初級翻訳・怪塔王 第57話

怪塔王

俺も共に行く!」
 そう言っているときでした。
天の一角から、ぶうんと怪しい物音が聞こえてきました。まるで腸をかき回すようなその不気味な音は、まさしく怪塔ロケットがこちらへ戻ってきたようです。
塩田大尉ははっとして叫びました。
「おい、小浜兵曹長、それから帆村探偵も戻ってこい! もう丘の上へ行っている暇はない。早く飛行機に乗れ。おい、早くこちらへ帰ってこい!」
 大尉の命令が出たのですから、もう仕方がありません。二人は振り返って戻ってきました。
「あれを見ろ。怪塔ロケットがこちらへ近づくぞ! 早く飛行機に乗り込め。下手をすると、滑走しているうちにこの島が爆破するかもしれない!」
 塩田大尉の命令一下、全員は攻撃機に乗り込みました。
小浜、帆村の二人は、二番機に席を空けてもらって、そこへ乗りました。
プロペラが回ります。
三機の攻撃機は、あざやかな編隊で地上を滑り出しましたが、そのとき怪塔ロケットの驚くほど大きな姿が目の前にありました。

2

 攻撃機は編隊飛行もあざやかに、白骨島を離陸して、空中へと飛び上がりました。
編隊長機からは、塩田大尉が無電を使って、二番機と三番機にひっきりなしに命令を伝えています。「総員、戦闘配置につけ」
 二番機では、無理やり乗り込んだ帆村探偵が、操縦席にすわる小浜兵曹長の後ろで、できるだけ体を小さくして必死につかまっていました。
 激しい風が、帆村探偵の鼻や口を真正面から強烈に押しつけ、その苦しさといったらありません。
「二番機は、丘の上を向こうへ越えて反転し、怪塔ロケットの前面を上空から押さえろ。三番機は、編隊長機につづいて、怪塔ロケットを襲撃!」
 命令とともに、二番機はすぐに編隊の列を離れました。
 そして導火線が埋まっている丘の上空を飛び越えて、やがて鮮やかな反転に移りました。
 そのとき塩田大尉の編隊長機と三番機とは、全力を出し切り、ほとんど垂直に急上昇して、進んでくる怪塔ロケットの上に出ました。
 そこへ怪塔ロケットは、もうもうと白いガスを尾っぽから吹き出しながら、舞い降りてきました。
 黒人が知らせてきたとおり、怪塔王はいよいよ丘の上に近づいて、白骨島を爆破する導火線を磁力砲の力で点火しようという考えのようです。
 タタタタン、タタタタン。
 挑戦するように、上からは編隊長機と三番機による機銃射撃が浴びせられます。
 怪塔王は、ガラス窓のところにものすごい形相の顔を突き出し、叫びました。
「うぬ、邪魔をするか。機銃の弾丸など、何の役に立つものか。この磁力砲でも食らえ!」
 猛烈な磁力を怪塔の先端から放つと、紫色の光がさっと空中を流れて上へ向かいました!
 あぶない、編隊長機と三番機! そのとき、それを待っていましたとばかりに、塩田大尉は「あべこべ砲」のスイッチを入れました。

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 あべこべ砲のスイッチを入れるのがあと少しでも遅かったら、塩田大尉の乗っている編隊長機も、三番機も、翼をもがれて墜落するほかありませんでした。
 しかし一足先に、あべこべ砲が強い磁力の流れを抑え込み、それをそのまま地上へはね返しました。
「あっ、こいつはあぶない!」
 叫んだのは怪塔王です。
 自分の放った強力な磁力が、向こうからはね返ってきて、いましも彼がのぞいていた窓をあっという間にとろとろに溶かしてしまいました。窓には大穴があき、そこから強い風が吹き込んできます。
 塔内の機械がガタガタと鳴り響き、体の軽い怪塔王は吹き飛ばされそうです。
「ううー、なに、負けるものか!」
 怪塔王は歯をくいしばり、さらに下舵をとって怪塔ロケットの頭を下げ、向こうへ逃げようとしましたが、そのときです。
「待っていたぞ。小浜兵曹長はここにおる。青江の敵だ、覚悟しろ!」
 と、小浜機が正面から突っ込んできました。
 怪塔王は磁力砲をそっちへ向けましたが、それはすぐにはね返されてしまいました。
「ざ、残念! わしの発明したあべこべ砲で、こうもひどくやられるとは!」
 怪塔王は真っ青になりました。
 もう逃げる道はないかと下を見れば、ちょうどいい具合に、例の丘の上をすれすれに飛べば向こうへ抜けられそうです。
「うん、しめた。あの道一つだ!」
 舵をひねって、ヒューッと燕(つばめ)のように丘の上へ舞い下がり、いまそこを通り過ぎようとしたその瞬間、丘は天地も崩れるような大爆音とともに爆発してしまいました。
 空は一面、火の塊です。
 下から吹き上げる岩や泥は、まるで噴火山のようでした。
 怪塔の胴中が真っ二つに折れたところだけは見えましたが、それから先どうなったかは分かりません。
 炎と煙とが、すべてを包み込んでしまいました。

4

 怪塔王の最期でした!
 白骨島の爆発は、なおも次から次へと続き、天地はますます暗くなり、地獄のような火が島の上を炎々と焼き焦がしていきます。
 怪塔王の体はおそらく、もう煙になって天へ昇ってしまったことでしょう。
 怪塔ロケットを撃ちまくっていた攻撃機の乗組員たちは、すんでのところで怪塔王のあとを追うところでしたが、正しい者を守る神の力によって、もうすんでのところで難を逃れることができました。
 しかし、さすがの勇士たちも、しばらくはどうやって舵を切ったのか、操縦桿を動かしたのか、誰も覚えていなかったといいます。
 気がついたときは、五千メートルの上空を、くるくると木の葉のように舞っていたということです。
 大爆発とともに、それぞれが空高く吹き上げられたらしく、機体が壊れなかったのが不思議でした。
 なぜあのような大爆発が起きたのか?
 それは怪塔ロケットの放った強い磁力が、あべこべ砲のために跳ね返され、怪塔ロケットが丘を越えるよりも一分前に、すでに導火線には火がついていたからです。
 そして、まさに爆発するその瞬間に、怪塔ロケットが自ら飛び込んでいったのです。
 塩田大尉をはじめ、小浜兵曹長や帆村探偵も、みな無事に艦隊へ帰りました。
 そこには一彦少年が、勇士たちの帰りを待ちかねていました。
 そしてみなみな元気で、凱旋の途につきました。「ねえ、帆村おじさん。どうして大利根博士は、怪塔王なんて恐ろしい姿になって、悪いことばかりしていたんだろう?」
 一彦少年は、甲板(かんぱん)の上に立ち、白骨島にさよならを告げながら、帆村探偵に尋ねました。
「それはね、こういうわけなんだ。
 大利根博士は、今まさに世界をひっくり返そうとたくらんでいる、恐ろしい秘密結社の一員だったのだよ。
 本当に、日本にとっては今にも大変なことが起きるところだったんだ」
 そう言って、探偵は深く大きなため息をつきました。

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