初級翻訳・海底大陸 第23話

海底大陸

真空管が光り、送風機が回り出し、細かいセグメント(区切り)をもった救難信号筒が回転を始めると、コチコチと自動的に電鍵が打ち込まれていきます。
「よし、うまくいったぞ。この救難信号を誰かが受信してくれたら、我がメリー号は助かるに違いない」
クーパー事務長のもとへは、さっそくこのことを報告しておきました。
クーパーは喜んで、「うむ、うまくいった。海底超人たちはまだ気づいていないようだ」と言ってから、急に声を落としました。
「今、左舷の後方に『鉄の水母』が浮かんでいるのだ。見てごらん、黄色い灯をつけているから。あの鉄の水母を、どうにかして捕まえてやらないと気が済まない」
そう言っているうちに、真っ暗な空の一角から、ゴーッという激しい爆音が聞こえてきました。
飛行機の音に違いありません。
その轟音は、みるみるうちに近くへ迫ってきました。そして、爆音がますます大きく聞こえてくる様子を見ると、かなりの数で飛来しているらしいことがわかります。
これを聞きつけたのはクーパー事務長でした。彼は喜びの声を上げ、同じ室内の長椅子に横たわっていた老船長をゆり動かしました。
「船長、あの爆音が聞こえませんか! たくさんの飛行機がやってくるようです。きっと、先ほど打った救難信号を聞きつけたのに違いありません」
そう言われると、老船長も長椅子の上からむっくりと起き上がり、「なんと、飛行機だと? 一体どこの飛行機だろうか」と問いかけました。
そうこうしているうちに、爆音はもう頭上まで迫っていました。
すると、パーッと目をくらませるような光弾が空中に打ち出されました。
一発、また一発。あとからあとへと空中へ放たれる光弾は、だんだんと数とまぶしさを増し、周囲の海面はまるで昼間のように明るくなりました。
そのとき、室内の電話がジリジリと鳴りました。
クーパーが飛びつくようにして受話器を取ると、パイクソンの声が聞こえてきました。
「やあ、万歳です! 我が英国空軍から連絡がありました。徹底的に救援するから安心しろとのことです!」
それを聞いて、クーパーは飛び上がって喜びました。
「そうか! では空軍へすぐさまこう伝えろ。『海底超人の王子ロローなるものが、今本船の左舷後方にいるから、捕虜にするように』と打電するんだ。すぐやるんだぞ!」
「心得ました!」
パイクソンは短い返事をして、すぐさま送信機に向かい、クーパーから言いつけられた通りに打電しました。
海底超人たちは、そんなこととは露知らず……。

おびただしい光弾に照らし出された、ボロボロのクイーン・メリー号!
その甲板の上には、ぶよぶよした大きな丸い頭が二、三百も集まり、吐き気を催すほどの不気味な光景をさらして、ごった返し、もみ合っていました。
「おい、変なことになってきたぞ。どうしようか」
「船を返してやったのに、なんだか穏やかでないことをやり始めたぞ」
「ロロー殿下に相談してみよう。その上で我々の態度をはっきり決めようではないか」
海底超人たちは、口々にそんな意味のことを叫び合っていたのでした。こちらは事務長のクーパーです。
彼は船底の無線室にいるパイクソンを励まし、船外との無線電話を事務長室から送受信できるように電気回路の接続を切り替えさせました。
それがうまく開通すると、彼はさっそく救援に駆けつけてくれた空軍と連絡をとりました。
「えっ、あなたはラスキン大尉!」クーパーは驚いて声を大きくしました。
「ああ、お懐かしいことです。
私は事務長クーパーですよ。
あなたの家と私の家とは、同じグラスゴー市のスター街に向かい合っていましたね。
よく来てくださった……」
ラスキン大尉は、機上からクーパーたちを勇気づけ、
「今度こそは『鉄の水母』も、それから、その眷属だという怪しい生物も、いっしょにやっつけてしまいます」
と、勇ましい口調で言ってから、こう続けました。
「しかし、困ったことに機上から見ると、その怪物どもは甲板にうようよしているばかりで、逃げ出さないのですよ。
このままでは、まさか爆撃するわけにもいきませんね」
「しかし、ラスキン大尉。
なんとかして、この怪物どもを甲板から追い払ってください」
「では、やむを得ません。
非常手段を用いましょう」
「えっ、非常手段。
空中から本船を爆撃するのじゃありませんよね。
そんなことをすると――」
「もちろん、せっかく戻ってきたメリー号を破壊するようなことはしませんよ。
催涙液を空中から撒きます」
「催涙液? ああ、あの液のことですね」
「そうです。
ですから船員や乗客たちは、少しも早く船内に避難するように伝えてください。
そして戸などを固く閉じて、液やその怪物が船内に入り込まないようにするのです。
よろしいか」
「ああ、よくわかりました。
ではあと十分以内に、総員を船内に避難させます」
空中から甲板に向かって液を撒くとは、たいへんいい考えだ。
これで安全性が増えると、クーパーは有頂天になって喜びました。
ただちに、船内くまなく警報が発せられました。

準備時間の十分間は、早くも過ぎ去りました。
クイーン・メリー号が海上に出たというので、嬉しさのあまり恐ろしいことも忘れて甲板に出ていた人たちの間を縫って、避難の密令が伝えられ、一同は急いで船内に戻ってきました。
そしてドアを固く閉ざし、今度は甲板上の怪物がどうしても入り込めないようにしたのです。
マルラ秘書は数名の屈強な船員をひきつれ、いつの間にかクーパーのところへ帰ってきました。
そして、籠城作業をきびきびとやってのけました。
「クーパー事務長、これだけしておけば、もう大丈夫です」
と、ドアのところへ立てかけたベッドや重い長椅子などを指して、自信ありげに目を輝かせました。
クーパーは、外に締め出された海底超人がこれからどんな騒ぎを演じるだろうかと、気が気ではありません。
窓はすべて内側から、棒と書籍と布団とで補強しておきましたが、そのうちの一つがわずかに隙間を残しており、ガラス越しに光弾の下で青白く光る甲板がそこから見えました。
クーパーは、生唾を飲み込んで、成り行きを見つめていました。
催涙液が空中から降ってきたのは、それからものの五分と経たない後でした。
十数台もの飛行機が轟々たる爆音を上げ、マストにぶつかりそうな低空飛行で通り過ぎたかと思うと、しばらくしてから、待ちに待った騒ぎが起こったのです。
砂糖の周りに寄り集まっていた蟻の大群の上へ、冷たい雨だれがぽつんと落ちてきたときの騒ぎのように、甲板の上にかたまっていた海底超人たちが、にわかに上を下への大乱闘を始めました。
上に飛び上がる者、走って煙突にぶつかる者、組み合ったまま転げ回る者、丸い頭をまるで振り子のように揺り動かす者――いや、たいへんな騒ぎです。
さだめし、キーキーと声を立てていることと思いますが、窓がみな厳重に塞がれているので、クーパーの耳には何も聞こえません。
ぶよぶよした坊主頭の上には、しだいに濃い褐色の霧が降りてきました。
飛行機から放出した催涙液が、どんどん落ちてくるのです。
坊主頭の上には、見る見るうちに黒ずんだ汚いシミが目立ってきました。
醜怪な触手のようなものが幾本となく坊主頭を刺しているようです。

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