井を見上げたり、室内の怪塔王の顔を眺めたりしました。
「わしがここにいて命令をしているのに、お前たちは何を騒いでいるのか」
と、室内の怪塔王は不機嫌そうです。
6
顔の怪塔王と、声の怪塔王!
塔の中に、怪塔王が二人できてしまいました。
黒人たちは大パニックです。なぜなら、顔の怪塔王が「横須賀へ飛べ」と言えば、声の怪塔王は「横須賀へ飛んではならない」と命令するからです。一体、どちらに従えばいいのでしょうか。
もし帆村探偵がそこに居合わせたなら、どちらが本物の怪塔王かを見破ったことでしょう。その帆村探偵もこの塔の中にいるはずですが、まだ姿を見せません。一彦少年も、どこで何をしているのでしょうか。
「何をぐずぐずしている。塔を早く横須賀へ……」
「いや、横須賀へ飛ばすことはならんぞ!」
顔と声、二人の怪塔王による大喧嘩です。
その時、怪塔の外では、塩田大尉が指揮する編隊機が何度も翼をひるがえして猛襲を仕掛けてきていました。機銃は怪塔の窓を狙って、ドドドド、タンタンタンと激しく銃弾を浴びせ続けます。
この凄まじい勢いは、黒人たちを震え上がらせるのに十分でした。
三人の黒人は震えながら互いに目配せをしていましたが、やがて何か打ち合わせができたのか、一斉に円筒の中へ姿を隠し、蓋を閉じてしまいました。
すると間もなく、ゴーゴーと機関が回り始めました。塔がガタガタと揺れます。配電盤の上のたくさんのメーターが一斉に針を動かしました。
ガンガンガン、ゴーゴーゴー。
「横須賀へ飛ぶんだぞ!」
「だめだ。太平洋の方へ飛べ!」
両方の怪塔王が互いに怒鳴り合っていますが、その声は虚しく塔内に響くだけです。
怪塔がドスンと激しく揺れたかと思うと、矢よりも速く、シューシューと白いガスを吐きながら空へ向けて飛び出しました。
ああ、危ない! 爆弾の傘が行く手を塞いでいるというのに――。
大爆発
1
怪塔はついに勿来関の停泊地を抜け出し、大空へ向けて飛び出しました。
再び怪塔ロケットとなって飛行を始めたものの、塔の上には、わが爆撃隊が落としていった爆弾が傘のような格好をして、塔の行く手を邪魔していました。
そこへ塔がサッと飛び込んでいったのですから、さあ大変。
ドドン、ガラガラガラ、ガンガン!
激しい爆発です。あたりは真っ黒な煙に覆われ、まるで夕立雲が一塊になって降ってきたようなありさまです。
ピカピカピカ、ピカピカピカ。
爆発の火か、それとも電気か、どちらともわかりませんが、目もくらむような光がキラメき、その凄まじさといったらありません。
塩田大尉の指揮する十数機の飛行隊は、その周りを飛びながら、この恐ろしい光景を「あれよあれよ」と見守っています。
さすがの怪塔も、そこで粉々に壊れてしまったのでしょうか。
いやいや、そうではありませんでした。
その時、夕立雲のような黒煙の上部を突き破り、サッと天に向けて飛び出した砲弾の化物のような巨体!
「ああ、怪塔ロケットが、あんなところから飛び出した!」
「うむ、怪塔ロケットだ。逃すな!」「それ、全速力で追撃だ!」
塩田大尉は、全機に向けて一大号令を発しました。
すると、あら不思議。
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