初級翻訳・海底都市 第1話

海底都市

妙な手紙

 僕は、まるで催眠術にでもかけられたかのような足取りで、廃墟となった丘をのぼっていった。
あたりはすっかり日が暮れて、浮世絵の版画のような紺青色の空に、星が一つだけ光っている。
丘の頂上にたどり着くと、僕は思わずぶるぶると身震いをした。
なんとまあ、ひどく焼け焦げ、崩れ果てた姿だろう。まるで巨大な墓場だ。
犬ころ一匹通っていない。
向こうには、焼け残った防火壁が、今にも倒れそうな姿で立っている。
こちら側には大木が、黒焦げになった幹をくねらせて、気を失ったかのように横たわっている。
僕の足元には崩れた瓦が海のように広がっていて、かつてここに大きな建物があったことを物語っていた。
悪寒が再び、僕の背中を走り抜けた。
僕はポケットに手を入れて、一枚の紙をひっぱりだした。
それは四つ折りにした封筒だった。
その封筒を広げて端を開き、中から便箋を取り出した。
そこには、次のような文字がしたためてあった。
――君は九日午後七時、不二見台に立っているだろう。
これが第二回目の知らせだ。
これを読んだ瞬間、僕はふらふらと目まいがした。
今日は九日。間違いなく僕は今、手紙に書かれた通り不二見台に立っているのだ。
不思議だ。不思議でならない。
一昨日と昨日、不思議な手紙を受け取ってからこれで二度目だ。
差出人は誰なのかさっぱりわからない。
僕が気づかないうちに、本の間にはさまっていたり、通り道の地面に落ちていたりするのだ。
封筒には僕の名前がしっかりと書かれ、注意書きとして「この手紙は明日午後七時に開け」と記されていた。
昨日開いた第一回目の知らせには、「君は今、寄宿舎の自室にいる。机の上には理科の教科書の九ページが開いてあり、その上に南京豆が三粒のっているだろう」とあった。
本当にその通りだった。
不思議だった。まるで僕の部屋をのぞき見して書いたかのようだった。
しかし、よく考えてみると、この手紙はその前日にもらったものだ。
前の日から、翌日の僕の行動がすべてわかっているなんて、全く奇妙というほかない。
不思議なことは、今もそうだ。
僕は一時間前、急に決心してこの不二見台へ登ることにしたのだ。
それは、第二回目の予言を外してやろうと思い、寄宿舎から電車で四十分もかかるこの場所へわざと来てみたのである。
ところがどうだ、予言は的中してしまった。
なんという気味の悪いことだろう。身震いせずにはいられない。
その後、僕は神経を針のように尖らせて警戒していた。
例の気味の悪い予言の手紙、第三回目がそのうち届くだろう。その時こそ、手紙の主をひっつかまえてやろうと思ったからだ。
ところが、その手紙は僕の予想に反してすぐには届かなかった。
前の手紙が届いた翌日も、その翌々日も新しい手紙は来ない。もう終わりかと思っていたところ、さらにその次の日になって、ついに第三回目の手紙が僕の手元に届けられた。
ただし、僕は一生懸命に警戒していたにもかかわらず、主を捕まえることには失敗した。
なぜなら、その手紙は僕がその日の朝、寄宿舎で目を覚ましたとき、枕元に置いてあったからだ。
不思議、不思議。
一体誰が、こんなに早くこの怪しい手紙を持って来たのだろう。
僕が何も知らずに眠っている間に、枕元に近づいてこの手紙を置いていく怪人――その姿を想像して、僕は震えが止まらなかった。
なんという気味の悪いことだろう。
その怪人は、その時僕の寝首をかくことだってできたのだ。
そう考えるとますます気持ちが悪くなり、自分の首のあたりを手で触ってみた。もしや怪人の刃を受けて、そこから血でも流れていないかと心配になったからだ。
もちろん、血は出ていなかった。
怪人の正体は、僕には全く想像がつかなかった。
僕はその第三回目の封筒を手に、しばらくの間ふるえていた。
封筒にはこれまでと同じく、明日の午後七時に開封せよとの注意書きがあった。
僕はその日一日中、この手紙のことばかり考えていた。
夜になると、ますます胸が苦しくなった。同時に、しゃくにさわってきた。
僕はたまらなくなって、その夜寝床に入ってから、布団の中でこっそりと封筒を開けてみた。
怪人の命令よりは一日早かったけれど……。
するとその手紙には、「君は十三日午後七時、ふたたび不二見台に立っている。そして君は思いがけない人から思いがけない話をきいて、不思議な旅行に出発することになる」と書いてあった――僕は頭から布団をかぶって寝てしまった。夜が明けて、ついに十三日、その当日がやってきました。
僕は手紙に書かれていた通り、この日は絶対に不二見台には行くまいと心に決めていました。
しかし、目には見えない怪しい力が僕に働きかけ、僕の足は自分の意志に逆らって、僕を不二見台へと運んでいったのです。
そしてそこで、思いがけない人物と出会うことになりました。

かわった少年

夢遊病者のように、廃墟となった不二見台に立っていた僕。
僕の体は氷のようにかたまり、西を向いて立ち尽くしていました。
暮れ残った空には、前回ここに来たときと同じように、怪しい星が一つ輝いています。

「本間君。やっぱり君は来てしまったね」

突然、後ろから声をかけられました。
その声を聞いた瞬間、僕はまるで電気に打たれたかのように、その場に体がすくんでしまいました。
ついに現れたか、怪人! 一体何者なんだ?
崩れた瓦の山を踏む不気味な足音が、僕の後ろを回って横に現れました。
僕のひざがガタガタと震えだします。
うつろになった僕の目に、一人の少年の姿が映りました。

「本間君、君は震えているのかい?」

僕の気持ちは、少しだけ落ち着きを取り戻しました。

「あっ、君は……」

僕の前に立ってニヤニヤと笑う少年。それは同級生の辻ヶ谷虎四郎君でした。
この辻ヶ谷君というのは少し変わった少年で、子供のくせに額がハゲあがっており、背は低いけれど顔は大人びていました。いつもみんなとは遊ばずに一人で考えごとをするのが好きで、ときには大人が読むような難しい本を開いて読みふけっていたのです。
そのため、今まで僕たちは辻ヶ谷君と言葉を交わしたことがほとんどありませんでした。
その辻ヶ谷君の、カサカサに乾いた大きな顔を見たとき、僕は今までの秘密がすべて一瞬で理解できたような気がしました。

「ふふふふ、本間君。何もそんなに震えることはないよ。僕は君が好きだから、君を選んだわけだ。君をうんと喜ばせてあげるつもりだよ」
「あんないたずらをしたのは、君だったのか?」
「いたずらだって? とんでもない。いたずらなんていう失敬なものじゃないよ」

辻ヶ谷君は僕と向き合うと、大きな顔を機嫌の悪い大人のような顔にゆがめました。

「僕は君に、素晴らしい機械があることを教えてあげたのさ。実に素晴らしい機械だよ。未来のことがちゃんと分かる機械さ。いや、そう言うよりも、未来へ旅行する機械だと言ったほうが適当だろうね」

辻ヶ谷君は得意げに、右上がりの肩をそびやかしました。

「未来へ旅行する機械? うそだよ。そんなものがあるわけがない」

僕は信じることができませんでした。

「ふふふふ。君はずいぶん頭が悪いね。

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