初級翻訳・水中の宮殿 第8話

水中の宮殿

生きるも死ぬも一緒だ」
「お兄様!」
「燿ちゃんは左から、綾子さんは右から、僕のベルトを掴むんだ。絶対に手を離してはならないぞ。――そして、できるだけ底の方を潜るんだ。水は隧道の天井すれすれまで来ているから、天井に吸い寄せられたら大変だぞ」

「大丈夫よ、お兄様」
「よし、それじゃあ潜るぞ!」

 水泳の名手・翠川健一は、二人の少女を腰にぶら下げて、渦巻く水の中へ魚のように飛び込みました。目標は、前方のほのかな光です。何十メートル先かは分かりませんが、岩をくり抜いた隧道の壁にぶつかりながら、健一は必死に手足を動かしました。三十分……いや、実際にはほんの三分ほどでしたが、まるで三十分も三時間も潜っているかのような苦しさに耐えながら、闇雲に前へ、前へと進んでいきました。両隣の二人の少女は、健一の邪魔をしないよう必死でしたが、水泳の専門家と一緒に潜り続けるのはやはり無理があったのでしょう。時折水を飲み込み、ベルトを掴む手が緩みそうになります。しかし、水の中では三人を導くはずの明かりは、先ほどと変わらずぼんやりとしたままです。

健一にも、いよいよ最後の力が尽きかけていました。その時、右側のベルトを掴んでいた綾子が、力尽きたのか、健一にもはっきりと分かるほど水中で激しくもがきました。そして、不意にベルトから手を離し、スーッと上方へ浮き上がっていったのです。

危ない! 水中では声を出せませんが、健一は驚いて彼女を追いかけました。もはや体力の限界を超えており、健一ほどの屈強な若者であっても、これ以上の我慢は不可能でした。

「あッ!」

健一は思わず声を上げました。
身体を浮かせてみると、いつの間にか顔が水面から出ており、爽やかな夜の空気を胸いっぱいに吸い込んでいたのです。木立の陰に隠れた月の光が、美しく輝いていました。

健一は急いで燿子を引き上げながら、片手を使って必死に泳ぎました。幸いなことに、すぐそばには半死半生の綾子も浮かんでいます。

「助かった……!」

幸い川の淵にいたため、岸まではそう遠い距離ではありませんでした。健一はまるで俵を運ぶように、二人の少女を岸へと担ぎ上げました。

燿子と綾子は、泥水を深く飲み込んでしまったため、三日間はしっかりと休養しなければなりませんでした。その間、健一は持ち前の元気さで、東京から駆けつけた作業員たちを指揮し、一度壊された堤防を再び築き上げ、隧道(トンネル)の中から水を汲み出しました。

隧道の中で落としてしまった銅板の絵図面は、幸いにも出口近くの泥の中に沈んでおり、何の問題もなく健一の手元に戻りました。しかし、綾子と燿子が元気を取り戻すまでは、さすがに一人で隧道の奥深くまで探検することもできません。

仕方なく、河床を掘り下げたり、隧道の入り口を広げたり、堤防を補強したりと、懸命に働く作業員たちを監督しながら、健一が辺りをぶらぶら歩いていると、岸の柳の木陰で釣り糸を垂れていた男が、人目を避けるようにそっと手招きをしました。

「私でしょうか?」
「ええ、少しお話ししたいことがありましてね。まあ、こちらへ腰を下ろしてください。釣りながらお話ししましょう。この辺りはよく釣れますよ」

紫外線よけの黒いロイド眼鏡をかけ、だぶだぶの洋服を着て、ヘルメットを被った男は、そんな調子で話し始めました。
「どのようなお話でしょうか。私はあなたを存じ上げないのですが……」
健一はすっかり用心深くなっていました。

「知らなくて構いませんよ。私は東京の学校に勤めている者で、夏休みを利用して東北の川や湖を釣って回っているのです。……実は、二、三日前の夜、この堤防をせっせと壊している男の姿を見かけたのですよ。君はこの工事を監督しているようですから、一言注意しておこうと思いましてね」

「どんな男です、その堤防を壊していたというのは?」
健一も息を呑んで聞き返しました。

「顔色の青白い、ハイカラな若い男ですよ。面長で、少し受け口で、髪の毛をトンボの目玉のようにテカテカと光らせた男です……」
「あッ、あの男のことか!」
「知り合いですか?」
「いえ、見かけたことのある人間です」

「いずれにせよ、油断は禁物ですよ。あなたや妹さんたちの身辺には、絶えず何者かがつきまとっているようですからね。……いや、余計なことを言ってすみません。私は黙って鱒(ます)でも釣っていればいいのですが……。この辺りには、真夏の暑い日の夕方になると鱒が浮いてきます。もっとも、こんな釣り竿では無理ですがね。手網があれば捕れるでしょう」

釣り好きらしいそのヘルメットの男は、そう言うと、水面の浮きの動きにじっと見入りました。まだ三十代でしょうが、日に焼けて渋紙色の肌をしており、どこか知的で独特な話し方をする、この辺りには滅多にいない不思議な人物でした。

健一は何となく胸が圧迫されるような思いを抱き、礼を言ってその場を離れました。小屋へ戻ると、綾子も燿子もすでに起き出し、お高さんを相手に昼食の支度をしていました。

「お兄様、大変な人が来ましたよ」
健一の姿を見るなり、燿子が飛び出してきてそっと囁きました。
「どうした、燿ちゃん」
「唐崎商事の社長と秘書よ。……その秘書っていうのが、仙台で撒いたあの変なハイカラさんなの。一週間も前から、この辺をうろついているでしょう?」

あのトンボ頭のハイカラ男なら、先ほど釣り紳士が堤防を壊したと教えてくれた曲者に違いありません。もしかすると、書生の花井を刺したのも同じ人間かもしれません。

健一は難しい交渉になることを覚悟し、小屋の中の居間とも客間ともつかない六畳間の扉を押し開けました。

「やあ、君が翠川君か。待っていたぞ。……御存じだろうが、私は唐崎荘之介、この平泉発掘事業の投資者だ。一緒に来たのは秘書の杉村三五郎君。どうぞよろしく」
「…………」

健一は黙って挨拶を交わすと、古風な頬髭を蓄えたその実業家の向かい側に腰を下ろしました。窓の外では青葉を揺らす風が吹き、小屋の中はまるで海底のように深い緑に包まれていて、本来ならとても爽やかなはずなのですが、部屋の中には古びた沼地のような、澱んだ重苦しい空気が漂っていました。

「ところで、立花博士が亡くなった今、半分出資している私がこの事業の継承者だ。早速引き渡してもらいたい。ついでに、近頃手に入ったという銅板の絵図面も、当然の権利として私が受け取ることにする」

唐崎荘之介は高飛車な態度でした。相手をまだ子供だと侮り、一気に物事を片付けてしまおうと考えたのでしょう。

「私は法律のことは詳しくありませんが、立花博士が亡くなった以上、事業は当然、相続人である綾子さんが継ぐはずです。綾子さんの後見人が誰になるかは、いずれ決まるでしょう。不服があるのなら、どうぞ顧問弁護士と話し合ってください。そのような理由では、銅板をお渡しすることはできません」

健一も決して引き下がりません。水の覇者と称えられた一流の選手だけあって、その気迫は並大抵のものではありませんでした。

「そんな馬鹿なことがあるか。この事業、一体誰が金を出して継続させていると思っているんだ。私への断りもなく!」
「私の父です。翠川健太郎です。

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