初級翻訳・怪塔王 第14話

怪塔王

へんな傘とは、どんな形のものであったでしょうか。
それは塔の頂上から五六メートル上に、不発の爆弾がたくさん同じ平面上にならんでいるのがちょうど傘をかぶったように見えるのです。
「これは不思議だ。上からおとした爆弾が、下におちないで、あのように宙ぶらりんになっている。一体どういうわけかしらん」
「塩田大尉、まるで魔術みたいですな。こいつはおどろいた」
と、小浜兵曹長もすっかり面くらっております。塩田大尉は腕を組んで考え込んでいましたが、やがて「うむ」と大きくうなずき、こう命じました。
「小浜、怪塔を機銃で撃ってみよう。偵察機全機で撃ちまくるんだ。すぐに命令を出せ!」
大尉は機銃射撃を決心したのです。命令はすぐさま発せられました。塩田大尉の乗る司令機の後ろに従っていた五機の操縦士たちは、機首の機銃の引き金に指をかけ、いつでも撃てるように準備して次の合図を待ちました。すると、
「怪塔へ射撃準備! 目標は三階の窓だ。塔の周りを飛びながら射撃せよ。撃ち方始め!」
号令が下るやいなや、だんだんだんだん、どんどんどんどんと、激しい射撃が浴びせられること一分あまり。「撃ち方やめ!」の合図で、射撃はピタリと止まりました。
ところが、どうも不思議なことが起きました。怪塔の窓には確かにガラスが入っているはずなのに、少しも壊れません。怪塔の外壁に弾丸が当たれば、火花や煙のようなものが出るはずですが、それさえも見えないのです。さすがの塩田大尉もいらいらした様子で、塔の方をじろじろと見つめていました。すると――。

7

塩田大尉の命令で、六機の偵察機は怪塔の周りをぐるぐると旋回しながら、激しく機関銃を撃ち始めました。もちろん怪塔を狙って撃っているのですが、どうしたことか、弾丸は少しも怪塔に当たりません。
「これは変だぞ」
怪塔王の不思議な力を知らない操縦士たちは、首をかしげました。では、弾丸は一体どこへ消えたのでしょうか。もしこのとき、誰かが塔の近くに寄ってよく見たならば、弾丸は塔の壁から一、二メートル外側の何もない空間に、まるでゴマをまいたかのように、じっと停止しているのが見えたはずです。
塩田大尉は機上から双眼鏡の焦点をしきりに合わせていましたが、このように弾丸の壁ができているのを見て取ると、ニッコリと笑いました。
「よし、これでいい」
「塩田大尉、何が良いというのですか?」
小浜兵曹長が尋ねました。
「うむ、つまり怪塔の周りを爆弾と弾丸とですっかり囲んでしまったのだ。そうだろう? 上から落とした爆弾は、塔の屋上から何メートルか上に傘をさしたように並んでいて、それから下には落ちてこない。そして今撃った弾丸は、怪塔の周りに弾丸の壁を作ってしまった。つまり怪塔は、爆弾と弾丸とにすっかり包囲されてしまったということだ。こうなれば、怪塔の上に檻(おり)をかぶせたようなものさ。怪塔が飛び出そうと思っても、爆弾や弾丸が邪魔をして飛び出せない。どうだ、うまくいっただろう!」
塩田大尉はとても嬉しそうでした。しかし皆さん、塩田大尉の考えは間違っていないでしょうか。怪塔は果たして檻の中の鷲のようになったのでしょうか。何しろ相手は、鉄片を寄せ付けないという不思議な力を持つ怪塔なのですから。

怪塔王の探しもの

1

怪塔王は塔の三階の室内を、あっちへ走り、こっちへ駆け出し、机の引き出しを開けたり布団をめくったりして、しきりに何かを探していました。
「ないぞ、ないぞ。一体どこへ行ったのだ」
怪塔王が顔を上げたところを見ると、今日はどうしたわけか、頭の上からすっぽりと黒い風呂敷のようなものをかぶっています。つまり顔を黒い風呂敷で包んでいるのです。怪しい怪塔王が、いよいよもって怪しくなりました。
「ないぞ、ないぞ。一体どこへ行った」
怪塔王はきょろきょろとあたりを見回しました。
「やっぱりない。変だなあ」
塔の周りは爆弾と銃弾ですっかり囲まれているのに、彼は一向にそんなことは心配せず、「ないぞ、ないぞ」と言いながら黒い風呂敷を頭からかぶって騒いでいるのでした。何か大変なことが起きたらしいのです。
その時、電話の呼び出しベルがけたたましく鳴り出しました。しかし怪塔王は、そんなことには見向きもしません。また、室内の配電盤の上では、赤い「注意」灯がしきりについたり消えたりして、怪塔王に何かを警告しているのですが、これにも怪塔王は目もくれません。一体、怪塔王は何をそんなに慌てているのでしょうか。
その一階下、つまり怪塔の二階は機械室になっていました。わけのわからない複雑な機械が並んでいましたが、その中に郵便箱ほどの大きさの円筒が三つ、離れ離れに立っていました。これが何であるかはこれまでよく分かりませんでしたが、ちょうどこの騒ぎの最中、円筒のふたがパコンと開いて、そこから三人の黒人がひょっこりと顔を出しました。2

今まで怪塔の中には、怪塔王がたった一人で住んでいるものだと思っていましたが、二階にある郵便箱ほどの大きさの円筒が三つ、いずれもその蓋がパカッと開き、中から思いもよらない黒人の顔が飛び出してきました。帆村探偵や一彦がこれを見たら、どんなに驚くことでしょうか。
円筒の中に入っている黒人たちは、一体何者なのでしょうか。
そして、その中で何をしていたのでしょうか。
「おい、ジャン。先生は一体何をしているのかなあ」
「うん、ケンよ。ベルがじゃんじゃん鳴って、危険だと知らせているのにね」
二人の黒人が心配そうに言うと、もう一人のポンという黒人が言いました。
「塔が壊れてしまってはしようがない。さあ、動かしてみるか」
するとジャンとケンはびっくりして、大きな眼玉をくるくると動かしながら言いました。
「だめだよ、だめだよ。先生がちゃんと指示を出さなければ、塔はうまく動いてくれないよ」
「そうだ、ジャンの言う通りだ。それよりも、先生が何をしているのか、それを早く知る方法はないだろうか」
「そんなものはないさ。おれたちはこの円筒の中に入りっぱなしで、外へ出ようにも鎖でつながれているから、出ることなんてできないじゃないか」
こうした話を、さっきから階下へ続く階段の途中で、じっと聞いていた一人の人物がいました。
彼はもういい頃合いだと思ったのか、そっと階段をのぼりきると、黒人たちの前へいきなり顔を出しました。
驚いたのは黒人たちです。
「わっ、先生だ!」
三階にいるはずの怪塔王が、なぜ階下から上がってきたのでしょう。

3

ジャン・ケン・ポンの三人の黒人は大あわてです。
さっそく円筒の中に首をひっこめ、蓋をガタガタと閉めようとしますが、あわてているのでなかなかうまく閉まりません。
「おい、こら。ちょっと待て」
と、階下から来た怪塔王は言いました。
「へーい」
三人の黒人は、蓋を頭の上にのせたまま、また首を出しました。
そのとき黒人たちは、心の中で「おや!」と思いました。
それは怪塔王が、変な服を着ていたからです。
それはひどく長く裾をひいた、だぶだぶの外套(マント)のような服でした。黒人たちが今まで見たことのない服装だったのです。
(先生は、変な服を着ているぞ)
三人が三人とも、そう思いました。
「こら、お前たち。

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