海底超人の生命力から考えて、彼らには海底という環境が絶対に必要な条件だったからだ。
そうして海底超人はクイーン・メリー号を狙い、ここで人類との最初の接触をおこなうことになったのである。
だからこそ、海底超人の母国は、宇宙のどこかにある一つの惑星となって、いまも虎視眈々と地球を見守り、第二の植民計画を企んでいるかもしれないのだ」
「それはどうも理屈が通りませんな」
そう言って、白いひげを生やしたやせた老人が自分の席から立ち上がりました。
アイルランド大学のクイ教授です。
「事務長クーパーの報告によれば、海底超人の人口は、少し見ただけでも百万人に近いものであったといいます。
これほど大量の移民が、人類に知られることなく、そう簡単にできるはずがありません。
もし彼らが天からやってきたのなら、気象観測のデータにも異常な数値が記録されるはずです。
少なくとも、大津波くらいは起こるでしょう。
それなのに、そんな事件の話すら聞かないところを見ると、ベント博士の説は成り立ちませんな」
クイ老教授は、鋭くベント博士の論理の弱点を突き刺しました。
「では、クイ教授。あなたの考えでは、一体どういうことだと言いたいのですかな?」
シムトン会長が逆に問い返しました。
「わしの説は、こうである」
クイ教授は、長く垂れ下がった白いひげをぐいと引っ張ると、ゆっくりと口を開きました。
「海底超人は、決して他の惑星からやってきたものではない。
あれはもともと海底に住んでいた軟体動物が進化して生まれたものなのだ。
人類はかつてサルと似たような祖先をもっていたが、それが分かれて、今では人類とサルとで明らかに区別がつくようになった。
深海の軟体動物にしても、一方にはタコやクラゲのように昔のまま下等なものもいるが、もう一方では、人類と同じ、あるいはそれ以上のスピードで進化した海底超人もいる、ということになるのだ。
これがわしの主張だ」
そう言って、クイ教授は自分の対立する説を鮮やかに示し、一座を見回しました。
「クイ教授の説も、かなり妙な話に聞こえますな」
今度は、例の立派なハゲ頭の持ち主であるドリー助教授が、自分の席から飛び出しました。
シムトン会長は顔をしかめました。
この年をとってもますます元気なドリー助教授は、また皆をバカにするような学説を披露するに違いないからです。
「おい、ドリー君。簡潔に君の説を述べたまえ」
「はい、そうしましょう。今会長から『簡潔に』というお達しがありましたので、本来であれば、ここに同席されている長良川博士の前に進み出て、詳しく自説を講演し、教えを請いたかったのですが、会長がお急ぎのようですから、やむを得ず手短に済ませます。えへん」
ドリー老人は、ハゲ頭をツルリとなでて、言葉を続けました。
「ええ、私はまずクイ先生の説を否定させてもらいます。先生のご説は非常に面白いのですが、残念なことに歴史的事実を無視しておられる」
「なんだと、史実? 歴史のことかね?」
クイ教授は、耳に手を当てて身を乗り出しました。
「そうです。地球上に伝えられている歴史のことです。つまり教授の説は、机上の空論にすぎない。教授ともあろうお方が、生きた史実をないがしろにして、机上の空論に終始しているというのは遺憾千万。そんな机上空論家なんてものは、我々助教授団の中には一人もいないのですよ」
「これこれ、ドリー君。言葉を慎みたまえ」
シムトン会長がテーブルを叩いて制止しました。
「……慎むも慎まないも、大した言葉ではありませんが、では仮にクイ先生の言われる通り、海底で人類とは別に海底超人が発達したとしましょう。しかし、それが今日まで一度も人類と接触を持たなかったというのは、あまりにも突飛ではないですか。
もっと別の言い方をすれば、海底と海面は海水でつながっているのです。海の上には、しょっちゅう船が通っている。それなのに、彼らは一度も海底超人とぶつかったことがない。今回初めてクイーン・メリー号が彼らと行き会ったのです。もし同じ地球において、人類と同じ時代に海底超人が発達したのだとしたら、クイ先生の説は常識的に考えても落第ですよ」
「なんだと、落第だと!?」
クイ老教授の顔は、みるみるうちにトマトのように赤くなりました。
「そんなことより、早く自分の説を言え!」
と誰かが叫びました。
「うん、自説はこうだ」
ドリー助教授は、またハゲ頭をツルリとなでて言いました。
「海底超人とは何者か。諸君、まずは有史以前に大西洋の海面に存在したと、かのプラトンが唱えたアトランティス大陸が、多くの生物とともに海底に沈んだという史実を思い起こさねばならぬ」
「なんと、アトランティス大陸だと?」
一座は急にざわつき始めました。「その通り。アトランティス大陸だよ。今さら驚いたのかね、諸君? そんなことで、よくもまあ生物学者なんて偉そうな顔をしていられるものだ。アトランティスの謎を知らずして、どうして海底超人を論じることができようか」
ドリー助教授は、この上なく得意げな様子で、自分の胸をポンポンと叩きながら一座を見回しました。
アトランティスの謎とは、一体どのようなものか。ドリー助教授は言葉を続けます。
「アトランティスの謎! これを知らずして『生物学者でござる』なんて大きな顔をしている奴がいたら、わしはその先生の目の前で、腹を抱えて笑ってやりたいね」
ドリー老人は同じことを二度も繰り返し、一同を見回しました。
「こら、ドリー君。本筋から外れた話はしないように」
シムトン会長は、またもや手のかかる老助教授に釘を刺しました。
「いやいや、会長閣下。これがそもそも本論なのですよ」
ドリー老人は、人を小馬鹿にしたようにハゲ頭をツルリとなでると、こう続けました。
「ええ、では先を言いましょう。もっとも、諸君がこれを理解できるかどうかは別として、わしは責任を持たんよ。とにかく言おう。先ほども言った通り、アトランティス大陸は海底に沈んだ。では、この大陸に住んでいた生き物たちは、どうなったと思う? 馬も牛もニワトリも人間も、みんな海水に飲み込まれて溺れ死んでしまった、そう思うだろう」
ドリー老助教授は、ふてぶてしい表情でまたもや一座を見回し、さらに言葉を重ねます。
「あははは! そう思うのは素人考えというものだ。生物というのはなかなか生命力が強いもので、そんなことで一時に絶滅するような柔なものじゃない。もちろん、アトランティス大陸の生き物の多くは、あの大変動の時に死んだ。だが、その中で執念深く生き残ったのが、今日の海底超人という一族なのだよ。どうだ、これで謎は解けたではないか」
一座はたちまち騒がしくなりました。
「とんでもない話だ!」
「いや、ドリー君はなかなかいいところを突いている」
などと、反対する者もいれば、賛成する者も現れました。
「ドリー助教授に一つうかがいたいのだが、今の話のようにして海底超人が生まれたとすると、その海底超人の前身は一体何だったのかね? やはり人間だったのか、それともタコだったのか?」
これはシムトン会長からの質問でした。
「いや、そこが研究課題というわけです。
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