初級翻訳・海底都市 第2話

海底都市

なぜって、そういう機械があればこそ、君は三回も、その翌日の行動を僕に言い当てられたんじゃないか」

辻ヶ谷君が何と言おうと、未来の世界へ旅行ができるような不思議な機械がこの世にあるなんて、僕にはどうしても信じられませんでした。

「頭が悪いねえ、本間君は……」

辻ヶ谷君は気の毒そうに僕を見て言いました。

「まあいい。君をその機械のところへ連れて行ってやれば、信じないわけにはいかないだろう」
「君、正気かい?」

僕はもうだいぶ落ち着いてきたので、そう言い返しました。

「僕のことかい? もちろん正気さ。さあ、それじゃあこっちへ来たまえ。そこに入り口があるんだから……」

そう言うと辻ヶ谷君はそこにしゃがみ込み、自分の足元にある崩れた瓦の山を掘り返し始めました。
しばらく掘ると、下からさびた丸い鉄の蓋(ふた)が現れました。
辻ヶ谷君はその鉄蓋の穴に指を入れ、上へ引っ張ると蓋が外れ、その下は穴ぼこになっていました。
辻ヶ谷君は今度はその中へ手をぐっと差し込みました。
肘も入り、腕の付け根まで中に入ります。顔を横に向けて、辻ヶ谷君はしかめっ面になりました。

「どうしたんだい、辻ヶ谷君」

僕は少し気味が悪くなってきたので聞いてみました。

「静かに……」

辻ヶ谷君は叱りつけるように言いました。

「……うん、あったぞ」

辻ヶ谷君の青ぶくれの顔に赤みが差したかと思うと、彼は荒い息とともに穴から腕を引き抜きました。
穴の中からガシャガシャという音が聞こえたかと思うと、彼の手は鉄の鎖を握って引っ張り出していました。

「これさ。これを引っ張ると、君の目玉はグルグル回るよ。びっくりするだろう。いいかい?」

辻ヶ谷君は、その鎖に両手をかけて、えいやっと手元へ引きました。
すると、どこだか分からないけれど近くで、ギイギイギギイと、重い扉が開くような音がしました。
いや、本当に扉が開いたのです。
すぐ目の前の小石や瓦のかけらが一方へ走り出したかと思うと、敷石の床が傾き出して、その下から地下道へ続いている階段が見え出しました。
さあ、その階段を下りて地面の下へ入っていくのです。

「頭をぶつけないようにしたまえ」「君から先へ……」
辻ヶ谷君はそう言って、僕のお尻をポンと押しました。
僕は不安でいっぱいでしたが、ここで怖がって立ち止まっていても仕方ありません。思い切って腰をかがめると、跳ね橋のようにはね上がった床をくぐり、地下へと続く階段に足を踏み入れました。
もう、逃げ出せない運命に捕まってしまったのです。
さっきまでの不安や恐怖はどこかへ消えてしまい、あとは辻ヶ谷君が照らす懐中電灯の光を頼りに、どんどん地下へと降りていきました。
階段が終わると、ぼんやりと明かりのついた廊下が左右に伸びていましたが、辻ヶ谷君は左の方へ進んでいきました。
その廊下は、先の方でもう一度右に折れると、そこで行き止まりになっていました。
辻ヶ谷君はその突き当たりまで行くと、手探りで壁の上の方を探し回っていました。すると、澄んだベルの音が聞こえだしたかと思うと、壁がパクリと口を開いたのです。
行き止まりだと思っていた壁が、スウッと下に滑り落ちて床に収まり、目もくらむほど明るい部屋が目の前に現れました。
不思議な形の機械がずらりと並んでいます。
「早くこっちへ入りたまえ」
辻ヶ谷君に言われて、僕は下がった壁――実はこれが隠し扉だったのです――をまたいで中へ入りました。
ぷうんといい匂いがします。
バタンという音がしたので振り返ってみると、隠し扉が元通りにせり上がって、再び壁になっていました。

タイム・マシーン

不思議なこの地下の機械室に足を踏み入れた僕は、驚きと珍しさで、ぼんやりと立ち尽くしていました。
「おい本間君。早くこっちへ来たまえ」
僕をこの部屋へ連れ込んだ辻ヶ谷君は、そう言って一台の背の高い円柱形の機械の前から手招きしました。
その前へ行ってみると、「タイム・マシーン第四号」と書かれた真鍮(しんちゅう)の名札が貼ってあり、その下には計器が五つばかりと、白い大きな時計の針のようなものが並んでついていました。
辻ヶ谷君は、機械の横についている小さな汽船の舵輪(だりん)のようなものに取り付くと、両手を器用に動かして、からんからんと輪を回しました。
すると、機械の壁が計器の下のところで引き戸のように横に動き、人が入れるほどの穴が開きました。
「本間君。その中へ君は入るんだよ」
「えっ、この中へ……?」
「そうだ。それが時間機械なのだ。タイム・マシーンとも航時機ともいうがね。君がその中に入ると、僕は外から君を未来の世界へ送ってあげるよ。君は、何年後の世界を見物したいかね? 百年後かね、千年後かね」
百年後? 千年後? 僕はそんな遠い先のことを見たいとは思いません。
そんな未来を見てびっくりして気が変になってしまったら大変です。それよりは、わりと近い未来の世の中がどうなっているか見てみたいものです。
僕は考えた末、辻ヶ谷君に言いました。
「二十年後の世界を見たいんだ」
「二十年後か。よろしい。じゃあ入口の戸を閉めるぞ。それじゃあ、よく見物して来たまえ。さよなら」
「あ、辻ヶ谷君! 一時間たったら、今の世界へ戻してくれたまえね!」
僕はそう言いましたが、すでに辻ヶ谷君はガラガラと引き戸を閉めにかかっていて、その音に僕の声はかき消され、彼の耳には届かなかったようでした。
さあ困った、と不安が再び僕の上に這い上がってきました。
いや、その不安よりも、もっと大きな不安が今、僕を襲いました。
それは、バタンと閉じ込められたこのタイム・マシーンの中の光景です。
まるで卵の中に入ったようでした。卵形の壁は鏡になっていて、僕の顔や体がまるで化け物のようにその鏡の壁に映し出されているのです。
僕が少し体を動かすと、鏡の中では、まるで集団で体操をしているかのように、びっくりするほど大勢の化け物のような僕の像が動いて、同じ動作をするのでした。
不安は恐怖へと変わります。
「おい、辻ヶ谷君! ここから僕を出してくれ! 困ったことができたんだ。早く出してくれ!」
僕は鏡の壁を打ち叩きました。
だが、辻ヶ谷君からの返事はありません。僕は喉が張り裂けそうな声を出して、鏡の壁をどんどん叩き続けました。
「おほん。何か御用でございましょうか」
聞き慣れない声が後ろからしました。
僕はギクリとして振り返りました。
ああ、その時の驚きといったら! そして、ここに書き連ねることができないほどの奇妙な気持ち! 僕はいつの間にか、立派な大きな部屋の真ん中に突っ立っていたのです。
そして僕の前に立っているのは、燕尾服(えんびふく)を着て、頭が禿げ上がり、もみあげの長い、背の高いおじさんでした。
「ああ、おじさん。今日は。僕は辻ヶ谷君の紹介で、二十年後の世界を見物に来た本間という少年ですがね……」
と僕が名乗りを上げると、そのおじさんは顔をでこぼこにして、「ご冗談を。へへへへ」と笑いました。
僕は、何を笑われたのかさっぱり分かりませんでした。

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