初級翻訳・榎物語 第3話

榎物語

これより前、私はあの百両の大金を、伊豆の湯治場を遊び回った際にも、わずか十両ほどしか使いませんでした。ほとんどそのまま所持していたため、この寺に来た際にも隠し場所に困っていましたが、今も寺の表惣門の脇に立っている大きな榎の木に目をつけました。夜中にこっそりと木に登り、幹の穴の中に金を隠しておいたのです。

さて、先代が亡くなった後は私が住職の身ですので、出歩くのも自由気ままです。夜中に再び人知れずあの木に登り、九十両のうち四十両ほどを取り出し、残りの五十両はそのまま幹の穴に残しておきました。その四十両を使って一時、妾を囲って淫らな生活に耽りましたが、その妾も数年で病死し、続いて先代住職の形見であった妻も病気がちで、同じくこの世を去りました。

その頃には私もいつの間にか四十歳を過ぎていました。檀家からの評判も極めて良く、近郷の百姓たちも皆、私のことを名僧知識のように敬い尊ぶようになっていました。「知らぬが仏」とは、まさにこのことでしょう。

それにつけても月日が経つにつれ、あの溜池で私の手にかかって死んだ得念のことや、百両の財布を落とした侍のことが、折々夢にも出てきます。所用で江戸へ行くたびにそれとなく情報を探ってはいますが、これといった噂も聞かず、様子は全く分かりません。そのため、次第に安心できるようになってきたのが現状です。

なお、かつて私が寄宿していた芝の青樹院の様子についてですが、後で聞き及んだところによれば、私が突然行方不明になったため、学寮では心当たりのある場所をすべて問い合わせても全く分からず、「殺されたのか、あるいは神隠しにでも遭ったのか。いずれにせよ不憫なことだ」と噂されたそうです。雲石師は私の出奔した日を命日と定め、寮内に墓まで建ててくださったとのことでした。

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