初級翻訳・怪星ガン 第23話

怪星ガン

そこには僕らの目には見えない本がぎっしり並んでいる、と考えてはどうだろうか」

「そうですね。そうも思われますね。本の並び具合がなんだか変てこですからね」

「もう一つ、君は気がついていないか。店には、僕らには姿の見えない客が大勢、出たり入ったりしているということを」

「なんですって? 姿の見えない客ですって?」

「そうなんだ。その証拠には、入り口の扉を注意して見ていたまえ。ひとりでに開いたり閉まったりしている。風もないのに、変じゃないか。あれは僕たちには見えないけれど、客がしきりにあそこから出たり入ったりしているんだと解釈できやしないか」

「それは立派な推理ですよ。きっと、それに違いありません。なぜ姿の見えない人間――人間でしょうか、とにかく、どうしてそんな姿の見えない者たちがたくさん動いているのでしょうか」

「それは簡単にわかるじゃないか。この町の住民たちなんだ。つまり怪星ガン人だ」

「怪星ガン人? ああそうか。怪星ガン人は姿が見えないんですね。そういえば、あのなんとか和尚という人も姿を見せなかった。みんなどうして姿が見えないんでしょうか。クラゲみたいに透明なんでしょうか」

三根夫の頭の中には、たくさんの疑問が湧いてきて止まらなかった。

「それは大きな謎だ。その謎が解けると怪星ガンの秘密もすっかり解けてしまうのだろう。僕たちはこれから推理の力を存分に働かせて、一分でも早くその謎を解いてしまわなくてはならない」

帆村の顔には、真剣な色が浮かんでいた。

【五分間の機会】

「何をしていたの」

テッド隊長は三根夫に尋ねた。そこで三根夫は、ありのままを答えた。この町の衣食住に関するものはすべて無料であるとわかったことも話した。

「それは結構だ。しかし、いらないものまで買わないほうがいいね」

テッド隊長はそう軽く戒めた。人間は欲が深くて、いらないものまでかき集める癖がある。無料で衣食住に関するものを市民に分けているこの町では、おそらく市民たちが必要なものだけを手に入れ、今すぐ必要でないものは欲しがらないから、このように生活費が無料になっているのだろうと、テッド隊長は察したのであった。

一行はまた同じ方向を歩いていたが、誰にも衝突しなかった。大変不思議である。よく考えてみると、こちらからは怪星ガン人の姿は見えませんが、反対にガン人のほうからは三根夫や帆村たちの姿がよく見えていて、ガン人のほうで道をゆずってくれるから、ぶつかることもないのだろうと思われました。

サミユル博士の家に着きました。それは野原の中にポツンと建っている、四角い白い建物でした。外から見ると飾り気のない殺風景な建物でしたが、玄関から中へ入ってみると、家具などはなかなか立派でした。家の中には、誰もいないようでした。どうやら博士ひとりで住んでいるようです。立派に飾られた広間に、一行は腰をおろしました。

「ハイロ君、ちょっと来てくれたまえ」
「はい、ただ今」
誰もいないと思ったのに、隣の部屋と思われるあたりから男の声がしました。緑色のカーテンが奥の方にかかっていましたが、それがサッと一度だけ揺れるのを三根夫は見ました。かすかに足音が近づき、やがてサミユル博士のすぐ横で声がしました。

「ご用でございますか、はい」
「お客さまたちに、ちょっと一口、何かおいしいものを差し上げてください」
「はい、かしこまりました。さっそく用意をいたします」

姿が見えないハイロは、そう言って下がっていきました。

「今だ、テッド君。時間はいくらもない。ハイロがコーヒーなどを持ってくるまでの五分間ほどが、ぼくたちが自由に話ができる時間なのだ。重要なことだけを話し合いたい」
サミユル博士は、テッド隊長の腕をつかんで早口で言いました。老博士の額には脂汗がねっとりと浮かんでいます。これにはテッド隊長も、緊張の頂点に放り投げられたような気持ちでした。

「わかりました、サミユル先生。あなたがたも、やはり捕虜生活を続けていらっしゃるのですか」
「そのとおりだ」
「この怪星ガンの正体は、いったいどうなっているものなのですかな」
「それは残念ながら、まだ知りつくすことができない。しかし、わしたちの推測では、人工の星ではないかと思う」
「人工の星とは?」
「天然の星ではなく、人力というか何というか、とにかく現にこの怪星に住んでいる知能のすぐれた生物が――あえて生物という、人間だとは言わないよ――その生物がこしらえたものじゃないかと思う」
「だって、この大きな星を人工でこしらえあげるなんて、できることでしょうか」
「われわれ地球人類の想像力の範囲では、とてもこの怪星の秘密を知りつくし、解きつくすことはできないだろう。われわれは一つでもいいから、実際に存在するものを観察して、その上に大胆な結論を立てるのだ。そういう結論をいくつも集めたうえで、それらを組み合わせる。すると、そこにこの怪星の正体が、おぼろげながらもだんだんとはっきりしてくるのだと思う」

さすが世界的な老探検家サミユル博士だけあって、しっかりした考えを持っているものだと、テッド隊長は心から感心しました。

「それはそれとして、この怪星はいったい何者が支配しているのですか」
「例の生物のなかで、知能のすぐれた者が、この怪星をしっかり押さえているんだと思う」
「われわれを捕虜にして、これからどうしようというつもりなんでしょう」
「それは――」

言いかけて、サミユル博士は口をつぐみました。奥からコーヒーの香りがぷーんと漂ってきたからです。三根夫は目撃しました。カーテンがゆらりと揺れ、銀色の大きな盆のうえに、湯気の立ったコーヒー茶碗が、宙をゆらゆら揺れながらこちらへ近づいてくるのを……。

「あっはっはっはっ。まあまあ、ひとつ呑気に愉快に暮らしていこうじゃないか」
老博士は、あわてて取り繕うように言いました。

「コーヒーをどうぞ」
ハイロの声が近くで聞こえました。穏やかな声でした。コーヒーが一同に配られた、そのときでした。銀の盆が大きく床に鳴りました。ハイロのおどろいた叫び声が響きます。

「あッ、怪物。あんなところに怪物が! たいへんだ!」

ハイロは足音も荒く奥へと飛び込んでいきました。警鈴のようなものが鳴り出しました。一体、何事が起こったのでしょうか。

――怪獣南京ねずみ――

どんな大事件が起こったのでしょうか。このときばかりは、テッド隊長も顔を青くし、帆村荘六さえも真っ青になってしまいました。
(しまった。さっきサミユル博士との秘密の会話が、怪星ガンの支配者に聞かれてしまったのかな。やっぱり目に見えない密偵がわれわれをいつも見張っていたんだな。秘密の話なんかして、よくなかった)

ポオ助教授はきょとんとしています。ケネデー軍曹は、服の中にしのばせたピストルへ手を伸ばしました。三根夫少年はどうしていたか。彼は椅子からサッと滑り降りると、ハイロがわめき叫んでいる奥へと駆け込みました。すると今度は、いっそうハイロの叫び声が激しくなりました。そして家具がガタンと倒れ、食器がガラガラと壊れるひどい物音がしました。

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