それは、目下故障したまま白骨島の砂上に「えんこ」している、怪塔ロケット第一号の無電装置を使うことでした。
なかなか忙しいことです。怪塔王が滅んだこの岩窟を、そのまま後にするのは、大変心残りではありましたが。なんだか、怪塔王がその辺りから血まみれになって、這い上がってくるような気がしてなりませんでした。
「どうしましょうかねえ、小浜さん」
と帆村探偵が心配そうに相談すると、兵曹長は笑ってこう言いました。
「なあに、怪塔王がいくら強くたって、一旦死んだ以上、ちっとも恐ろしくはない。しかしそんなに気がかりなら、帆村君はしばらくここにいたまえ。その間に私は、ロケットの無線を使って、艦隊へ連絡してくる」
「あなた一人で大丈夫かしら」
「大丈夫だとも。第一、この殺人光線灯があれば、たとえ後に怪塔王の配下が幾千人残っていようと、恐れることはありゃしない」
兵曹長は軍人らしくきっぱりと言い放ったので、帆村もついにその気になり、ここで二人はしばらく別行動をとることになりました。
「では、小浜さん。艦隊への連絡は頼みましたよ。そして用事が済みましたら、すぐにもう一度この岩窟へ引き返してください。私はあくまで大利根博士を探し出すつもりなんです。怪塔王の言ったことが嘘でなければ、博士は必ずこの岩窟のどこかに隠されているはずですから」
「よろしい。私も博士の行方をつきとめることには賛成だ」
小浜兵曹長はそう言って出かけていきました。
新しい怪事
1
小浜兵曹長が岩山を出て、ロケットの見える白骨島の平原の方へ降りていくと、さびしい洞窟の中には帆村探偵ただ一人となりました。この薄暗い洞窟内は、決して気持ちの良い場所ではありません。見えるのは岩ばかりでしたが、なんだかそのほかに魔物でも棲んでいるように思えてなりません。その魔物は岩の陰から、黄色い眼を光らせながら、帆村の様子をそっと覗き見しているような気がします。
(なぜこう気味が悪いのだろう。僕は急に臆病者になったのかしらん?)
帆村は岩の根元に腰かけ、あたりをぐるぐると見回しながら、自分の心にそんな問いかけをしてみました。耳を澄ましていると、どーんどーんという音がします。どこか海水が打ち寄せている洞穴があるらしく思われます。帆村は、まだそのような洞穴の場所を知りませんでした。
バサバサバサバサ。
急に激しい羽ばたきが頭の上で聞こえ、怪鳥が飛び込んできました。
「おや」
帆村はびっくりして立ち上がりました。今度は怪鳥のほうがびっくりして、またバサバサと羽ばたきをして向こうへ逃げていきました。怪鳥は怪塔王が身を投げた岩の割れ目へと飛び込みましたが、しばらくすると、「ケケケケ」と聞くのもぞっとするような鳴き声を立てて、また帆村のいる方へ飛び戻ってまいりました。
(どうも様子が変だぞ。油断はできない)
と帆村ははっと身を起こして、岩の陰に身をひそめました。するとどうでしょう。岩の割れ目が、ぼーっと明るくなってきました。なんだか向こうで火が燃えているようです。はてな?
2
岩の割れ目の向こうが明るくなったのは、なぜでしょうか。帆村探偵は岩の陰に身をひそめ、瞬きもせずその方を見つめていました。するとやがて岩の割れ目から、手提げ灯が一つ現れました。それは西洋の漁師などがよく持っている、魚油を燃やして明かりを出すという古風な魚油灯でした。その魚油灯は一本の腕に支えられています。誰でしょうか?
すると今度は一つの頭が、割れ目の向こうに現れました。帆村探偵は息を殺して、なおもじっと監視していました。怪人物は魚油灯を高く掲げて、岩窟の中をしきりに照らしてみています。なかなか用心深いやり方でした。帆村はそのとき、魚油灯に照らし出された怪人物の顔をはっきりと見ることができました。
「あっ――」
なぜか帆村はびっくりしました。岩を抱いている彼の腕がガタガタと震えるのが、自分にもわかるほどの驚きぶりです。それはどうやら帆村の知っている人物であったと見えます。しかもすこぶる意外な人物であったらしいのです。それは一体、誰だったのでしょうか。
怪人物は岩窟内に誰もいないことを確かめると、ついにその岩の割れ目から這い上がってまいりました。そしてなおもあたりに気を配りながら、何かをしきりに考え込んでいるらしいのです。そのときです。帆村は岩の陰から飛び出しました。そして怪人物の前に、パッと躍り出たのです。
「おお、大利根博士!」
「えっ!」
3
「大利根博士!」
と声をかけられて、相手はびっくり仰天しました。思わずたじたじと体を後ろに引きましたが、あっ、危ない! そこには先ほど怪塔王が墜落した岩の割れ目があるのです。「だ、誰じゃな」
博士は、しわがれた声で、口ごもりながら言いました。そして手を後ろに回して、しきりに岩を探っています。逃げ道があれば、逃げるつもりと見えます。
「あははは、博士はご存じないかもしれませんが、僕は帆村荘六という探偵です。博士のお行方を心配して、ここまでやってきたものです。お見受けしたところ、僕たちの心配していたのとは違って一まずはご無事らしいのは、なによりうれしいことです」
帆村は博士を見つけたうれしさに、実はもう胸をわくわくさせていたのです。博士の手を握って、ありったけの喜びの言葉を述べたいと思いました。なにしろわが国にとって国宝的な学者といわれる博士、そして十中八九まで死んだものと信じられていた博士を、ついに探し出したのですから、帆村の興奮するのも決して無理ではありません。しかし彼は、あまりに博士を驚かせてもいけないと思い、飛び立たんばかりの自分の心を、できるだけ抑えていたのでした。
「ああ、帆村探偵か。いつか、どこかで聞いたことのある名前じゃ。私を探しに来てくれたとは、まことにありがたいことじゃ。しかし、いきなり前に飛び出されたのには驚いたぞ。うふふふ」
大利根博士は、やっと気が落ち着いたようです。
「博士は、一体どうなすって、この白骨島へおいでになったのですか」
帆村は、いままで気にかかっていたことを尋ねました。
「な、なぜ、この白骨島へ来たかと聞くのか。そ、それはじゃ、つまりそれは、あの憎むべきところの怪塔王の仕業じゃ」
4
岩窟内での、めずらしい対面!
大利根博士と向かい合って、帆村探偵の胸はまだ踊り続けています。博士の説明によりますと、博士は怪塔王のため、ここへ連れ込まれたということです。
「それはずいぶんお苦しみのことだったでしょう。僕たちが見つけた以上は、身をもってお守りします。ご安心ください」
帆村は、博士をなぐさめるために、そう言わずにはいられませんでした。
「ああ、どうもありがとう。君たちに救われるとはなんという幸運だろう」
博士は、言葉少なに答えました。
「大利根博士、僕はもう少しで貴方に飛びかかるところでしたよ。なぜって、博士はさっき怪塔王の落ちたその岩の割れ目から出てこられたものですから、僕はてっきり怪塔王が息を吹き返し、這い出してきたことと早合点したのです。ほんとに危ないところでした」
「うん、こっちも驚いたよ。
コメント