その原則外の、非合法な一人がいたのだ!」
そう言い捨てると、司法主任は急いで駅長に向かって叫びました。
「N駅へ、その男の逮捕を打電してください。もう機関車はN操車場に着いているはずだ……!」
すると、今まで黙っていた喬介が、突然吹き出しました。
「……冗談でしょう。内木さんにも似合わない傑作ですよ。ねえ。もしも私がその場合の犯人だったとしたら、N駅に着く前に機関車を乗り捨てて、疾(と)うの昔に逃げ出していますよ。いや、全く、あなたの意見は間違いだらけだ。
例えば、最初から犯人が被害者の二人と一緒に乗っていたとしましょう。第一の死体の凶器である、昨日まで線路の修理に使われ、当駅の道具置き場にしまわれていたあのバチ形ツルハシを、犯行後に機関車の中からランプ室と石炭の山との間の狭い地面へ投げ捨てることはできるとしても、一体、どこからそいつを手に入れることができたと言うのですか。
そして、仮にそれができたとしても、犯人は何の必要があって、わざわざ当駅で停車中に二人もの人間を殺さなければならなかったのです。犯人が機関車に乗っていたのなら、何もこんなところで殺さなくても、あの吹雪の闇を疾走中に、もっと適した殺害場所がいくらでもあったはずではありませんか。
……いや、この事件は、今あなたが考えているよりも、もう少し面白いものらしい。そしてそのことは、非常にたくさんの謎が証明してくれます。例えば、この第一の死体の奇妙な硬直姿勢、バチ形ツルハシの柄先の不可解な穴、タンク機関車73号の急激なスタート、さらに二つの死体に与えられた凶器がそれぞれ異なっていること、等々です。
ここで一つ、手近なところから片付けてみると、二つの死体に異なる凶器が使われたという事実は、まず犯人が時間をずらして二人を殺したか、あるいは何らかの方法で同時に殺したか、という二つの可能性から見ることができます。
ところが――前者は、第二の死体から流れ落ちた血の雫が、最初の死体の置かれた地点から始まっていること、この地点での機関車の停車時間は決して長くなかったこと、そして死体検査による死亡推定時間が一致すること、これらによって否定されてしまいます。
したがって、殺害は同時になされたことになります。すると、短い停車時間で、ほぼ同時に二人の人間をそれぞれ別の凶器で殺すためには、犯人が二人いるか、あるいは一人で何らかの特殊な方法を使ったか、という二つの分岐点に再び行き着きます。
……ここで私は、もう一つの謎をこれに結びつけてみる。すなわち、あのバチ形ツルハシの柄先にあった、奇妙な穴のことを思い出すのです」そして、ひとまず犯人は一人であると仮定し、その一人の犯人が、二人の殺害に際して必ず行わなければならなかったであろう「カラクリ」、すなわち凶器の特殊な使用方法について、私は今までずっと考え続けていたのです。
その結果について申し上げる前に、少し駅の方へ注意を向けさせてください。犯人は一人であり、しかも機関車がこの地点へ来て停車した時に殺害の目的で乗り込んだのと同様に、犯行後、再びこの場で機関車から離れました。
つまり――タンク機関車73号が、西方へ向かってこの地点を急速度で発車した時には、既に犯人は73号に乗っていなかったのです」
すると、今まで黙って喬介の説明を聞いていた助役が、急に吹き出しながら言いました。
「そ、そんな馬鹿なことはない。もしもそうとすれば、機関車は独りで疾走していったことになる……。と、とんでもないことだ!」
そして助役は、心持ち顎を突き出し、眼玉を大きく見開いて、少し喬介を軽蔑するようにして見せました。しかし、その顔色は恐ろしく青ざめていました。
四
駅長も、助役と同じように喬介の言葉には驚いたようで、ひどく心配そうに青白い顔をして、まるで亀の子のように大きなオーバーの中へ首や手足をすくめるようにしていましたが、間もなく駅舎の方へ歩いていきました。
喬介は、一向に平気で、極めて冷淡な語調で再び助役に向き合いました。
「ときに、当駅に73号と同じ形式の機関車はありませんか?」
すると助役は、少し不機嫌そうに答えました。
「ええ、そりゃあ、仕別線路の方には二両ほど来ていますがね……一体何ですか?」
「実地検証です。是非、一両貸していただきたい。この一番線へ、当時の73号と同じ向きで寄越してください」
助役は「ケテン」とした顔をしながら出かけていきました。
間もなく、2400形式のタンク機関車が、蒸気弁から激しい蒸気を漏らし、連結棒やクランクをガチンガチンと鳴らしながら、下り一番線上を西に向かって私たちの前までやって来ました。
そこで喬介の指図に従って、路面上の血の滴の列の起点の上へ、ちょうど操縦室の降り口の床の端が来る位置に機関車が止まると、喬介は給水タンクの線路側の梯子を真ん中あたりまで登っていきました。そして、そこにタンクの横腹から突き出している、直径1センチ、長さ60センチほどの鉄棒を指差しながら、下を振り返って助役に言いました。
「これは何ですか?」
「あ、それは、今あなたの前にタンクの開弁装置へ続く長い鎖が下がっているでしょう。その鎖の支棒として以前使われていたものです」
「なるほど。ところで、ついでにひとつ、そのバチ形ツルハシを取ってくれませんか」
助役は震えながら、その通りにしました。
喬介はバチ形ツルハシを受け取ると、その柄先の穴を、例の鉄棒の先に充てがってグッと押しました。するとスッポリと収まり、バチ形ツルハシは鉄棒へぶら下がりました。
次に喬介は、少しずつ梯子を登りながら、バチ形ツルハシの柄を持って、先の穴を中心に回転させました。やがてそれが刃を上にしてほとんど垂直に近い状態までなると、ちょうどそこに出ているもう一本の別の錆びた鉄の支棒の先に、その柄元を少し引っ掛けました。
そして最後に、開弁装置へ続く鎖の、ちょうど第二の鉄棒に当たる位置に縛り付けてある、太くて短い妙に曲がった針金を、同じ鉄棒の中ほどへ引っ掛けました。
それらの準備が終わると、喬介は梯子を降りてきて、今度は規定の位置に停車している機関車の操縦室へ乗り込みました。そこから投炭用のスコップを持ち出すと、地面へは降りずに、ボイラー側のサイド・タンクに沿って框(かまち)の上を歩き、給水タンクの梯子と向かい合うところまで行くと、ウンと力んで片足を給水タンクの足場へ掛け、機関車と給水タンクとの間へ大の字に跨りました。
「さて。これから始めます。まず私を、この事件における不幸な第一の被害者、土屋良平君と仮定します。そして、タンク機関車73号に給水するため、土屋君は頭上に恐るべき装置があるとも知らず、この通りの姿勢をとって、ここにぶら下がっているこのズック製の呑口(飲み口)を、こちらの機関車のサイド・タンクの注入口へ向けて充てがい、給水タンクの開弁を促すために右手でこの鎖を握り締め、この通りグイと強く引っ張ります――」
喬介は本当に鎖を引っ張りました。
するとバチ形ツルハシは恐ろしい勢いで、柄先を中心に半円を空に描きながら、喬介の後頭部めがけて落ちてきました。
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