朝になって、ちょうどいいころになったら、僕が起こしてあげるからね」
小田さんは、一郎に早く寝るようにすすめました。
一郎は急にいろいろな疲れが出てきて、まもなく、ぐっすりと眠りこみました。
朝は、早く目が覚めました。
一郎を起こしてくれるはずの小田さんは、まだぐうぐうと気持ちよさそうに眠っていました。
一郎は、起きるとすぐに手帳を取り出して、白いページを開きました。
そして万年筆をしっかり握りしめて、何かを書き始めました。
「未来の地下戦車長、岡部一郎」
たとえ筆や墨がなくても、「未来の地下戦車長、岡部一郎」と書き記すことだけは、どんなときでも休むわけにはいきません。
そうしているうちに、小田さんが目を覚ましました。
「おや、おや、もう字の練習をしているんだね。
そのうちすぐにやめるかと思っていたけれど、なかなか続いているじゃないか。
まったく、たいしたもんだなあ」
小田さんはすっかり感心して、未来の地下戦車長のために、おいしい朝のお弁当を買ってくれました。
本物の除雪車を見たのは、その日の昼ごろでした。
汽車は、大雪のために昨日の夜からすこしずつスピードが落ちていましたが、とうとう午前十時ごろには、真っ白な雪の中ですっかり止まってしまいました。
そして、前から来るはずの除雪車が通り過ぎるのを、しばらく待つことになったのです。
二時間くらいがたったころ、
「おお、来た来た!
ロータリーだ!」
と、まわりの人たちが大騒ぎし始めたので、一郎はまだぐうぐう眠っていた小田さんをゆすり起こして、外へ飛び出しました。
線路の脇にある大きな雪山のうえに登ってみると、除雪車が黒い煙をモクモクとあげながら、こちらへ近づいてくるのが見えました。
ロータリーだ!
回転するロータリーに当たって、雪はまるで美しい滝のように、わきへパーッと勢いよくはねとばされていきます。
「壮観(そうかん)」とは、まさにこのことでした。
空中に大きく広がる雪の滝は、だんだんとこちらに近づいてきます。
こちら側からは、車体の姿は少しも見えません。
見えるのは、ただ激しい雪と煙だけでした。
除雪車がすぐそばまでやってきてピタリと止まったので、一郎は生まれて初めて、除雪車のすごい仕組みをじっくりと見ることができました。
ロータリーの歯車は、ピカピカと光っていました。
雪を最初に力強くかきこむスコップのような部分はものすごく大きくて、まるで電車の前に突き出た「ひさし」のようでした。
一郎は時間のたつのもすっかり忘れて、じっとその姿に見とれていました。
掘出した扇風機
新潟県から東京へ帰ってきてからというもの、一郎はすっかり考え込んでしまいました。
除雪車があんなにも大迫力ですばらしいものだとは、思ってもみなかったからです。そして、強い蒸気の力を借りて、たくさんの雪がみるみるうちに勢いよく吹き飛ばされていく様子を見ていると、地下戦車も絶対に完成させなければならないという気持ちがさらに強くなりました。
「地中を、あのロータリー除雪車をもっと頑丈にしたような機械でどんどん掘り進んでいったら、きっとうまくいくだろう」
一郎は、どうにかしてそういう機械を作ってみたくて仕方がありませんでした。
しかし、機械を作るにはたくさんのお金がかかります。
機関車を1台作るだけでも1万円近くもかかるのです。
1万円なんていう大金を、一郎が自分で用意できるはずがありませんでした。
だから、残念ながら、まずは手近な材料で模型を作ってみるよりほかないと考えました。
さて、模型を作るにしても、やはりそれなりにお金がかかります。
一郎のように貧しい家の子供には、お金がかかることなんてとてもできませんでした。
かといって、このまま指をくわえてじっと引き込んでいるわけにはいきませんでした。
一郎はあれこれと深く思い悩みました。
「いっそのこと会社をやめて、もっとたくさん稼げる仕事をはじめようかしら」
彼は、大発明家エジソンの少年時代のこと思い起こしました。
エジソンの家もとても貧しかったのです。
しかし、少年エジソンは化学の実験が大好きで、もっともっと自分の思うように実験をたくさんやってみたくて仕方がありませんでした。
そこでエジソン少年は、まず新聞を売る仕事(新聞売り子)を始めました。
新聞を売って、それで稼いだお金で楽しい実験に使う薬品を買うことにしたのです。
エジソンは、汽車の中や駅で新聞を売りました。
そのうち、エジソンは自分で新聞を発行することを思いつきました。
そちらの方がもっとたくさんお金を稼げたからです。
彼は汽車の中の一室を、自分の新聞の発行場所にしたのです。
彼の作った新聞はよく売れました。
おかげで、思い通りの薬品を買うことができました。
彼は汽車の中で、化学実験をずっとつづけたのでした。
苦しいけれど楽しい日が、エジソンのまわりにはつづいていたのです。
ある日、汽車が大きく揺れた拍子に、車内の薬品棚からリンのびんが落ちて割れてしまい、たちまちリンは空気中の酸素と結びついて、ボーッと燃え出しました。
火事です!
汽車の中で火事が起きてしまったのです。
火事を起こしてしまったせいで、彼はもう汽車の中で新聞を発行できなくなってしまいました。
――そんな話を、エジソンの伝記で読んだことがありました。
「よし、僕もやってやるぞ!」
エジソンのように、彼も自分の力で働こうと思いました。
そしてもっとたくさんのお金を稼ぎ、もっとたくさんの時間を地下戦車の研究につかえるようにしたいと考えたのです。
小田さんは、一郎の決心を聞いていろいろと止めましたが、一郎の意志はとても固いものでした。
そして彼は、ついに廃品回収の仕事を始めることになったのです。
一郎の母親を説得することは、小田さんにお願いしました。
それは(一郎に言わせれば)とても輝かしい新体制のスタートでした。
廃品回収屋さんといえば、当時は立派な国策にかかわる商売です。
このように物が不足している時期だからこそ、無駄に捨てられようとしている物や、使われもしないで家の中にしまいこまれている物をしっかりと買い集める仕事なのです。
こうして集めた物を、戦争に役立つ新しい材料へと生まれ変わらせるのです。
それはとても立派な商売でした。
ついに一郎は、リヤカーを引いて町へと出かけていきました。
「ご家庭で不要になった廃品はありませんか?
こわれて役に立たなくなったものがあったら、どうか買い取らせてください」
彼は熱心に家々をまわっていきました。
はじめは恥ずかしさもありましたが、慣れてくると「これはなかなか面白い商売だな」と思うようになりました。
そしてある日、こわれた扇風機を買い取ることができたとき、彼は飛び上がらんばかりに大喜びしました。
なぜ、彼はそれほどまでに喜んだのでしょうか?
「すてきだ! このこわれた扇風機を直して、それから改造するんだ。
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