初級翻訳・椋のミハイロ 第2話

プルス ボレスワフ

ただ酒だけは慎むんだぞ。そうして辛抱していれば、またそのうちになんとかいい仕事も見つかるだろう。さあ、一円やるから、いざという時の用意にしておきな。」
ミハイロは一円をもらい、お礼を言って、再び砂を積んだ荷台に乗ると、やがて汽車は出発しました。
道すがら、車掌に尋ねてみました。
「旦那、俺が今まで働いていたあの駅ね、あそこからもう随分と離れたべか?」
「そうだなあ、百五十里か百六十里は来ただろうか。」
「ここから歩いて戻ったら、相当かかるべえかね?」
「そうだなあ、半月はかかるだろうな。」
それを聞いて、ミハイロは急に心細くなってきました。
家へ帰るのに半月もかかる! いったいどうしてこんな遠いところへ来てしまったのか。
やれ、大変なことになってしまったと、ここで初めて気がつきましたが、もう取り返しがつきません。
もっとも、仮に取り返しがついて元の身の上に戻ったところで、少しもいいことなんてないし、もっと悪いことだってあったわけです……そこでゴロリと寝返りを打って、心の中で思いました。
「しかたねえや。」
汽笛が魂を消し去るかのようにものすごく鳴り響いたので、ひょいと外を見ると、向こうにたくさんの家が見えます。
「あれはいったいどこの町だかね?」
と車掌に聞くと、
「あれがワルシャワだよ。」
そう聞くと、また一層心細くなりました。
どうしてこんなところへ来る気になってしまったのだろう?
駅に到着しました。
荷台から降りて、車掌に挨拶をし、きょろきょろとあたりを見回してから、向こうに見える酒瓶の絵看板が出ているお店の方へ歩いていきました。
もとより酒を飲みに行くわけではありません。
そのお店のすぐ近くに工事現場があって、煉瓦職人たちの姿がその前に見えたので、技師の話を思い出して、仕事をさせてもらおうと思ったからです。
煉瓦職人たちはみんな威勢のいい、石灰だらけの若者たちで、向こうから声をかけてきました。
「お前はなんだ? どこの者だ? いったい誰にこんな帽子を作ってもらったんだ?」
などと言いながら、服の袖を引っ張ったり、帽子をスポンと取ってまたポンと被せたりして、散々おもちゃにされてしまいます……ミハイロはおろおろするばかりです。
「どこの者だて聞いてるんだよ?」
「おらはウロコウツキ※の者だがね……」と、ミハイロはまだ目が点になっています。
取り囲んだ職人たちは大笑いしました。
ミハイロも一緒になって大笑いしながら、心の中でこう思いました。
「みんな面白い人たちだ。少しも怖いことなんてねえや。」
ミハイロの罪のない笑い声や、人柄の良さそうな目がみんなの気に入り、からかうのをやめて真面目に事情を聞いてくれました。すると、仕事をさせてほしいと言うので、それなら俺たちのあといて来いと言ってくれました。
「少しばかり抜けてるところはあるが、人柄は良さそうだな。」
と一人が言うと、もう一人が、
「いっちょ働かせてやろうじゃねえか?」
するとさらに別のひとりがミハイロに言いました。
「渡りを付けるだろうな?」
「渡りって何だね?」
「一杯飲ませるのかってことだよ。」
そばから一人が笑いながら言いました。
「酒を振る舞わなきゃ、こっちからゲンコツを振る舞ってやるぞ。」
ミハイロはちょっと考えて、
「振る舞うよりは、振る舞われた方がいいなあ。」
その言い草がみんなの気に入って、帽子の上から軽く二発ほどポンと叩かれて、結局酒のほうはお流れになりました。
こうしてふざけ合いながら工事現場にやってきて、みんな仕事に取りかかりました。職人たちは見上げるような高い足場に上り、娘や子供たちが煉瓦を運びます。
ミハイロは新入りだというので、石灰に砂を混ぜてこねる仕事を言いつけられました。
こうしてついに、煉瓦職人の見習い(手間取り)になったのです。
翌日、手伝いの娘が一人つけられました。
やはりミハイロ同様の貧乏人で、古ぼけた頭巾に穴の開いた腰巻、それに肌着を着ているだけで、それが身上すべてだという有様でした。
肌が浅黒く、痩せっぽちで、ちょっと鼻が上を向き、額がへっこんだ、なかなかに不器量な娘でしたが、ミハイロは女性に対して贅沢を言わない人間なので、この娘が道具を持ってそばにやってきた時からすっかり気に入ってしまい、頭巾の陰からチラッと顔を見られた時には、なんだかボーッとした心地になりました……。
はて、頼りない身の上なのは自分ばかりではない。一人ぼっちが二人集まれば、もう一人ぼっちじゃないってもんだ、というような気分にもなってきます。
だんだんと大胆になっていき、しまいには身の上話を始めました。
「お前はどこの人だかね? ワルシャワの人かい、それとももっと遠くの人かい? いつから煉瓦積みの仕事をするようになったのけ?」
などと話しかけるのがきっかけとなり、最後には調子に乗って踏み込んでしまいました。
「何も心配しなくていいんだぜ。俺があなたの分までしっかり稼いであげるからさ。」
なるほど、汗だくになりながら自分ばかりが働き、娘にはほんの上っ面を撫でるように軽くこねさせるだけで、周囲の目をうまく取り繕っておくのでした。毎日こうして二人で一緒に働いていましたが、時々、臨時の手伝いにやってくる職人がいました。
この男が手伝いに来ると、決まって娘を怒鳴りつけ、そのうえミハイロをからかうのでした。
ミハイロは夜になると、工事現場の小屋の隅で寝るようにしていました。
安宿に泊まるほどの贅沢はできませんし、手伝いの娘はほかの娘たち連れ立ってどこかへ帰っていきます。時には、例の意地悪な職人と一緒に帰っていくこともありました。
それなのにその職人は、娘を口で叱るだけでなく、機会があれば乱暴を働くこともしばしばでした。
「どうしてあんなに目の敵にするんだろう?」とミハイロは不思議に思い、できるだけ娘を助けてあげようとしていました。
娘の分まで働いてあげるだけでなく、朝食のパンも半分分けてやり、昼食には決まって何か温かいものを二銭ほど買って与えていたのです。
娘はいつも一文無しでした。
ミハイロ自身も煉瓦を運ぶ仕事を言いつけられるようになると、現場の番頭が厳しいため、もう娘の分まで働いてやることはできなくなりましたが、その代わり、娘が途中で躓きはしないか、煉瓦の重みに押しつぶされはしないかと、始終そんなことばかり心配していました。
その様子を例の意地悪な職人が見とがめて、二人のことをあれこれと言ってはからかい、仲間たちに言いふらすのでした。
仲間たちも笑いながら、
「おい、椋、しっかりやれよ!」
と、足場の上から声をかけてくるのです。
ある日の昼時、意地悪な職人が娘を日陰へ呼び出して、何やら荒々しい声で言い寄っていることがありました。
すると、娘が涙を流しながらミハイロのところへやってきて、十銭ばかり貸してほしいと言うのです。
ほかならぬ娘の頼みです、聞いてやらないわけにはいかないと、ミハイロは財布の紐を解き、稼ぎためた金の中から十銭銀貨を一枚取り出して渡してやりました。
その十銭を娘は意地悪な職人に渡したのですが、それをきっかけに、娘は毎日必ずいくらかずつお金をねだってくるようになったのです。

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