初級翻訳・人造人間エフ氏 第9話

人造人間エフ氏

それから二日おくれて、正太少年は、ひとりさびしく汽車にゆられて東京についた。
少年は、なにをおいても、郊外にある家へかえって、病床にある母にあいたかった。
しかし本当のことをいったら、母はどんなに心配するかもしれない。
母にはすまないが、マリ子は船の中で病気になり、敦賀の病院に入っていることにしておこうと決心をした。
その正太が、東京郊外の武蔵野に省線電車をおり、それから砂ほこりの立つ道を、ひとりぽくぽく家の方へ歩いているときだった。
彼は母にあしてよどみなくいうべき言葉を、あれやこれやと考えながら歩いていたので、ついぼんやりしていたらしい。
それが、ふと目をあげて、向こうにつづくひろびろとした畑道をながめたとき、彼は意外なものを見つけて、おもわず「あっ」とおどろきの声をあげた。
「あっ、あれはマリ子じゃないか」
 二百メートル先の向こうの畑道を、二人の少年少女が、手をひいて歩いていく。
その少女のうしろ姿を見たとき、正太はそれが妹のマリ子だといいあてたのだった。
なぜといって、その少女は、船の中にいたときのマリ子の服と同じ服を着ていた。
赤い帽子も同じであった。
おかっぱの頭の恰好や歩きぶりまで、たしかにマリ子にちがいなかった。
「おーいマリ子」
 正太は、マリ子が誰と歩いているのかを考えるひまもなく、うしろからよびかけた。

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