一体、何が起こったのでしょうか?
土煙のかなた
「長良川博士! こちらへ来てください。ドリー助教授、三千夫君。さあ、三人ともこちらへいらっしゃい」
ロロー殿下が叫びました。あまりの異変に、博士たちは気絶しそうになっていましたが、殿下の声がやっと耳に入りました。しかし、大地は激しく揺れていて、彼らはもう歩けません。
(どうしたものか?)
と思っていると、三人は次々に体が軽くなり、やがてふわりと下へ降ろされました。それはロロー殿下が博士たちを一人ずつ抱き上げ、いつの間にか地下室の床の上にすっかり姿を現していた「鉄水母」の中へ運んだからでした。
最後にロロー殿下が鉄水母の司令塔の中へ飛び込むと、重い鉄のふたが「ドシン」と閉まりました。
それがきっかけになったかのように、これまで震動に耐えていた古いレンガ造りの建物は、「ガラガラガラ」と大きな音を立てて崩壊しました。鉄水母の上に、幾千幾万というレンガが、一度に滝のように降り注ぎました。
あわれ鉄水母も、そのレンガの下敷きになって、ぺちゃんこにひしゃげてしまったかと思われました。すっかり崩れ落ちて、今はみにくいレンガの山と化した古い教室の跡から、「ギイギイ」と怪音が聞こえると思っているうちに、そのレンガの山が、また土煙を上げてドッと崩れ直しました。
すると、その中から、のそのそと這い出してきた大きな戦車がありました。
いや、それは戦車ではありませんでした。例の怪潜水艇「鉄水母」だったのです。
鉄水母は颯爽(さっそう)と大学の庭へ走り出しました。艇には一箇所として凹んでいるところもありません。非常に硬い外壁を持っているようです。鉄水母は立木を跳ね飛ばし、垣根を押し倒し、スピードを上げて走り出しました。
鉄水母は、潜水艇であると同時に、陸上を走らせても自動車顔負けの働きを見せるのでした。
怪艇・鉄水母は、ロロー殿下と長良川博士、ドリー助教授、三千夫少年の四名を乗せて、一体どこへ走り去ろうというのでしょうか。そのころ、街の上では、逃げまどう大勢の群衆で大変な騒ぎになっていました。
一体、何が起こったというのでしょうか。
「あっ、来た、来た! こっちにも来たぞ!」
「それ、そっちへ逃げろ!」
「ああ、化け物だ! 私の子供を連れ去っていったよ。誰か、誰か助けて!」
「ぐずぐずしている場合じゃない! 早く逃げないと、お前さんも一緒に殺されてしまうぞ!」
「いやだ、私は子供を取り返さなければならないんだ!」
そう騒いでいる間にも、人々の頭上からは、レンガやコンクリートの塊がガラガラと音を立てて落ちてきました。
道の両側に並んでいた建物は、次々と崩れ落ちていきます。
もうもうと立ち込める土煙が、後ろの景色をすっかり隠してしまいました。
その土煙の向こうに何があるのかは分かりませんが、そこからは絶えず、人々の苦しみのうめき声や、叫びわめく声が聞こえてきます。
一体、何がその土煙の向こうにいるのでしょうか? それは、ロロー殿下を奪われ、取り返しにやってきた海底超人の大軍だったのです!
大団円
突如としてロンドンを襲撃した海底超人の大軍は、人類には想像もつかないほど激しい破壊のあとを残すと、一時間後には、どこへともなく姿を消してしまいました。
市民の被害状況はまだ正確には分かっていませんが、とてつもない規模になるだろうと言われています。
建物や交通機関がどれほど破壊されたか、数えることもできません。
しかし何よりも、ロンドン市民の心に深く刻み込まれたのは、「海底超人がまた襲ってくるのではないか」という大きな恐怖心でした。
実際のところ、海底超人の進撃を止めるための武器も方法も、何一つありませんでした。
重砲を持ち出しても、爆弾を投げつけても、海底超人たちはびくともしなかったのです。
前回は効果があったはずの催涙液でさえ、今回の襲撃には全く役に立ちませんでした。
推測するに、海底超人たちはイギリスの討伐飛行隊から受けた損害に懲りて、今回は防毒衣を作って身につけていたようです。
今やロンドン市民は、すっかり後悔の涙に暮れています。
「海底超人を怒らせたのが悪かったんだ。一体誰が、彼らをあんなに怒らせたんだ?」
「さあ、それは誰だろうね……」
市民たちは、もう何も考える力さえ残っていないように見えます。
そして二人が顔を合わせれば、必ずこんな会話が始まるのでした。
「次はいつ、海底超人が来るだろうか」
「うん、今夜かもしれないそうだ。シムトン博士が側近にこっそり漏らしたらしいよ」
「その話なら他でも聞いた。でもシムトン博士は、あのときレンガの下敷きになって大怪我をしたのではなかったかな?」
「そういう話もあるね。実は僕も何も知らないんだ。ただ、今夜また海底超人が来るような気がしてならないんだ」
今のところ、海底超人はそれっきりロンドンを訪れてはいません。
最近になって、市民たちはようやく恐怖から少しだけ救われたようです。
鉄水母の行方は、いまだに分かりません。
したがって、長良川博士一行の消息も不明のままです。
しかし、こんなことを想像してはみないでしょうか。
つまり、長良川博士は再び海底大陸へ向かっているのではないか、と。
そして、怒り狂う海底超人たちを、誠意をもってなだめているのではないか、と。
博士は以前、ノートの端にこんなことを書き記していました。
「海底超人の恐るべき実力に対して、到底人類は敵わない。しかし、賢明なるロロー殿下が生きておられる限り、両者の衝突は未然に防ぐことができるだろう。それは両者にとって、幸運なことと言わねばならない」
これを読み返せば、長良川博士がいまどのような目標に向かって努力しているのか、大体推測できるのではないでしょうか。
私たち人類と海底超人とが、同じ正義の心の上に立ち、互いに愛し合って手を握り合えるのは、一体いつの日になるのでしょうか。
きっと、そう遠い未来のことではないはずです。
ああ、世紀の驚異よ! ああ、海底大陸よ!
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