船長室に入ることは死を意味するのだと、この者が警告しているんだ」
「けれども、入った者がいるのです」
ラウダが口を挟みました。
「おそらく船長室には、この船の宝物が全部集められていたに違いありません。船長はこれを守るために、この掟を作ったのでしょう。しかし、欲深い人間は死を覚悟してこの掟を破った。この扉を開いたのです」
ラウダは、足で「ダーン!」と扉を蹴りました。
扉が大きな音を立てて向こう側に開きました。
「見給え。掟を破った者の姿だ」
玉太郎はもう少しで「キャーッ!」と叫ぶところでした。
入り口のちょうど正面に、一人の男が立っていました。
いや、正面の壁に立たされているのです。
胸から背中に向かってサーベルがぐさりと突き刺さり、それが壁を貫いて男を支えているのでした。
男といってももちろん、ミイラになっています。
苦しんで死んだらしい様子が、かっと見開かれた眼にも、口にも、まだ白さが残る歯にも見て取れました。
「恐ろしい姿だ」
ケンが静かに言いました。
張が進み出て部屋の中へ入ると、一同もそれにつづきました。
部屋は二メートル四方の小さな個室です。
部屋の隅には、美しい彫刻を施した金具で飾られた箱が積み重ねられていました。
その箱の蓋はどれもこれも開けられているか、引きちぎられていました。
「金貨がある。宝石もある」
取り残された宝の一部が、箱の中にスペイン金貨として二、三枚散らばっていました。
「キッドの宝がここにあったのだ」
張が言いました。
「しかし、誰かがすでに運び去っている」
「君か、ラウダ?」
ダビットがラウダの顔を指差しました。
「そうだったら幸福なのですが、そうではないのが残念なのです。僕らの探検の前に、すでに誰かがこの島に来ていた。そしてキッドの宝物は彼らの手に渡ってしまったのです」
「あ、ほら、さっきあったあの骸骨ね」
玉太郎が思い出したように言いました。
「僕がセキストン伯爵の首だと思ったあの骸骨、あれがそうじゃないんですか?」
「うん、僕もそう思っていたところだよ」
ケンが頷きました。
「何者かがここから運び出して、島のある場所に運んだのです。僕もそう思った。そこで五年の間、それを探し続けてみたのです」
「それでラウダ、君にはわかったのだね」
「確かではありませんがある程度はね。しかし、そこは僕らの手には負えないところなのです」
「そりゃどこだ?」
「恐竜の巣の穴らしいのです。それも、らしいというだけで、はっきりはわからないのですが」
ダビットは首を振りながら言いました。
「残念ながら、ここは暗すぎてカメラに収めるのは無理だ。外に出よう。どうも僕には、こんなミイラ君とは仲良しになれそうもない」
そこで一同は再びラウダに案内されて、甲板に出ました。
船尾から船首へと歩きます。
「おや、大砲がある」
「およそ古いね」
「大昔の海賊が思いやられるね」
「昔はこれで戦ったんだから、戦争も悠長なものだったに違いない」
そんな会話をしながら歩いていると、
「やっ!」
とラウダが何かに驚いたのか、突然の叫び声を上げました。
「どうしたんだい、ラウダ!」
「船の位置が、船の位置が違っているんだ!」
彼は湖面を指差しながら絶叫しました。
「五年の間、少しも動かなかったこの船が、方向を変えたんだ……!」「潮の流れに乗って移動し始めているじゃないか! ああ、僕らは助かるぞ。ねえ、みんな、喜んでいいよ。僕らは帰れるんだ、文明社会へふたたび戻れるんだ。英語が通じる国へ行けるんだ。夢じゃないな、夢じゃないんだ!」
ラウダは、さっき一同が登ってきたロープの場所へ戻りました。
「見たまえ、ラツール、あんなところにいる。船が動いている証拠だ」
「落ち着きたまえ、ラウダ。よく説明してくれ」
ケンがラウダの肩を叩きました。
「そうだ、落ち着くべきだ。落ち着いて、僕のこの新発見を君たちに話すべきだった。君たちも希望が持てるんだ」
ラウダは甲板にどかりと座り込みました。一同はラウダを中心にして、そのまわりに円を描いて座りました。
「僕の調べによると、この湖は海につながっているんだ。だからこの船に乗って、潮の流れに従えば外海に出られることは、まず間違いないと推測していた。ところがこの船は、底で縛りつけてあるのか、それとも底がコンクリートで固められているのか、潮の流れに左右されることなく少しも動かなかった。ところが今見ると、ごくわずかではあるが移動しているんだ。底を止めていた何かが解けた証拠だよ」
ラウダの目は生き生きと輝いていました。
「わかったぞケン、僕らがあの洞窟で岩をどかしただろう。あの時に綱を引いたよね、あの綱だよ。あの綱が、この船を繋ぎ止めていたんだ!」
「それは確かだろうね、ダビット。君の説は正しいと思うよ。ラウダ、船が動いた理由を今度は僕らが説明しよう」
ケンは「えへん」と一つ咳払いをして、話を続けました。
「この船の底から太い綱が出ている。その綱の一端は、大きな岩によって押さえられて動かないようにされていたんだ。僕らは偶然、あの綱を引っ張った。綱を引っ張ったことによって、綱を押さえていた岩をのぞくことができたのだ。僕らがこうしてここまでやって来られたのも、その岩がどいてくれたおかげだったのだが、その岩は同時に、この船まで動かしてくれたわけだったんだ」
ラウダは大きく頷きました。
「なんとしても僕らは、この島から救われるチャンスに恵まれたんだ!」
「よかったですねえ、ダビットさん!」
玉太郎はそう言って、甲板の端まで走り出ました。
「ラツールさん、僕たちは助かりましたよ!」
大きな声でした。それが岩肌に跳ね返って、ガンガンと大きくこだましました。ラツールが手を振って応えました。
恐竜と闘う
それから船の点検が始まりました。まず舵は大丈夫、使える状態です。船底はかなり傷んでいますが、水が漏れる心配はまずありません。帆は完全と言ってもいいくらいに保存されていました。小船も頑丈なものが積んであり、難破した時の備えもできています。冷たいこの洞窟の中に保存されていたことは、冷蔵庫の中に貯蔵されたのと同じ効果を生んだようです。不思議なほど何百年も前のものが、そのまま使用できました。ラウダの洞窟から、わずかですが食料と飲料水が運び込まれました。船長室のあたりはさすがに気味が悪かったのですが、あとはすこぶる快適でした。
「このまま潮に乗ってみよう。船がどんな方向へ出るかは、運命の神に任せることにするより手がないからな」
その夜、一同は甲板の船首の方に集まって寝ることにしました。
「海岸に残してある連中をどうするかな」
「まず海に出てからの問題にしよう。僕らが完全に安全だとわかってから救助に行っても遅くはあるまい」
ダビットはカメラを抱えて。
玉太郎はポチを抱いて。
ラツールはまだ痛む脚を抱え込んで。みんなそれぞれの姿で眠りにつきました。
どのくらい眠ったでしょうか。なにしろ一同は疲れていますから、身が安全だとわかるとすぐに眠くなり、死んだように眠るのです。
ポチが「ウーッ、ウーッ」と唸ったので、玉太郎が目を覚ましました。
「どうした、ポチ?」
目を覚まして驚きました。
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